漫画(ジャンプ系)
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「ウタはまだ生きている!」
雑踏の中、店と店の間に立ち声を張っている男が居た。昼どきを過ぎて果物屋の店番ながらも暇でうたた寝していた私は跳ね起きる。足元にいくつも置かれた音貝からは、録音に録音を重ねたらしい「新時代」が割れた音で流れている。彼女の遺した楽曲については、いかんせん出回っている媒体の数が多すぎることや、道行く子どもが歌っていることまで規制するにはとても手が追いつかず、また得策ではないと海軍や世界政府は考えたのだろう。ある程度静観の姿勢をとっているだろうがさすがにこれは目に余るだろう。口角泡を飛ばして男は熱弁する。乾燥した地面の砂が巻き上げられているが、男がまばたきをする様子はない。通行人は彼の存在をいないがごとく無視するか、目が合わない程度にちらりと見て歩く速度を早めるかだ。ひとつひとつ手で再生されたのだろう、流れている旋律は少しずつずれてちぐはぐになっていた。
「ウタの死体を見た者はいるか? 世界政府や海軍がウタのライブに箝口令を敷いているのはまだ彼女がどこかで生きていて、次の機会を狙っているからではないか」
興奮してどんどん早口になっていく男に、どやどやと海軍が向かってきた。元々目をつけていたのか、それとも善良な市民が通報をしたのか。きっと後者だろう。ひょろひょろとした男が屈強な海軍たちに敵うはずもなく、すぐに取り押さえられる。それでも噛みつかんばかりの勢いで男は怒鳴る。
「このように海軍が私を取り押さえるのが何よりの証拠ではないか!」
「黙れ!」
どす、と重い音がした。私は思わず身を縮める。男の顔を海兵が殴りつけたのだ。男の大声に煽られた海兵は更に拳を振り上げる。
「やりすぎです」
静かな声がその場に響いた。興奮していた海兵たちがバッと姿勢を正す。海軍制服のコートを着ていないのは非番だったからだろうか、しかしその顔は広く知れ渡っていた。
「コビー大佐、しかし……」
今しがた男を殴った海兵が、自分より年下であろう青年に食い下がる。そうだコビーだ。海軍の英雄でウタのライブでも活躍したとかいう。青年は静かに、でも毅然とした態度で海兵の言葉を遮る。
「ほとんど丸腰の一般人に寄ってたかって暴力を振るうのが海軍の仕事ではありません」
英雄はいつでも英雄であるのか、と私は感心しながら野次馬をする。非番らしい大佐にわざわざたしなめられた海兵たちがたじろいだ隙に男が押さえられていた腕を振りほどく。そして叫びながら細いナイフを取り出して振り回し、大佐に襲いかかろうとした。
「そもそもお前があんな事を言わなければ……!」
しかし、男の雄叫びが途切れて、ナイフが地面に落ちる軽い音がした。目にも止まらぬ速さで叩き落されたのだと、一拍遅れて理解した。
「あなたも、少し落ち着いてください」
「お前が何も言わなければ、ウタはあのまま、あのまま新世界に連れて行ってくれたんだ」
「ぼくにはそれが、正しいことだとは思えません」
先程と変わらぬ落ち着いた声で、大佐の青年は男の腕を掴んでいた。咄嗟に対応できなかった他の海兵たちが改めて男を取り押さえ、連れて行く。男はまだ何かを主張していたが、遠くなるにつれて何を言っているのかはわからなくなる。それを硬い視線で見ていた青年は、ふうと息を吐いて服が汚れることにも頓着せずに地面に膝をつき、男の残した音貝を丁寧に一つ一つ回収していった。その脇を子どもたちが駆けていく。少し調子の外れた「新時代」を歌いながら。立ち上がり、その背中を見送った青年の表情が少し和らいだのを私は見た。海軍といえど様々な人間がいるものだ。きっと個人個人では別にあの歌姫に悪い感情は抱いていないのだろう。不躾に見ていたものだから、こちらの視線に気がついた青年が慌てた様子で頭を下げてきた。
「お騒がせしました」
その腰の低さに今度は私が慌ててしまう。大体の海兵はよく言えば気さく、悪く言えば横柄な者ばかりだからだ。
「いえあの、お疲れ様です」
私は反射的に立ち上がって恐縮する。立ち上がったあとで、間が持たないことに気が付く。あの、と私は彼から目をそらして、並んでいる果物たちに視線を落とした。
「何か好きなもの持っていってください」
しがない果物屋ですけど、と私は笑って見せた。きっとこういうのにも英雄は慣れているのだろう。そんな私の予想に反して、青年は姿勢を正して私よりも恐縮した。
「じゃあその……オレンジを」
