漫画(ジャンプ系)
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あの夜、うずくまって嘔吐した彼女を足元に、被害がどこまで及んでいるかブルーノは確認した。最後の理性が働いたのか、器用なものでほとんどは本人の服で受け止められており、床に少しこぼれているだけだった。その代わり彼女の着ているものはもう全て使い物にはならないだろう。辛うじて無事な背中部分に手を差し込んで持ち上げたブルーノは、とりあえず彼女を風呂場に放り込み、口に手を突っ込んで吐き残しをき出す。喉に詰まらせないようにだ。その後、生ごみと化しつつある服を剥ぎ取って体についた汚れを流し、適当なシャツをかぶせてやった。幼い頃は年長者であるブルーノが、ぶっ倒れるまで鍛錬をした彼女の面倒をよく見ていた。血や泥がゲロになっただけで、ブルーノの手際の良さは変わらない。雑念が入らないわけではないが、正体をなくしている仲間をどうこうするような男ではない。それに――本人は気付かれていないと思っているらしい――あのこちらの顔に穴の開くような熱心な視線がないのにちょっかいをかけるのは面白くなかった。
反省を態度で示しているようで、しばらく彼女が酒場に顔を出すことはなかった。貸したシャツはカリファとカクを経由して戻ってきた。それを普通に着まわして彼女の家の洗剤のにおいも消えた頃に、彼女はまた一人で来店した。相変わらずカウンターの一番奥の席で、ブルーノにちらちら目をやりながら酒を啜っている。さすがにペースは以前よりも遅い。基本的には常連と酒場の主という体のため、ブルーノは久しぶりですねと最初に話しかけた以外は他の接客をしていた。どうやらどこかのドックの船が完成したらしく、いつもよりも浮足立った客が多かった。彼女の隣に腰かけた若い男もどうやらガレーラの職人らしい。もう余所で飲んできたのかすでに顔が赤かった。そういう人間がやりだすことといえば、騒ぐか女を口説くかである。男は案の定、彼女の方に身を乗り出して馴れ馴れしく話しかけてきた。
「お姉さん、ウチの事務のコだよね? 一人なの?」
伸ばされた手を適当に、ただし殺してしまわないように気をつけて彼女は払い除ける。その程度で男は懲りなかった。自分のグラスを彼女のグラスに打ち付けて、勝手に喋り続けている。ブルーノはそれを認識しているが、いかんせん客が多くそちらに手が取られ続けていた。
「お姉さんお酒強いね、もっといい店知ってるんだけど一緒に行かない? こんな所で一人で飲んでるより楽しいよ」
こんな所で悪かったな、とブルーノは思う。あまりに度が過ぎるようなら「店主」として介入するのが無難な動きだろう。彼女は黙殺に努めていたが、男の舌はそれにめげずによく回った。
「おれの働いてるドックの船が完成したわけ、めちゃくちゃ大変でさぁ、そりゃそれだけやりがいはあるよ? でもそうやって一区切りついたときに可愛い彼女とかが一緒にお祝いしてくれたらいいなとか思うわけよ」
どう? と男は彼女の顔を覗き込む。「どう?」もなにも、と彼女は目を合わせないようにしながらグラスの酒を舐めた。本当は飲み干してしまいたかったが、またやらかすのは避けたかった。
「一人ぼっちで飲んでるってことは彼氏とかもいないんでしょ? だったら一回でいいからさぁ」
「あの!」
いい加減うっとおしくなった彼女はグラスを握りつぶす前に男に向き直った。逆上されたらさっさと気絶でもさせればいいのだ。うまいこと断ろうと思ったが酒が思考力を鈍らせ、彼女の口を滑らせた。
「私はブルーノさんのことが好きなので!」
酔っ払いの制御できない大声が店に響いた。言い切ってしまってから、彼女は戦闘中と同じくらい頭を回転させる。いつのまにか来ていたカクが声には出さずに爆笑してるのが視界の端に映った。ブルーノはといえばさっと男の背後に立つ。その手は彼女の肩を抱いていた。
「すみませんねお客さん、そういうわけなんで」
男もけして背が低い方ではないがブルーノには敵わない。勝手に威圧感に怯んで泡を食って逃げ出した。踏み倒された分はガレーラに請求するか、とブルーノは考える。彼女はといえば勢いでしてしまった告白が彼にどう受け取られたかが不安で仕方なかった。少しでも怪訝な顔をされたら方便だとごまかすつもりだったが、いつもと同じような態度で話に乗っかられてしまい肩まで抱かれているからだ。とりあえずまだ笑い続けているカクは後で殴ろうと決意する。火照った頬をどうにか冷まそうと深呼吸していると、いつの間にかカウンターに戻ったブルーノが目の前に水の入ったジョッキを置いた。
