漫画(ジャンプ系)
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白と赤に染め分けられたアシメントリーの髪が、彼女の活発なパフォーマンスや喜怒哀楽に合わせて跳ねるのが好きだった。
普段の生活の中で、突発的に開催されるライブが電伝虫から流れ出したら慌てて仲間たちと電伝虫の前に集まるのも。
海賊に抵抗して殺されてしまった仲間たちのことを思い出すから、ウタの歌声を聴くのがつらい時期もあった。だけれど画面の向こうの彼女の背景がいつも、美しい海やのどかな牧場や静かに風が吹くだけの丘ばかりなことに気がついてから、自分はウタの配信に前にも増して熱中するようになった。海賊も海軍も天竜人も無縁の場所から発信されているように思えたからだった。彼女の生きる世界に自分も行きたいと、壁や屋根に穴の空いた元酒場で一人思った。もうこんなところには一秒たりとも居たくはなかった。
そんな矢先、ウタが初ライブを開催するというニュースがこの辺鄙な島にも飛び込んできた。ニュースを投げ入れたのは他でもないウタの配信なのだが。特産といえるものもなく、地図にも載らないような小ささのこの島は海賊がついでのように蹴飛ばしていくばかりだ。新聞も何週間か遅れで来るようなこの場所で、ウタだけが新鮮だった。
自分は土に埋めて隠していたなけなしの金を集めて、近くのもう少し大きな島へ渡りチケットをどうにか購入した。自分よりもいくらか小綺麗な近所の島民たちと寄り集まった船でエレジアへと渡る。当日は霧が出ていたがそんなものはライブが始まってしまえば気にならなかった。ウタの声が自分が今吸っている空気を震わせる。響き渡る声があんなに厚かった霧や雲を晴らしたようだった。自分が押さえられた席からは、人差し指程度の大きさでしかウタは見えない。けれどどういう魔法を使っているのか、空中に浮かせた音符に映像を投影したり、客席の上を自由に飛び回ったりして触れるんじゃないかと思うほど近しい距離に彼女はやってきた。
今、ステージの背景に投影されているのは歌っている彼女の横顔だった。彼女に出してもらった柔らかいパンを齧りながら、自分はステージをずっと眺めている。少し長めの白い前髪が、彼女のすみれの花のような色の目を隠す。それがミステリアスな雰囲気を醸し出して、彼女に多層的な印象を与える。子供の頃、まだ島が今よりもマシだった頃に読んだ絵本の神様を思い出した。あれの挿絵の神様も、長い髪に隠された目は見えなかった。
「この世界は、現実じゃありません!」
若い真っ直ぐな声がエレジア中に響いた。ウタの作った夢の世界らしい。周囲はにわかにざわつく。自分は今叫んだ若い男を知らなかったが、どうやら海軍の英雄のようだ。ずいぶんと支持を受けているらしく、与太話にしか思えない発言は一定の信憑性を持って辺りを駆け回ってゆく。自分は別に彼のことを知らなかったし、別に夢でもいいじゃないかと思った。居たい場所にずっと居られるのであれば、現実だって夢だって違いはない。踏みしめる草の感覚も、人いきれも、さっき飲み込んだパンの味も現実と違いはなかった。
「そうか、わかったよ! もっと楽しいことがあればいいんだね!」
背景から湧き出る光でウタの顔は影になってしまっていた。自分の位置からは、高いところに浮かんでいる彼女の表情はいよいよ伺えない。突然上がってきた水位がなす術なく自分たちを飲み込んでゆく。周囲の人間が犬や熊や猫なんかのぬいぐるみになっていくのが分かった。そして自分も綿の詰まった何かになったのも。水中に漂っているように感じるが、息は苦しくない。周囲のぬいぐるみは嘆いたり啜り泣いたりしているが、自分はむしろ安息を感じて、目を閉じた。
「観客の皆さん!」
また、あの海軍の声が響いて辺りが騒がしくなる。
「落ち着いて避難してください」
どうやら彼らは観客をよそに逃がそうとしているようだった。我先にとぬいぐるみ達が流れていくが、自分はどうしても行く気になれなかった。隅の方でじっとしていたが、先導していた若い海軍に見つかった。海軍など生まれて初めて見たが、案外目ざといものなのだな、と皮肉交じりに思う。
「ここは危険です、早く避難してください」
いつの間にか出現していた巨大な化け物からこちらを庇うようにして、彼は自分を誘導しようとする。
『海賊に荒らされた島になんか、帰りたくない』
声に出そうとは思っていなかったが、この体は少々勝手が違うらしかった。自分の言葉に年若い海兵ははっきりと傷ついたような顔をした。その隙をついて自分は、この上も下もないような世界のさらに深くへ沈んでいった。
子守唄のような優しい旋律で、自分はまた目を覚ました。もう二度と起きなくてもよかったのに。抵抗するように自分は耳を塞ごうとしたが、短い手足では難しかった。そしてすぐにまた睡魔へ引き込まれることが、今度ははっきりと感じられた。
忌まわしい現実世界で目を覚ましてしまって、手足が人間のそれに戻っていることを認めざるを得なかった。耳の奥には最後に聴いた歌がまだ響いている。今日起こったこと全てに現実味がなく、ひいてはウタの存在も夢のように感じられた。彼女は一体何だったのだろう。その歌声に確かに血が通っていることしか分からなかった。しかし熱はすぐに失われる。夜になって冷えていく芝生の上で、自分はそっと最後に聴いた歌を口ずさむ。元気が出る感じもなく、救われたという実感もなかった。帰りの船の算段を立てるのがただひどく、億劫だった。
