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あの悪夢のような夜から一年ほどが経った。
今は大人ひとりと子どもひとりしか暮らしていないエレジアを復興する手など足りるわけがなく、また二人だけで暮らすのであれば焼け残った屋敷がひとつあればよかった。ますます廃墟と化し、自然に飲み込まれてゆく国土をゴードンは歩いていた。それは学院の地下書庫に残された楽譜や資料を掘り出すためである。昨日の雨で地面はぬかるんでいた。その柔らかくなった泥の中から、何かが覗いているのを発見したゴードンは、服が汚れるのも構わずに地面に膝を付き、土をかき分けた。果たしてそれは、傷ついた音貝であった。高価なものではあったが、やはり自分の演奏をすぐに録音して聴き返したり好きな音楽を簡単に持ち運んで聴けるという点が好まれ、この国には沢山の音貝が持ち込まれていた。もしこれにも誰かの演奏や歌声なんかが記録されていれば、ウタへの良い教材になるかもしれない。そう考えて音貝をゴードンは耳にあてた。
「……あ、あー、おれはギタ……トの……で……今……ムジカ……」
切れ切れに聞こえてきたのは人の声と、その背景に何か重いものが崩れる音。またおよそどの楽器でも出せないような不協和音だった。声は段々と明瞭になる。
「……もう、道も崩れて、そこま、で火の手が、来てます。た、たて、建物の下敷きになった、友人から預かったバイオリンを」
じゃらん、と弦を弾いた音が聴こえた。その和音で、彼の声の震えが止んだのがゴードンには分かった。
「友人のバイオリンをケースごと埋めたので、もしこれを聞いているあなたが親切なら、探してもらえないでしょうか」
節をつけて歌うようなその喋り方をする男を、ゴードンは知っていた。知っていたどころか、彼が文字を読めるようになる前に楽譜を読めるようにしてしまったのはゴードンだったからだ。学院の卒業生の中でもとりわけ、自分の声とギターがあればいいような性質の青年であった。音貝から聞こえてくるアコースティックギターの旋律は、即興のようであった。考え考え弾いているそれが、後ろで響くトットムジカにあわせたものだとゴードンが気がつくのに時間はかからなかった。
「私はここで死ぬでしょうが、死ぬのであれば音楽と共に死にたい。あんなものに邪魔されたくはない。それさえ叶えば未練なんてそんなにはない」
トットムジカの咆哮とコードが合っていく。弦が力強くかき鳴らされる。最後にひとつフォルテッシモの和音が鳴ってばさばさと木が倒れる音がした。
ふ、とゴードンは無意識に止めていた息を吐きだした。自分の教えた青年が最期まで音楽に殉じたことを誇らしく思ってしまい、すぐにそう思った自分を嫌悪した。うつむくと泥で汚れた革靴が目に入る。先端が欠けた音貝を、ていねいにハンカチーフに包んでポケットに入れたゴードンは辺りの瓦礫や倒木を避けて土を手あたり次第に掘る。泥が詰まった爪で掘り出したぼろぼろの楽器ケースの中のバイオリンは、すっかり黴や腐食でだめになってしまっていた。それをゴードンは持って帰る。そうして自身の使っている煤けた書斎の奥底にしまい込んだ。
今は大人ひとりと子どもひとりしか暮らしていないエレジアを復興する手など足りるわけがなく、また二人だけで暮らすのであれば焼け残った屋敷がひとつあればよかった。ますます廃墟と化し、自然に飲み込まれてゆく国土をゴードンは歩いていた。それは学院の地下書庫に残された楽譜や資料を掘り出すためである。昨日の雨で地面はぬかるんでいた。その柔らかくなった泥の中から、何かが覗いているのを発見したゴードンは、服が汚れるのも構わずに地面に膝を付き、土をかき分けた。果たしてそれは、傷ついた音貝であった。高価なものではあったが、やはり自分の演奏をすぐに録音して聴き返したり好きな音楽を簡単に持ち運んで聴けるという点が好まれ、この国には沢山の音貝が持ち込まれていた。もしこれにも誰かの演奏や歌声なんかが記録されていれば、ウタへの良い教材になるかもしれない。そう考えて音貝をゴードンは耳にあてた。
「……あ、あー、おれはギタ……トの……で……今……ムジカ……」
切れ切れに聞こえてきたのは人の声と、その背景に何か重いものが崩れる音。またおよそどの楽器でも出せないような不協和音だった。声は段々と明瞭になる。
「……もう、道も崩れて、そこま、で火の手が、来てます。た、たて、建物の下敷きになった、友人から預かったバイオリンを」
じゃらん、と弦を弾いた音が聴こえた。その和音で、彼の声の震えが止んだのがゴードンには分かった。
「友人のバイオリンをケースごと埋めたので、もしこれを聞いているあなたが親切なら、探してもらえないでしょうか」
節をつけて歌うようなその喋り方をする男を、ゴードンは知っていた。知っていたどころか、彼が文字を読めるようになる前に楽譜を読めるようにしてしまったのはゴードンだったからだ。学院の卒業生の中でもとりわけ、自分の声とギターがあればいいような性質の青年であった。音貝から聞こえてくるアコースティックギターの旋律は、即興のようであった。考え考え弾いているそれが、後ろで響くトットムジカにあわせたものだとゴードンが気がつくのに時間はかからなかった。
「私はここで死ぬでしょうが、死ぬのであれば音楽と共に死にたい。あんなものに邪魔されたくはない。それさえ叶えば未練なんてそんなにはない」
トットムジカの咆哮とコードが合っていく。弦が力強くかき鳴らされる。最後にひとつフォルテッシモの和音が鳴ってばさばさと木が倒れる音がした。
ふ、とゴードンは無意識に止めていた息を吐きだした。自分の教えた青年が最期まで音楽に殉じたことを誇らしく思ってしまい、すぐにそう思った自分を嫌悪した。うつむくと泥で汚れた革靴が目に入る。先端が欠けた音貝を、ていねいにハンカチーフに包んでポケットに入れたゴードンは辺りの瓦礫や倒木を避けて土を手あたり次第に掘る。泥が詰まった爪で掘り出したぼろぼろの楽器ケースの中のバイオリンは、すっかり黴や腐食でだめになってしまっていた。それをゴードンは持って帰る。そうして自身の使っている煤けた書斎の奥底にしまい込んだ。
