漫画(ジャンプ系)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
サニー号の晩餐はいつもにぎやかだ。晩餐に限ったことではないけど。ウソップさんやルフィ船長やフランキーさんなんかの笑い声と、そこに割り込むナミさんのツッコミ。波音とその騒がしさが心地よくて、私は少し離れた場所から彼らを眺めながらビールをちびちびと飲んでいた。夕焼けが眩しくて目を細めたとき、私の上に影が落ちた。
「混ざらなくてもいいんですか」
「いいんですよ、見てるだけでも楽しいので」
ロビンさんが肩を震わせて爆笑しているのがここからでも分かった。見ているだけで楽しいのは本当だ。いつもなら私もあの中に混ざっているけど今日はなんとなく外から眺めていたい気分だった。そのことが、彼に気を遣わせたようだった。私の言葉に彼は安心したようにヨホホと笑う。
「もしよければパンツ見せて貰えませんか?」
そしていつも通りの脈絡のない下品な発言だ。いつもならため息をついて黙殺するか嫌ですと切って捨てるところだ。あんまりにもいつも通りのことだから、今私達に注意を向けている相手はいないようだった。
「恋人同士とかだったら、見せてもいいんですけどね」
「えっ」
私と彼にはかなりの身長差があるが、ブルックさんは私のそんなに大きくない声を聞き逃さない。音楽家だから耳がいいのだろうか。ともかく、私の言葉に身じろぎした彼の体中の骨がガタリと音を立てた。彼の体は幾多の戦いを乗り越えたあともなお、なめらかな象牙色をしている。その精巧な工芸品みたいな手が奏でる音楽が好きだ。最初はそれだけだったのに、肉がなくなってもなお美しい指に触れてみたくなったのはいつからだろう。沈みかけた太陽の光が、ブルックさんの眼窩の影をますます濃いものにした。
「……それは、意趣返しとかではなく?」
「違うだろうなって声で言うなら言わないでくださいよ。もっとちゃんと伝えたほうがいいですか?」
すっ、と私の唇に彼の人差し指が当てられた。温かくも冷たくもない硬質な感触がする。
「私とアナタでは、おじいちゃんと孫……もしかしたらひいおじいちゃんとひ孫くらい年の差があるんですよ」
「こういうときだけ都合よく年の差を持ち出さないでください」
ブルックさんは困ったように頭を掻いた。
「アナタはこれから、この広い世界でいくらでも素敵な人と出会えるでしょう。こんな一度死んだような骨だけの男はふさわしくありません」
表情を構成する筋肉などないのに、彼が苦笑しているのが私には分かった。その言葉は、素直に私を慮ったものか、それとも――。
「私のような小娘、ブルックさんの眼中にいないってことがよく分かりました。もういいです。でも私、諦めませんからね」
ちょうどメインが出来たらしく、サンジさんが私たちを呼ぶ声がした。それに返事をして、私はブルックさんを放って皆に合流した。
あの夕方からしばらく経った寝ずの番の日、私はため息をつきながら見張り台で星を見上げていた。ブルックさんとはほぼ全く話していない。避けているつもりはないが、向こうから話しかけてこないのだ。前は脈絡なくパンツを見せてほしいとか頼んできたくせに、それもぱったりなくなっている。私以外の二人には言うくせに。あまりにも不自然だから、ナミさんロビンさん、サンジさんだけじゃなくウソップさん辺りにもじわじわ気まずいことがバレている。私はもう一度大きなため息をついた。船という閉鎖空間の中に揉め事を持ち込むのは最悪だ。啖呵を切ったことは後悔していないが取り付く島もないことが私を悩ませている。いよいよ眼中にないことを受け入れなければならないのだろうか。夜に波音を聞きながら一人で思索に耽るのは悪いことではないが今ばかりはネガティブを加速させるだけだった。
そのとき、ぎし、と見張り台に繋がる梯子が鳴った。
「おコンバンワ」
ひょっこりと覗いたアフロ頭は、今一番会いたくもあるし、今一番会いたくもないその人だった。げっ、と言いかけたのをどうにか飲み込んで私もこんばんはと返す。
「ちょっと失礼しますよ」
広々としているわけでない見張り台は二人でいっぱいだ。ブルックさんが腰をかがめて私の顔を覗き込んだから、私は気まずさと照れで反射的に逃げようとしてしまう。その私の手を、ブルックさんが掴んだ。そのまま彼の顔と私の指が近づき、彼の落ちくぼんだ眼窩の闇に私の指先が浸された。