普段の生活の中で、突発的に開催されるライブが電伝虫から流れ出したら慌てて仲間たちと電伝虫の前に集まるのも。
海賊に抵抗して殺されてしまった仲間たちのことを思い出すから、ウタの歌声を聴くのがつらい時期もあった。だけれど画面の向こうの彼女の背景がいつも、美しい海やのどかな牧場や静かに風が吹くだけの丘ばかりなことに気がついてから、自分はウタの配信に前にも増して熱中するようになった。海賊も海軍も天竜人も無縁の場所から発信されているように思えたからだった。彼女の生きる世界に自分も行きたいと、壁や屋根に穴の空いた元酒場で一人思った。もうこんなところには一秒たりとも居たくはなかった。
そんな矢先、ウタが初ライブを開催するというニュースがこの辺鄙な島にも飛び込んできた。ニュースを投げ入れたのは他でもないウタの配信なのだが。特産といえるものもなく、地図にも載らないような小ささのこの島は海賊がついでのように蹴飛ばしていくばかりだ。新聞も何週間か遅れで来るようなこの場所で、ウタだけが新鮮だった。
自分は土に埋めて隠していたなけなしの金を集めて、近くのもう少し大きな島へ渡りチケットをどうにか購入した。自分よりもいくらか小綺麗な近所の島民たちと寄り集まった船でエレジアへと渡る。当日は霧が出ていたがそんなものはライブが始まってしまえば気にならなかった。ウタの声が自分が今吸っている空気を震わせる。響き渡る声があんなに厚かった霧や雲を晴らしたようだった。自分が押さえられた席からは、人差し指程度の大きさでしかウタは見えない。けれどどういう魔法を使っているのか、空中に浮かせた音符に映像を投影したり、客席の上を自由に飛び回ったりして触れるんじゃないかと思うほど近しい距離に彼女はやってきた。
今、ステージの背景に投影されているのは歌っている彼女の横顔だった。彼女に出してもらった柔らかいパンを齧りながら、自分はステージをずっと眺めている。少し長めの白い前髪が、彼女のすみれの花のような色の目を隠す。それがミステリアスな雰囲気を醸し出して、彼女に多層的な印象を与える。子供の頃、まだ島が今よりもマシだった頃に読んだ絵本の神様を思い出した。あれの挿絵の神様も、長い髪に隠された目は見えなかった。
「この世界は、現実じゃありません!」
若い真っ直ぐな声がエレジア中に響いた。ウタの作った夢の世界らしい。周囲はにわかにざわつく。自分は今叫んだ若い男を知らなかったが、どうやら海軍の英雄のようだ。ずいぶんと支持を受けているらしく、与太話にしか思えない発言は一定の信憑性を持って辺りを駆け回ってゆく。自分は別に彼のことを知らなかったし、別に夢でもいいじゃないかと思った。居たい場所にずっと居られるのであれば、現実だって夢だって違いはない。踏みしめる草の感覚も、人いきれも、さっき飲み込んだパンの味も現実と違いはなかった。
「そうか、わかったよ! もっと楽しいことがあればいいんだね!」
背景から湧き出る光でウタの顔は影になってしまっていた。自分の位置からは、高いところに浮かんでいる彼女の表情はいよいよ伺えない。突然上がってきた水位がなす術なく自分たちを飲み込んでゆく。周囲の人間が犬や熊や猫なんかのぬいぐるみになっていくのが分かった。そして自分も綿の詰まった何かになったのも。水中に漂っているように感じるが、息は苦しくない。周囲のぬいぐるみは嘆いたり啜り泣いたりしているが、自分はむしろ安息を感じて、目を閉じた。
「観客の皆さん!」
また、あの海軍の声が響いて辺りが騒がしくなる。
「落ち着いて避難してください」
どうやら彼らは観客をよそに逃がそうとしているようだった。我先にとぬいぐるみ達が流れていくが、自分はどうしても行く気になれなかった。隅の方でじっとしていたが、先導していた若い海軍に見つかった。海軍など生まれて初めて見たが、案外目ざといものなのだな、と皮肉交じりに思う。
「ここは危険です、早く避難してください」
いつの間にか出現していた巨大な化け物からこちらを庇うようにして、彼は自分を誘導しようとする。
『海賊に荒らされた島になんか、帰りたくない』
声に出そうとは思っていなかったが、この体は少々勝手が違うらしかった。自分の言葉に年若い海兵ははっきりと傷ついたような顔をした。その隙をついて自分は、この上も下もないような世界のさらに深くへ沈んでいった。
子守唄のような優しい旋律で、自分はまた目を覚ました。もう二度と起きなくてもよかったのに。抵抗するように自分は耳を塞ごうとしたが、短い手足では難しかった。そしてすぐにまた睡魔へ引き込まれることが、今度ははっきりと感じられた。
忌まわしい現実世界で目を覚ましてしまって、手足が人間のそれに戻っていることを認めざるを得なかった。耳の奥には最後に聴いた歌がまだ響いている。今日起こったこと全てに現実味がなく、ひいてはウタの存在も夢のように感じられた。彼女は一体何だったのだろう。その歌声に確かに血が通っていることしか分からなかった。しかし熱はすぐに失われる。夜になって冷えていく芝生の上で、自分はそっと最後に聴いた歌を口ずさむ。元気が出る感じもなく、救われたという実感もなかった。帰りの船の算段を立てるのがただひどく、億劫だった。
