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雨の日の航海ではあるが、風はそこまで強くない。また、今のところ敵影も見えない。赤髪海賊団は珍しく穏やかな一日を過ごしていた。武器や道具の手入れをしているものや、昼寝をしている者、誰かを捕まえて酒を飲んでいる者。副船長であるベックマンは鑑定士の部屋を訪ねた。特に用事があるわけではない。ここはこの船の中では一番静かな場所である。
「ベックマンさんってノックしないよね」
「他の奴らもそうだろ」
宝石店や古物商のカタログから顔を上げた鑑定士がベックマンを睨むが、毎度のことだからベックマンは気にしない。椅子は部屋の主が座っているもの一つしかないため、ベックマンはベッドに腰かけて煙草に火を付けた。鑑定士は彼を無視して、またカタログに集中し始めた。その横顔と、雨に霞む外の景色を眺めながらベックマンは初めて出会った日のことを思い返している。あの日も雨が降っていた。
もうあれも随分前のことだ。こちらが赤髪の船だと知らず、襲ってきた世間知らずの船を返り討ちにした。戦利品にできるものを探して、倉庫らしき場所にベックマンは踏み入った。蹴破ったドアの先には痩せぎすの子どもが宝飾品に囲まれていた。後から本人に聞いたところによると、両親と乗っていた商船がこの海賊に襲われたらしい。親もまた宝石の鑑定士だったそうだ。親から教わった知識によって、一人だけ生き残って宝の鑑定をさせられていたところをベックマンが見つけたのだ。満足な飯も食わせてもらえず、灯り取りがひとつしかない暗い倉庫に押し込められていたその子どもの目にベックマンは光を見た。乱雑に転がされた宝飾品に囲まれたそこにも宝石があると彼は思った。凡庸な口説き文句だが本当にそうだと思ったときには口から出てこないものだ。とにもかくにも、ベックマンはその子どもを自分たちの船に乗せることに決めた。
今、カタログに混じって机に置いてあるルーペは、鑑定士がこの船に乗ったときの唯一の私物だ。勿論、前の船に積んであった宝も持てるだけ持ってきた。本人曰く二束三文でも売れない贋作は置いていっていたが。
「女を口説くときのような目をしてる」
自分は吸わないので、もはやベックマン専用と化している灰皿を鑑定士は差し出した。
「何だ、それ」
そろそろ煙い、と思ってベックマンの方を見た鑑定士はぎょっとしたのだ。副船長が自分のほうを見守るような、それでいてどうしてやろうか図っているような顔をしていたからだ。
「酒場のお姉さんにデレデレしてるときの顔ってことだよ」
「モテちまうからしょうがねえだろ」
憎まれ口にも、ベックマンは鷹揚に返す。鑑定士も、そうなんだよなと素直に腕を組んでベックマンのをじっと見た。宝を鑑定しているときと同じだ、とベックマンは思う。
この副船長は、買い出しなどに行っただけでも女性に声をかけられたりかけたりしているのだ。その時に女が向ける興味の目と、それを思わせぶりにかわすベックマンのやりとりを鑑定士は散々見ている。もっと仲が深まればこの酸いも甘いも噛み分けた男の柔らかなところに触れられるのではないかという期待を持たせるのが上手いのだ。実際はそんなこともないのを鑑定士は知っている。自分は彼に拾われた身なのでほとんどの事がベックマンに知れているが逆に鑑定士がベックマンについて知っていることはあまり多くなかった。
「あなたのことを暴きたいと思わせるからベックマンさんはモテるんだろうな」
まばたきを三回して、鑑定士はそう結論づけた。
言われた言葉に、なるほどとベックマンは思う。暴いて楽しい内面が自分にあるかはわからないが、目の前の人間に暴かれるのであればいいと思った。口説くコツは正直になることだ。ベックマンは思ったことを素直に口にするが、その手を分かっている鑑定士は呆れて肩をすくめる。ただ、しばらく考えて答えを出す。