「閉店までこれ飲んで酔いを覚まして待ってろ」
低い声で付け足された「逃げるなよ」は幼い頃にカクと余計なことをして怒られたときの記憶が想起されたが、その頃とは違いブルーノの顔にうっすらと笑みが浮かんでいる。彼女は早鐘のようになる心臓を押さえながら、辛うじて返事をした。
反省を態度で示しているようで、しばらく彼女が酒場に顔を出すことはなかった。貸したシャツはカリファとカクを経由して戻ってきた。それを普通に着まわして彼女の家の洗剤のにおいも消えた頃に、彼女はまた一人で来店した。相変わらずカウンターの一番奥の席で、ブルーノにちらちら目をやりながら酒を啜っている。さすがにペースは以前よりも遅い。基本的には常連と酒場の主という体のため、ブルーノは久しぶりですねと最初に話しかけた以外は他の接客をしていた。どうやらどこかのドックの船が完成したらしく、いつもよりも浮足立った客が多かった。彼女の隣に腰かけた若い男もどうやらガレーラの職人らしい。もう余所で飲んできたのかすでに顔が赤かった。そういう人間がやりだすことといえば、騒ぐか女を口説くかである。男は案の定、彼女の方に身を乗り出して馴れ馴れしく話しかけてきた。
「お姉さん、ウチの事務のコだよね? 一人なの?」
伸ばされた手を適当に、ただし殺してしまわないように気をつけて彼女は払い除ける。その程度で男は懲りなかった。自分のグラスを彼女のグラスに打ち付けて、勝手に喋り続けている。ブルーノはそれを認識しているが、いかんせん客が多くそちらに手が取られ続けていた。
「お姉さんお酒強いね、もっといい店知ってるんだけど一緒に行かない? こんな所で一人で飲んでるより楽しいよ」
こんな所で悪かったな、とブルーノは思う。あまりに度が過ぎるようなら「店主」として介入するのが無難な動きだろう。彼女は黙殺に努めていたが、男の舌はそれにめげずによく回った。
「おれの働いてるドックの船が完成したわけ、めちゃくちゃ大変でさぁ、そりゃそれだけやりがいはあるよ? でもそうやって一区切りついたときに可愛い彼女とかが一緒にお祝いしてくれたらいいなとか思うわけよ」
どう? と男は彼女の顔を覗き込む。「どう?」もなにも、と彼女は目を合わせないようにしながらグラスの酒を舐めた。本当は飲み干してしまいたかったが、またやらかすのは避けたかった。
「一人ぼっちで飲んでるってことは彼氏とかもいないんでしょ? だったら一回でいいからさぁ」
「あの!」
いい加減うっとおしくなった彼女はグラスを握りつぶす前に男に向き直った。逆上されたらさっさと気絶でもさせればいいのだ。うまいこと断ろうと思ったが酒が思考力を鈍らせ、彼女の口を滑らせた。
「私はブルーノさんのことが好きなので!」
酔っ払いの制御できない大声が店に響いた。言い切ってしまってから、彼女は戦闘中と同じくらい頭を回転させる。いつのまにか来ていたカクが声には出さずに爆笑してるのが視界の端に映った。ブルーノはといえばさっと男の背後に立つ。その手は彼女の肩を抱いていた。
「すみませんねお客さん、そういうわけなんで」
男もけして背が低い方ではないがブルーノには敵わない。勝手に威圧感に怯んで泡を食って逃げ出した。踏み倒された分はガレーラに請求するか、とブルーノは考える。彼女はといえば勢いでしてしまった告白が彼にどう受け取られたかが不安で仕方なかった。少しでも怪訝な顔をされたら方便だとごまかすつもりだったが、いつもと同じような態度で話に乗っかられてしまい肩まで抱かれているからだ。とりあえずまだ笑い続けているカクは後で殴ろうと決意する。火照った頬をどうにか冷まそうと深呼吸していると、いつの間にかカウンターに戻ったブルーノが目の前に水の入ったジョッキを置いた。
「閉店までこれ飲んで酔いを覚まして待ってろ」
低い声で付け足された「逃げるなよ」は幼い頃にカクと余計なことをして怒られたときの記憶が想起されたが、その頃とは違いブルーノの顔にうっすらと笑みが浮かんでいる。彼女は早鐘のようになる心臓を押さえながら、辛うじて返事をした。
