漫画(ジャンプ系)
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もうすっかり体に馴染んだはずの揺れが、牙を剥いているのがわかる。夜の海はげんなりするくらい穏やかであった。甲板からはシャンクスの高笑いが聞こえてくる。あの船長のペースがめちゃくちゃなことは分かっていたはずなのに、なぜ自分は肩を組まれてあれよあれよという間に酒を注がれていたのだろう。酒は飲んで慣れるものだ、という破綻した論理に乗せられたのはやはり自分もあの船長に絆されているからかもしれなかった。鑑定士は船から身を乗り出して真っ暗な水面に嘔吐する。チーズを煮詰めたような臭いを感じながら、まだこみあげてくる胃の内容物をまた吐き出そうとした。
「ここにいたか」
吐くものは吐いたが、身を乗り出しすぎてバランスを崩しそうになったところを、ひょいと首根っこを掴まれて戻される。
「今までで一番弱ってるんじゃねェか?」
愉快そうに笑うのは副船長であった。わざわざ宴を抜けて探しに来たらしい。小脇にタオルと、片方の手にジョッキに入った水を持っていた。わざわざ面倒を見にくるのは鑑定士には意外に思える。二日酔いで転がっているシャンクスや他の船員を蹴り転がしているところばかり見ていたからだ。そんな失礼な感想を知る由もないベックマンは、手慣れた様子で座り込んだ鑑定士の口元を拭い水を差し出す。ぐらぐらと揺れる思考でも、鑑定士はどうにかベックマンに礼を言った。
「慣れてるからな」
「陸の女で?」
「口説く時にここまで飲ませるのは男として三流だ。こんな風に宴で馬鹿みたいに飲む奴らが沢山いやがるからな」
ベックマンは鑑定士の隣にどかりと座り込んで、咥えていた煙草をふかした。鑑定士の頭にまず浮かんだのは船長の顔である。ふう、と夜の空に煙を吐いてベックマンは鑑定士に話しかける。
「お前は酒を飲まんもんだと思ってたが」
「…………19に自分が独立するときに飲もうっていう約束を、父親としてたもんで」
父親が商売を始めたのは19のときであった。何もなければ自分もそのくらいで独立するつもりだったのだ。とっておきの酒を探しておかなきゃな、と気が早いことを言っていた父親の顔をまだ鑑定士は覚えている。
「19にはまだもう少しあるだろ」
まぁ、と鑑定士は首肯する。
「もう独立したようなもんだしいいかなと」
それに、そもそもその約束は父親と一緒に酒を飲もうという話だったからこの船でそれを律儀に守る必要はないのだ。父親は父親だしこの船の仲間はこの船の仲間だ。ベックマンへの逆ナンを散らすために親子の振りをすることはたまにあるが、誰のことも父親の代わりだと思ったことはない。滔々と紡がれる鑑定士の言葉を聞きながら、やはり酔ってるなとベックマンは考えていた。別に会話が支離滅裂なわけではない。語りすぎるのと、嫌に素直だからだ。別に酒のせいで捨て鉢になっているというわけではなく、単純に思考が表出しているだけなのだろう。こんなことなら自分のカップを持ってくればよかったとベックマンは思った。代わりに鑑定士の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。頭が揺らされたことでまた吐き気がぶり返した鑑定士は慌てて立ち上がり、海へ身を乗り出した。吐しゃ物がまた水面に吸い込まれていく。
「悪い悪い」
ベックマンは、海に落ちてしまわないように支えながら鑑定士の背中をさすってやる。わざとなんじゃないだろうか、と鑑定士は彼を睨むがまったく気にした様子はなかった。口元についたゲロを拭ってくれている相手を威嚇したって可愛らしいだけだ、とベックマンは思っている。きれいにした頬に、がさがさとしたベックマンの指が触れたのを鑑定士は感じる。その手つきはさっきまでの、頭を撫でたり口を拭ったりする乱暴なそれとは明らかに違っていた。鑑定士は、嫌には感じなかったがその手つきの意図は分からない。怪訝な顔をしていたのがベックマンにも分かったのだろう。ベックマンは鼻で笑う。よくそれで女を口説くのを邪魔してくるものだ。ぱ、と手を離して短くなった煙草の火をつぶした。
「またお前が頭に潰されてたら面倒見てやってもいい」