「暴く、というか……知りたいとは思ってるよ」
はっ、とベックマンは鼻で笑った。片足だけ乗ってくるような答えを返してくるうちは、まだ可愛げのないガキとして手元に置いておこうと思っている。
「ベックマンさんってノックしないよね」
「他の奴らもそうだろ」
宝石店や古物商のカタログから顔を上げた鑑定士がベックマンを睨むが、毎度のことだからベックマンは気にしない。椅子は部屋の主が座っているもの一つしかないため、ベックマンはベッドに腰かけて煙草に火を付けた。鑑定士は彼を無視して、またカタログに集中し始めた。その横顔と、雨に霞む外の景色を眺めながらベックマンは初めて出会った日のことを思い返している。あの日も雨が降っていた。
もうあれも随分前のことだ。こちらが赤髪の船だと知らず、襲ってきた世間知らずの船を返り討ちにした。戦利品にできるものを探して、倉庫らしき場所にベックマンは踏み入った。蹴破ったドアの先には痩せぎすの子どもが宝飾品に囲まれていた。後から本人に聞いたところによると、両親と乗っていた商船がこの海賊に襲われたらしい。親もまた宝石の鑑定士だったそうだ。親から教わった知識によって、一人だけ生き残って宝の鑑定をさせられていたところをベックマンが見つけたのだ。満足な飯も食わせてもらえず、灯り取りがひとつしかない暗い倉庫に押し込められていたその子どもの目にベックマンは光を見た。乱雑に転がされた宝飾品に囲まれたそこにも宝石があると彼は思った。凡庸な口説き文句だが本当にそうだと思ったときには口から出てこないものだ。とにもかくにも、ベックマンはその子どもを自分たちの船に乗せることに決めた。
今、カタログに混じって机に置いてあるルーペは、鑑定士がこの船に乗ったときの唯一の私物だ。勿論、前の船に積んであった宝も持てるだけ持ってきた。本人曰く二束三文でも売れない贋作は置いていっていたが。
「女を口説くときのような目をしてる」
自分は吸わないので、もはやベックマン専用と化している灰皿を鑑定士は差し出した。
「何だ、それ」
そろそろ煙い、と思ってベックマンの方を見た鑑定士はぎょっとしたのだ。副船長が自分のほうを見守るような、それでいてどうしてやろうか図っているような顔をしていたからだ。
「酒場のお姉さんにデレデレしてるときの顔ってことだよ」
「モテちまうからしょうがねえだろ」
憎まれ口にも、ベックマンは鷹揚に返す。鑑定士も、そうなんだよなと素直に腕を組んでベックマンのをじっと見た。宝を鑑定しているときと同じだ、とベックマンは思う。
この副船長は、買い出しなどに行っただけでも女性に声をかけられたりかけたりしているのだ。その時に女が向ける興味の目と、それを思わせぶりにかわすベックマンのやりとりを鑑定士は散々見ている。もっと仲が深まればこの酸いも甘いも噛み分けた男の柔らかなところに触れられるのではないかという期待を持たせるのが上手いのだ。実際はそんなこともないのを鑑定士は知っている。自分は彼に拾われた身なのでほとんどの事がベックマンに知れているが逆に鑑定士がベックマンについて知っていることはあまり多くなかった。
「あなたのことを暴きたいと思わせるからベックマンさんはモテるんだろうな」
まばたきを三回して、鑑定士はそう結論づけた。
言われた言葉に、なるほどとベックマンは思う。暴いて楽しい内面が自分にあるかはわからないが、目の前の人間に暴かれるのであればいいと思った。口説くコツは正直になることだ。ベックマンは思ったことを素直に口にするが、その手を分かっている鑑定士は呆れて肩をすくめる。ただ、しばらく考えて答えを出す。
「暴く、というか……知りたいとは思ってるよ」
はっ、とベックマンは鼻で笑った。片足だけ乗ってくるような答えを返してくるうちは、まだ可愛げのないガキとして手元に置いておこうと思っている。
