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彼が物言わぬ冷たい石像になっていたとき、私もまた冷たい石像のままであった。正確にいえば、彼――七海龍水は何度も何度も石化しては復活していたらしいがその間も私はずっと石像のまま、東北の山中に埋もれていた。あの全人類石化の日、たまたま実家に帰省していたわたしは、石化したあと3700年の間に起こった土砂崩れの下敷きになっていたらしい。3700年前と比べて、構造が幾分か素朴な重機に掘り出された私が最初に見たのは、七海龍水の顔だった。生で見るのはこれが初めてであった。
「はっはー! 探したぞ!」
パチン、と指を鳴らす音と大声が私の意識をはっきりさせた。知らない場所で、知らない服を着せられて、また右手首にぐるりとひび割れのようなタトゥーのようなものがいつのまにか入っていた。何もかも状況が分からなくて混乱する私に、横から執事らしき格好をした人がこれまでの経緯を掻い摘んで説明してくれた。一度話されただけで信じるには荒唐無稽に思える。しかし、変わり果ててしまった地元の山や人々の服装や重機やらを見ると自分ひとりを騙すにはコストをかけすぎている(いくら七海財閥が噛んでいるとはいえ)ので飲み込まざるを得ない。また、自分の右手首のぐるりは何なのか七海龍水の執事――フランソワと名乗った――に問うと一枚の写真を見せられた。それはたしかに石像になっている自分と、外れた右手首であった。
「埋もれた拍子に破損してしまったのでしょう。近くで見つけられましたので、つなぎ合わせました。ただ、細かな破片が剥落してしまっていたのでこのような跡が残ってしまったのです」
どうやら本当にひび割れらしかった。それにしては動かすのに不自由はないのが不思議だった。まるで元々備わっていたものかのようだ。
「どうして七海財閥の七海龍水サンがこんなところにいるんですか?」
数千年ぶりに動かすくせにむしろ調子のいい肩を回しながら私は、釣果を眺めている釣り人のような満足げな顔の七海龍水にそう訊いた。
「はっはー! 愚問だな。貴様を探しに来たに決まってるだろう」
パチン!とまた指を鳴らして彼が説明したところによると、私のことはSAI先生から聞いていたらしい。留学先のゼミでお世話になったあの短い期間で随分高く買われたものだ。
「実社会の経済動向を数式に落とし込むのがうまかったと聞いた。何を隠そう今全世界に俺の作った貨幣が流通していてな。そろそろ専門家を招聘したかったところだ」
「いや他にももっと掘り出しやすいところに専門家がいたでしょう」
ふん、と七海龍水は不可解な言葉を聞いたというふうに鼻を鳴らした。
「もちろんそいつらも発掘済だ。だが、それと貴様の捜索はまた別の話だろう。俺は考えうる限り優秀な人材が全て欲しい。それにこの捜索で土木や地学のスペシャリスト達とも繋がりができた。丸儲けだ!」
それは普通丸儲けではなく過剰なプラス思考というのではないか。しかし目の前の男の中の価値判断はそうなっているのだ。負け惜しみも何も混じっていない純粋な勝ち誇りは、ただ眩しかった。
勤務日初日、同じ龍水財閥で働くことになったSAI先生に挨拶に行くことにした。プログラマーも続けながら財閥のIT担当も兼任して多忙を極めている先生は、七海龍水の無茶振りを愚痴りながらもどこか楽しそうに見える。
「それ、治さなくてよかったの?」
SAI先生が私の右手首を指差す。手首を一周するひびは、特に隠すつもりもないし、透明な水晶があしらわれたブレスレットもしているから更に強調されている。もう一度石化と復活を経れば消えるらしかったが、断ったのだ。
「わざわざ探し出してくれた証ってことで、このままでいいかなって」
