吸死
ふあ、と私はついあくびをひとつする。夜勤のシフトは眠い。この街は深夜のコンビニでも、吸血鬼が来たりするから案外客入りがある。でも今は波が途切れて暇だ。先輩もバックヤードで休憩してるし。店内にいるのは私と、サングラスをかけた男の客だけだ。
ううん、と伸びをしかけたところで自動ドアが開いた音がした。慌てていらっしゃいませ、と声をかける。丈の長い上着を着て、漫画のキャラクターのように髪を逆立てている。奇抜な恰好だけど、長い前髪からのぞく太めの眉と不思議に光を反射しているつり目が結構好みかもしれない。彼はずかずかとイートインスペースに腰かけて、ばっと上着をはだけた。そしておもむろに充電コードを取り出し接続して、自分の乳首を充電器のクリップに挟み込んだ。
「ンアーーーーーー!」
「いやなんで!?」
あまりに躊躇のない、流れるような動作だったので思わず見届けてしまった。意味が分からない。しばらくして落ち着いたのか、喘ぎ方は多少控えめになったがそれでもうるさい。先輩が休憩から帰ってくる様子もない。よっぽど見ないふりをしようかと思ったが、一応他の客もいるので、私はレジに休止中の札を置いて、本当にしぶしぶ、仕方なく、イートインスペースに向かった。
「あの、お客様――」
背後から声をかけようと思ったが、彼がのけぞっていたのでまともに目があった。律儀にもいったんクリップを乳首から外し、私に向き直る。
「なんだ」
「店内で……えぇと……特殊なプレイ? をするのはご遠慮ください……」
「充電していただけだが」
「何を!?」
「俺の能力は放電はできても充電はできないからな」
「いや説明になってないですけど」
「俺は乳首に電気を通すことでしか充電できないんだ!」
「いやなんでそんな誇らしげなんですか」
つい私も声が大きくなってしまっていたことに気が付いて、深呼吸をする。
「す、少なくとも大きな声は他のお客様のご迷惑になりますので」
「他の客がいるのか」
「いらっしゃいますよ、ほ……ら、って」
あっ!と私は叫んだ。さっきからいたサングラスの客が吸血鬼用の血液缶を堂々と両手に抱えて出ていこうとしている。もちろんレジを通した覚えはない。万引きだ、と私が呟くのと同時に、上半身裸のままの彼が椅子を蹴り飛ばす勢いで駆け出した。そのまま万引き男に詰め寄る。
「くらえ、サンダー乳首タックル!!」
「ギャアア!」
まばゆい閃光が辺りを包んだと思ったら、万引きした男が崩れ落ちた。
「なになに?」
目をこすりながらやっと先輩が顔を出した。上半身裸の彼が、さっきふざけた技名をさけんだのがウソのような冷静で
「警察を呼んでくれ」
と言って出ていこうとする。待って、と私はつい彼を呼び止めた。
「あ、ありがとうございます」
フン、と彼は鼻を鳴らして上着を羽織った。
「また寄らせてもらう」
さっそうと去っていく後ろ姿に対して、私は(いや、もう来ないでくれ)と願うしかなかった。
ううん、と伸びをしかけたところで自動ドアが開いた音がした。慌てていらっしゃいませ、と声をかける。丈の長い上着を着て、漫画のキャラクターのように髪を逆立てている。奇抜な恰好だけど、長い前髪からのぞく太めの眉と不思議に光を反射しているつり目が結構好みかもしれない。彼はずかずかとイートインスペースに腰かけて、ばっと上着をはだけた。そしておもむろに充電コードを取り出し接続して、自分の乳首を充電器のクリップに挟み込んだ。
「ンアーーーーーー!」
「いやなんで!?」
あまりに躊躇のない、流れるような動作だったので思わず見届けてしまった。意味が分からない。しばらくして落ち着いたのか、喘ぎ方は多少控えめになったがそれでもうるさい。先輩が休憩から帰ってくる様子もない。よっぽど見ないふりをしようかと思ったが、一応他の客もいるので、私はレジに休止中の札を置いて、本当にしぶしぶ、仕方なく、イートインスペースに向かった。
「あの、お客様――」
背後から声をかけようと思ったが、彼がのけぞっていたのでまともに目があった。律儀にもいったんクリップを乳首から外し、私に向き直る。
「なんだ」
「店内で……えぇと……特殊なプレイ? をするのはご遠慮ください……」
「充電していただけだが」
「何を!?」
「俺の能力は放電はできても充電はできないからな」
「いや説明になってないですけど」
「俺は乳首に電気を通すことでしか充電できないんだ!」
「いやなんでそんな誇らしげなんですか」
つい私も声が大きくなってしまっていたことに気が付いて、深呼吸をする。
「す、少なくとも大きな声は他のお客様のご迷惑になりますので」
「他の客がいるのか」
「いらっしゃいますよ、ほ……ら、って」
あっ!と私は叫んだ。さっきからいたサングラスの客が吸血鬼用の血液缶を堂々と両手に抱えて出ていこうとしている。もちろんレジを通した覚えはない。万引きだ、と私が呟くのと同時に、上半身裸のままの彼が椅子を蹴り飛ばす勢いで駆け出した。そのまま万引き男に詰め寄る。
「くらえ、サンダー乳首タックル!!」
「ギャアア!」
まばゆい閃光が辺りを包んだと思ったら、万引きした男が崩れ落ちた。
「なになに?」
目をこすりながらやっと先輩が顔を出した。上半身裸の彼が、さっきふざけた技名をさけんだのがウソのような冷静で
「警察を呼んでくれ」
と言って出ていこうとする。待って、と私はつい彼を呼び止めた。
「あ、ありがとうございます」
フン、と彼は鼻を鳴らして上着を羽織った。
「また寄らせてもらう」
さっそうと去っていく後ろ姿に対して、私は(いや、もう来ないでくれ)と願うしかなかった。