二回吐いて、いっそ明朗になってきた思考で鑑定士はベックマンを睨んだ。
「もう同じ轍は踏まない。それかホンゴウさんに頼む」
「可愛くねえガキだな」
自分より年下の船員の初飲酒に船医が気を揉んでいない訳がない。それなのにここにベックマンがいるのは、シャンクスをホンゴウに押し付けて来たからだ。それを知る由もない鑑定士は、残りの水を飲み干して目を閉じた。
「ここにいたか」
吐くものは吐いたが、身を乗り出しすぎてバランスを崩しそうになったところを、ひょいと首根っこを掴まれて戻される。
「今までで一番弱ってるんじゃねェか?」
愉快そうに笑うのは副船長であった。わざわざ宴を抜けて探しに来たらしい。小脇にタオルと、片方の手にジョッキに入った水を持っていた。わざわざ面倒を見にくるのは鑑定士には意外に思える。二日酔いで転がっているシャンクスや他の船員を蹴り転がしているところばかり見ていたからだ。そんな失礼な感想を知る由もないベックマンは、手慣れた様子で座り込んだ鑑定士の口元を拭い水を差し出す。ぐらぐらと揺れる思考でも、鑑定士はどうにかベックマンに礼を言った。
「慣れてるからな」
「陸の女で?」
「口説く時にここまで飲ませるのは男として三流だ。こんな風に宴で馬鹿みたいに飲む奴らが沢山いやがるからな」
ベックマンは鑑定士の隣にどかりと座り込んで、咥えていた煙草をふかした。鑑定士の頭にまず浮かんだのは船長の顔である。ふう、と夜の空に煙を吐いてベックマンは鑑定士に話しかける。
「お前は酒を飲まんもんだと思ってたが」
「…………19に自分が独立するときに飲もうっていう約束を、父親としてたもんで」
父親が商売を始めたのは19のときであった。何もなければ自分もそのくらいで独立するつもりだったのだ。とっておきの酒を探しておかなきゃな、と気が早いことを言っていた父親の顔をまだ鑑定士は覚えている。
「19にはまだもう少しあるだろ」
まぁ、と鑑定士は首肯する。
「もう独立したようなもんだしいいかなと」
それに、そもそもその約束は父親と一緒に酒を飲もうという話だったからこの船でそれを律儀に守る必要はないのだ。父親は父親だしこの船の仲間はこの船の仲間だ。ベックマンへの逆ナンを散らすために親子の振りをすることはたまにあるが、誰のことも父親の代わりだと思ったことはない。滔々と紡がれる鑑定士の言葉を聞きながら、やはり酔ってるなとベックマンは考えていた。別に会話が支離滅裂なわけではない。語りすぎるのと、嫌に素直だからだ。別に酒のせいで捨て鉢になっているというわけではなく、単純に思考が表出しているだけなのだろう。こんなことなら自分のカップを持ってくればよかったとベックマンは思った。代わりに鑑定士の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。頭が揺らされたことでまた吐き気がぶり返した鑑定士は慌てて立ち上がり、海へ身を乗り出した。吐しゃ物がまた水面に吸い込まれていく。
「悪い悪い」
ベックマンは、海に落ちてしまわないように支えながら鑑定士の背中をさすってやる。わざとなんじゃないだろうか、と鑑定士は彼を睨むがまったく気にした様子はなかった。口元についたゲロを拭ってくれている相手を威嚇したって可愛らしいだけだ、とベックマンは思っている。きれいにした頬に、がさがさとしたベックマンの指が触れたのを鑑定士は感じる。その手つきはさっきまでの、頭を撫でたり口を拭ったりする乱暴なそれとは明らかに違っていた。鑑定士は、嫌には感じなかったがその手つきの意図は分からない。怪訝な顔をしていたのがベックマンにも分かったのだろう。ベックマンは鼻で笑う。よくそれで女を口説くのを邪魔してくるものだ。ぱ、と手を離して短くなった煙草の火をつぶした。
「またお前が頭に潰されてたら面倒見てやってもいい」
二回吐いて、いっそ明朗になってきた思考で鑑定士はベックマンを睨んだ。
「もう同じ轍は踏まない。それかホンゴウさんに頼む」
「可愛くねえガキだな」
自分より年下の船員の初飲酒に船医が気を揉んでいない訳がない。それなのにここにベックマンがいるのは、シャンクスをホンゴウに押し付けて来たからだ。それを知る由もない鑑定士は、残りの水を飲み干して目を閉じた。