ありがとうございます、と遠慮がちだけど歯を見せて笑った笑顔は思いの外幼くて、自分よりも年下ではないかと思えた。
雑踏の中、店と店の間に立ち声を張っている男が居た。昼どきを過ぎて果物屋の店番ながらも暇でうたた寝していた私は跳ね起きる。足元にいくつも置かれた音貝からは、録音に録音を重ねたらしい「新時代」が割れた音で流れている。彼女の遺した楽曲については、いかんせん出回っている媒体の数が多すぎることや、道行く子どもが歌っていることまで規制するにはとても手が追いつかず、また得策ではないと海軍や世界政府は考えたのだろう。ある程度静観の姿勢をとっているだろうがさすがにこれは目に余るだろう。口角泡を飛ばして男は熱弁する。乾燥した地面の砂が巻き上げられているが、男がまばたきをする様子はない。通行人は彼の存在をいないがごとく無視するか、目が合わない程度にちらりと見て歩く速度を早めるかだ。ひとつひとつ手で再生されたのだろう、流れている旋律は少しずつずれてちぐはぐになっていた。
「ウタの死体を見た者はいるか? 世界政府や海軍がウタのライブに箝口令を敷いているのはまだ彼女がどこかで生きていて、次の機会を狙っているからではないか」
興奮してどんどん早口になっていく男に、どやどやと海軍が向かってきた。元々目をつけていたのか、それとも善良な市民が通報をしたのか。きっと後者だろう。ひょろひょろとした男が屈強な海軍たちに敵うはずもなく、すぐに取り押さえられる。それでも噛みつかんばかりの勢いで男は怒鳴る。
「このように海軍が私を取り押さえるのが何よりの証拠ではないか!」
「黙れ!」
どす、と重い音がした。私は思わず身を縮める。男の顔を海兵が殴りつけたのだ。男の大声に煽られた海兵は更に拳を振り上げる。
「やりすぎです」
静かな声がその場に響いた。興奮していた海兵たちがバッと姿勢を正す。海軍制服のコートを着ていないのは非番だったからだろうか、しかしその顔は広く知れ渡っていた。
「コビー大佐、しかし……」
今しがた男を殴った海兵が、自分より年下であろう青年に食い下がる。そうだコビーだ。海軍の英雄でウタのライブでも活躍したとかいう。青年は静かに、でも毅然とした態度で海兵の言葉を遮る。
「ほとんど丸腰の一般人に寄ってたかって暴力を振るうのが海軍の仕事ではありません」
英雄はいつでも英雄であるのか、と私は感心しながら野次馬をする。非番らしい大佐にわざわざたしなめられた海兵たちがたじろいだ隙に男が押さえられていた腕を振りほどく。そして叫びながら細いナイフを取り出して振り回し、大佐に襲いかかろうとした。
「そもそもお前があんな事を言わなければ……!」
しかし、男の雄叫びが途切れて、ナイフが地面に落ちる軽い音がした。目にも止まらぬ速さで叩き落されたのだと、一拍遅れて理解した。
「あなたも、少し落ち着いてください」
「お前が何も言わなければ、ウタはあのまま、あのまま新世界に連れて行ってくれたんだ」
「ぼくにはそれが、正しいことだとは思えません」
先程と変わらぬ落ち着いた声で、大佐の青年は男の腕を掴んでいた。咄嗟に対応できなかった他の海兵たちが改めて男を取り押さえ、連れて行く。男はまだ何かを主張していたが、遠くなるにつれて何を言っているのかはわからなくなる。それを硬い視線で見ていた青年は、ふうと息を吐いて服が汚れることにも頓着せずに地面に膝をつき、男の残した音貝を丁寧に一つ一つ回収していった。その脇を子どもたちが駆けていく。少し調子の外れた「新時代」を歌いながら。立ち上がり、その背中を見送った青年の表情が少し和らいだのを私は見た。海軍といえど様々な人間がいるものだ。きっと個人個人では別にあの歌姫に悪い感情は抱いていないのだろう。不躾に見ていたものだから、こちらの視線に気がついた青年が慌てた様子で頭を下げてきた。
「お騒がせしました」
その腰の低さに今度は私が慌ててしまう。大体の海兵はよく言えば気さく、悪く言えば横柄な者ばかりだからだ。
「いえあの、お疲れ様です」
私は反射的に立ち上がって恐縮する。立ち上がったあとで、間が持たないことに気が付く。あの、と私は彼から目をそらして、並んでいる果物たちに視線を落とした。
「何か好きなもの持っていってください」
しがない果物屋ですけど、と私は笑って見せた。きっとこういうのにも英雄は慣れているのだろう。そんな私の予想に反して、青年は姿勢を正して私よりも恐縮した。
「じゃあその……オレンジを」
ありがとうございます、と遠慮がちだけど歯を見せて笑った笑顔は思いの外幼くて、自分よりも年下ではないかと思えた。
