漫画(ジャンプ系)
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エレジアには、本当に小さいときに一度来た事があった。楽器の調律師だった父母の仕事にくっついていったのだ。自分とそう変わらない年の子どもが、自身とそう変わらない大きさの楽器を弾きこなしていたり、よく通る声で歌っていたことに驚いた覚えはある。その後、少ししてエレジアが滅亡してしまったと聞いたときはただ驚くだけだった。しかし大きくなり、物の道理が分かるようになるとあの日に顔を合わせた人間が全員死んでいるのかと胸を痛めた日もあった。音楽が暴力に踏みにじられることがあってはならない。
だから、ウタがエレジアでライブをすると聞いたとき僕はウタに申し出ていた。ライブの手伝いをさせてもらえないか、と。僕は親に倣って調律師になったので色々なステージの裏方は見てきたし、手伝いもしたことがあった。今までのウタの配信を観る限り、彼女がひとりで全て回しているようだったがさすがに実際のライブともなれば人手は必要だろう。エレジアに残された資料にはステージ運営のノウハウなども載っていたらしく、内容は彼女自身で詰めていたようだったが、チケットのもぎりまで彼女がやるわけにはいかない。僕は前日の設営や、当日の受付を手伝うことになった。開演したら好きな所で観てていいからね! と自分よりも年下の歌姫は笑った。
前日入りした僕は、荷台の端が熱で変形している台車に照明を乗せて、大きな舞台を横断していた。他のスタッフも皆自分と同じように自分から手伝いを申し出て、当日のチケットもぎりまで行うようだった。ライブの規模やファンの人数にしては手伝いの人数は少ないように見える。海賊の横暴に疲弊して余裕がないのか、それともウタのことをカリスマ視しているからそもそも彼女を「手伝う」という発想がないのか――。
「それもどこかに運びますか?」
ウタが大きなカゴを持っていたから、僕は声をかけた。中にはピンク色のキノコがぎっしり詰まっている。ライブには関係ないだろうが舞台の設営も一段落したところだ。
「ううん、大丈夫。でもありがとう」
ウタはにっこりと笑って、皆が手伝ってくれたから明日はいいライブになるよと言った。
当日はあいにくの濃霧だった。でもそれに負けず、早朝から大小問わず多くの船がエレジアに向かってきていた。小さい船のほうが圧倒的に多く、ひとつの船に何人も寄り集まって乗っていた。継ぎをまとったをまとった人間も多く、その明らかに裕福でない身なりのなかでウタのライブのチケットだけが輝いていた。客層は本当に幅広く、初めて見るような種族も見かけた。差し出されたチケットを確認して通すだけの仕事だったが、いかんせん長大な列をさばかなければならないため、終わる頃には気疲れを感じて、僕は大きく伸びをする。
「あのう……」
もう開演時間が近く、ぽつぽつとしか観客はやってこない。僕はしゃがみ込んで、話しかけてきた少女に目線を合わせる。
「どうしました?」
「チケットを持ってないんですけど、どうしても諦めきれなくて……」
同じ町の観客たちと同じ船にこっそり乗り込んで、ここまで来たらしい。まだ自由になるお金なんて全然ないのだろう。グッズのひとつも身に着けていなかった。
「内緒だよ」
僕は少し考えて、彼女を中に通した。音楽は誰にでも平等にあるべきだ。とくに、子供には。もし音楽ホールなどであれば席が決まっているから難しかったかもしれないが基本は芝生席だから小さい女の子一人くらいであればなんとでもなるだろう。それに、きっとウタもそうしただろうと僕は勝手に思っている。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
少女に手を振り返して、僕は立ち上がる。もう開演時間だ。この後来る観客もそうそういないだろう。僕もライブを観られる場所を探し、高台へ上り腰を下ろす。ステージが始まるまでのこの緊張と期待が空気を支配している時間が好きだ。バチン、とステージの照明が着いた。希代の歌姫のライブが、始まる。
だから、ウタがエレジアでライブをすると聞いたとき僕はウタに申し出ていた。ライブの手伝いをさせてもらえないか、と。僕は親に倣って調律師になったので色々なステージの裏方は見てきたし、手伝いもしたことがあった。今までのウタの配信を観る限り、彼女がひとりで全て回しているようだったがさすがに実際のライブともなれば人手は必要だろう。エレジアに残された資料にはステージ運営のノウハウなども載っていたらしく、内容は彼女自身で詰めていたようだったが、チケットのもぎりまで彼女がやるわけにはいかない。僕は前日の設営や、当日の受付を手伝うことになった。開演したら好きな所で観てていいからね! と自分よりも年下の歌姫は笑った。
前日入りした僕は、荷台の端が熱で変形している台車に照明を乗せて、大きな舞台を横断していた。他のスタッフも皆自分と同じように自分から手伝いを申し出て、当日のチケットもぎりまで行うようだった。ライブの規模やファンの人数にしては手伝いの人数は少ないように見える。海賊の横暴に疲弊して余裕がないのか、それともウタのことをカリスマ視しているからそもそも彼女を「手伝う」という発想がないのか――。
「それもどこかに運びますか?」
ウタが大きなカゴを持っていたから、僕は声をかけた。中にはピンク色のキノコがぎっしり詰まっている。ライブには関係ないだろうが舞台の設営も一段落したところだ。
「ううん、大丈夫。でもありがとう」
ウタはにっこりと笑って、皆が手伝ってくれたから明日はいいライブになるよと言った。
当日はあいにくの濃霧だった。でもそれに負けず、早朝から大小問わず多くの船がエレジアに向かってきていた。小さい船のほうが圧倒的に多く、ひとつの船に何人も寄り集まって乗っていた。継ぎをまとったをまとった人間も多く、その明らかに裕福でない身なりのなかでウタのライブのチケットだけが輝いていた。客層は本当に幅広く、初めて見るような種族も見かけた。差し出されたチケットを確認して通すだけの仕事だったが、いかんせん長大な列をさばかなければならないため、終わる頃には気疲れを感じて、僕は大きく伸びをする。
「あのう……」
もう開演時間が近く、ぽつぽつとしか観客はやってこない。僕はしゃがみ込んで、話しかけてきた少女に目線を合わせる。
「どうしました?」
「チケットを持ってないんですけど、どうしても諦めきれなくて……」
同じ町の観客たちと同じ船にこっそり乗り込んで、ここまで来たらしい。まだ自由になるお金なんて全然ないのだろう。グッズのひとつも身に着けていなかった。
「内緒だよ」
僕は少し考えて、彼女を中に通した。音楽は誰にでも平等にあるべきだ。とくに、子供には。もし音楽ホールなどであれば席が決まっているから難しかったかもしれないが基本は芝生席だから小さい女の子一人くらいであればなんとでもなるだろう。それに、きっとウタもそうしただろうと僕は勝手に思っている。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
少女に手を振り返して、僕は立ち上がる。もう開演時間だ。この後来る観客もそうそういないだろう。僕もライブを観られる場所を探し、高台へ上り腰を下ろす。ステージが始まるまでのこの緊張と期待が空気を支配している時間が好きだ。バチン、とステージの照明が着いた。希代の歌姫のライブが、始まる。