自明な「誰が」を省いた答えに、SAI先生は複雑な顔をした。あの強欲な男はこの世の全てを欲している。しかしその全てに自分がたしかに入っているということ、それを素直に表出してぶつけられるのは、今まで生きてきた中で一番の快感があった。人の上に立つ教育を受けてきた人間の手のひらでまんまと転がされていると言われればそれまでだが、同意の上で転がされる分には構わない。
「はっはー! 探したぞ!」
パチン、と指を鳴らす音と大声が私の意識をはっきりさせた。知らない場所で、知らない服を着せられて、また右手首にぐるりとひび割れのようなタトゥーのようなものがいつのまにか入っていた。何もかも状況が分からなくて混乱する私に、横から執事らしき格好をした人がこれまでの経緯を掻い摘んで説明してくれた。一度話されただけで信じるには荒唐無稽に思える。しかし、変わり果ててしまった地元の山や人々の服装や重機やらを見ると自分ひとりを騙すにはコストをかけすぎている(いくら七海財閥が噛んでいるとはいえ)ので飲み込まざるを得ない。また、自分の右手首のぐるりは何なのか七海龍水の執事――フランソワと名乗った――に問うと一枚の写真を見せられた。それはたしかに石像になっている自分と、外れた右手首であった。
「埋もれた拍子に破損してしまったのでしょう。近くで見つけられましたので、つなぎ合わせました。ただ、細かな破片が剥落してしまっていたのでこのような跡が残ってしまったのです」
どうやら本当にひび割れらしかった。それにしては動かすのに不自由はないのが不思議だった。まるで元々備わっていたものかのようだ。
「どうして七海財閥の七海龍水サンがこんなところにいるんですか?」
数千年ぶりに動かすくせにむしろ調子のいい肩を回しながら私は、釣果を眺めている釣り人のような満足げな顔の七海龍水にそう訊いた。
「はっはー! 愚問だな。貴様を探しに来たに決まってるだろう」
パチン!とまた指を鳴らして彼が説明したところによると、私のことはSAI先生から聞いていたらしい。留学先のゼミでお世話になったあの短い期間で随分高く買われたものだ。
「実社会の経済動向を数式に落とし込むのがうまかったと聞いた。何を隠そう今全世界に俺の作った貨幣が流通していてな。そろそろ専門家を招聘したかったところだ」
「いや他にももっと掘り出しやすいところに専門家がいたでしょう」
ふん、と七海龍水は不可解な言葉を聞いたというふうに鼻を鳴らした。
「もちろんそいつらも発掘済だ。だが、それと貴様の捜索はまた別の話だろう。俺は考えうる限り優秀な人材が全て欲しい。それにこの捜索で土木や地学のスペシャリスト達とも繋がりができた。丸儲けだ!」
それは普通丸儲けではなく過剰なプラス思考というのではないか。しかし目の前の男の中の価値判断はそうなっているのだ。負け惜しみも何も混じっていない純粋な勝ち誇りは、ただ眩しかった。
勤務日初日、同じ龍水財閥で働くことになったSAI先生に挨拶に行くことにした。プログラマーも続けながら財閥のIT担当も兼任して多忙を極めている先生は、七海龍水の無茶振りを愚痴りながらもどこか楽しそうに見える。
「それ、治さなくてよかったの?」
SAI先生が私の右手首を指差す。手首を一周するひびは、特に隠すつもりもないし、透明な水晶があしらわれたブレスレットもしているから更に強調されている。もう一度石化と復活を経れば消えるらしかったが、断ったのだ。
「わざわざ探し出してくれた証ってことで、このままでいいかなって」
自明な「誰が」を省いた答えに、SAI先生は複雑な顔をした。あの強欲な男はこの世の全てを欲している。しかしその全てに自分がたしかに入っているということ、それを素直に表出してぶつけられるのは、今まで生きてきた中で一番の快感があった。人の上に立つ教育を受けてきた人間の手のひらでまんまと転がされていると言われればそれまでだが、同意の上で転がされる分には構わない。
