漫画(ジャンプ系)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アクア・ラグナの前の不気味な静けさがウォーターセブンを包んでいる。皆息を潜めてあの法外な高潮をやり過ごそうとしているのだ。私の家兼職場は高台にあるが、それでもいつもよりキツい潮風が入るから窓は締め切っている。一応今回も、ある程度の余裕を持ってアクア・ラグナの予報を出すことができた。ただ今日、この島を包んでいるざわざわとした不穏な雰囲気はアクア・ラグナのせいだけではない。計器が散乱している机の上に放り投げた新聞に私は目をやる。いつもは手近にあるメモ用紙としてしか用のないが今回ばかりはそういう訳にもいかない。アイスバーグ市長が襲撃されたというニュースはこの大きくない町を駆け巡っている。この忙しい時期に、いやだからこそかと私はため息をついた。気晴らしに恋人から贈られたキリンのぬいぐるみの頭を撫でる。とにもかくにも、今回の高波も怪我人や死人を出さずにやり過ごすこと。それが私の仕事であり、そうやって観測用の窓から海や空の様子をしっかり見張るしかないのだ。適当なストックのクラッカーをつまみ、水を飲み干した私は窓の前に置いた椅子に戻る。がたがたと窓枠が揺れていた。また修理を頼まねばならない。
風向きや気圧を専用のノートに記録していると、コンコンと外から窓が叩かれた。こんなことをする人間は一人しかいない。私は顔を上げる。ガラス越しに、カクが手を上げるのが見えた。もう片方の手は張り出した窓枠に捕まっている。まったく身軽なものだ。
「ドッグにいなくていいの?」
ガレーラの職工たちは、アクア・ラグナのときにはドッグを解放して裏町や低い場所の住民を避難させる役割も持っている。とはいえ手は足りているのだろう。
「あぁ、もういいんじゃ」
いつもと違って全身真っ黒な服に身を包んだカクは、その長い手足も相まって影法師のようだった。嫌な予感がする。この島には船に乗っているならどんなならず者だってやって来る。どうせ用が済めば代金を踏み倒して物資を奪ってやろうと目論む海賊だって少なくない。そんな人間たちが纏う、今対面している人間や場所にはどう向き合ったっていいという一種の無関心さと似たものを、私は目の前の男から感じている。私が身を固くしたのがカクにも分かったらしかった。
「やっぱりお前は勘がいいのう」
いつも私に触れながら言うのとまったく同じ口調であった。びゅう、と湿った潮風がひっきりなしに吹いている。まったく根拠のない思い付きを私は口に出そうとするが、カクの長い指が私の唇に触れた。それはある意味肯定であった。吹き込んだ風が新聞を巻き上げて、部屋の中に散乱する。市長襲撃のニュースが掲載された一面が、私の足にまとわりついた。
「これからどこへ行くの」
「元居たところへ戻るだけじゃ。お前も来るか?」
食事にでも誘うように彼が笑った。
「行くわけがない」
「そう言うと思っとった」
まったく何にも未練がなさそうな呑気な顔でカクは笑った。さっきにも増して強い風が吹きつけてきて、私は目を強く閉じた。
風がやんで、目を開けたときにはカクはもうおらず、開け放された窓と紙が散乱した部屋だけが残されていた。あの男の存在ごと、私が今短い時間に見た夢だったのかもしれない。しかし新聞の記事の内容は変わらないし、キリンのぬいぐるみは強風で床に転がっていた。私はぐらぐらする頭を抱えて窓を
閉め、部屋を片付ける。今の強風の記録を付けねばならない。もう二度と会うことはないだろう恋人を惜しむには、今日はあまりに忙しすぎた。
風向きや気圧を専用のノートに記録していると、コンコンと外から窓が叩かれた。こんなことをする人間は一人しかいない。私は顔を上げる。ガラス越しに、カクが手を上げるのが見えた。もう片方の手は張り出した窓枠に捕まっている。まったく身軽なものだ。
「ドッグにいなくていいの?」
ガレーラの職工たちは、アクア・ラグナのときにはドッグを解放して裏町や低い場所の住民を避難させる役割も持っている。とはいえ手は足りているのだろう。
「あぁ、もういいんじゃ」
いつもと違って全身真っ黒な服に身を包んだカクは、その長い手足も相まって影法師のようだった。嫌な予感がする。この島には船に乗っているならどんなならず者だってやって来る。どうせ用が済めば代金を踏み倒して物資を奪ってやろうと目論む海賊だって少なくない。そんな人間たちが纏う、今対面している人間や場所にはどう向き合ったっていいという一種の無関心さと似たものを、私は目の前の男から感じている。私が身を固くしたのがカクにも分かったらしかった。
「やっぱりお前は勘がいいのう」
いつも私に触れながら言うのとまったく同じ口調であった。びゅう、と湿った潮風がひっきりなしに吹いている。まったく根拠のない思い付きを私は口に出そうとするが、カクの長い指が私の唇に触れた。それはある意味肯定であった。吹き込んだ風が新聞を巻き上げて、部屋の中に散乱する。市長襲撃のニュースが掲載された一面が、私の足にまとわりついた。
「これからどこへ行くの」
「元居たところへ戻るだけじゃ。お前も来るか?」
食事にでも誘うように彼が笑った。
「行くわけがない」
「そう言うと思っとった」
まったく何にも未練がなさそうな呑気な顔でカクは笑った。さっきにも増して強い風が吹きつけてきて、私は目を強く閉じた。
風がやんで、目を開けたときにはカクはもうおらず、開け放された窓と紙が散乱した部屋だけが残されていた。あの男の存在ごと、私が今短い時間に見た夢だったのかもしれない。しかし新聞の記事の内容は変わらないし、キリンのぬいぐるみは強風で床に転がっていた。私はぐらぐらする頭を抱えて窓を
閉め、部屋を片付ける。今の強風の記録を付けねばならない。もう二度と会うことはないだろう恋人を惜しむには、今日はあまりに忙しすぎた。