「……どういうつもりですか」
「眼中にないどころか、目に入れても痛くないと思ってますよ。私、もう目ありませんけど」
ヨホホ、と彼は笑って私の手を離した。
「なら、なんでこの前はぐらかしたんですか」
「想いが通じ合った先で、アナタと別れるのが怖い」
びゅう、と風が彼の髪や服を揺らす。
「私は、ブルックさんに想いを伝えずに終わることのほうが怖かった」
風はどんどん強くなっていく。これ以上強く吹き続けるようなら、ナミさんを起こしたほうがいいかもしれない。どうか落ち着いてくれと私は無責任な神頼みをした。まだここで二人で話していたい。
「私は、ブルックさんよりも孤独とか、大事な人とお別れすることを経験してはいませんけど、でも。いつか離れ離れになるんなら、それまではあなたを大事にさせてほしい」
今度は私から、ブルックさんの手を掴んだ。私よりも二回りくらい大きな手だ。する、と関節を撫でる。敵わないですねぇ、とブルックさんが言った。
「そうですよ、だから観念してください」
いつのまにか風は穏やかになっていた。月光に照らされたブルックさんの体は美しく光っている。
「混ざらなくてもいいんですか」
「いいんですよ、見てるだけでも楽しいので」
ロビンさんが肩を震わせて爆笑しているのがここからでも分かった。見ているだけで楽しいのは本当だ。いつもなら私もあの中に混ざっているけど今日はなんとなく外から眺めていたい気分だった。そのことが、彼に気を遣わせたようだった。私の言葉に彼は安心したようにヨホホと笑う。
「もしよければパンツ見せて貰えませんか?」
そしていつも通りの脈絡のない下品な発言だ。いつもならため息をついて黙殺するか嫌ですと切って捨てるところだ。あんまりにもいつも通りのことだから、今私達に注意を向けている相手はいないようだった。
「恋人同士とかだったら、見せてもいいんですけどね」
「えっ」
私と彼にはかなりの身長差があるが、ブルックさんは私のそんなに大きくない声を聞き逃さない。音楽家だから耳がいいのだろうか。ともかく、私の言葉に身じろぎした彼の体中の骨がガタリと音を立てた。彼の体は幾多の戦いを乗り越えたあともなお、なめらかな象牙色をしている。その精巧な工芸品みたいな手が奏でる音楽が好きだ。最初はそれだけだったのに、肉がなくなってもなお美しい指に触れてみたくなったのはいつからだろう。沈みかけた太陽の光が、ブルックさんの眼窩の影をますます濃いものにした。
「……それは、意趣返しとかではなく?」
「違うだろうなって声で言うなら言わないでくださいよ。もっとちゃんと伝えたほうがいいですか?」
すっ、と私の唇に彼の人差し指が当てられた。温かくも冷たくもない硬質な感触がする。
「私とアナタでは、おじいちゃんと孫……もしかしたらひいおじいちゃんとひ孫くらい年の差があるんですよ」
「こういうときだけ都合よく年の差を持ち出さないでください」
ブルックさんは困ったように頭を掻いた。
「アナタはこれから、この広い世界でいくらでも素敵な人と出会えるでしょう。こんな一度死んだような骨だけの男はふさわしくありません」
表情を構成する筋肉などないのに、彼が苦笑しているのが私には分かった。その言葉は、素直に私を慮ったものか、それとも――。
「私のような小娘、ブルックさんの眼中にいないってことがよく分かりました。もういいです。でも私、諦めませんからね」
ちょうどメインが出来たらしく、サンジさんが私たちを呼ぶ声がした。それに返事をして、私はブルックさんを放って皆に合流した。
あの夕方からしばらく経った寝ずの番の日、私はため息をつきながら見張り台で星を見上げていた。ブルックさんとはほぼ全く話していない。避けているつもりはないが、向こうから話しかけてこないのだ。前は脈絡なくパンツを見せてほしいとか頼んできたくせに、それもぱったりなくなっている。私以外の二人には言うくせに。あまりにも不自然だから、ナミさんロビンさん、サンジさんだけじゃなくウソップさん辺りにもじわじわ気まずいことがバレている。私はもう一度大きなため息をついた。船という閉鎖空間の中に揉め事を持ち込むのは最悪だ。啖呵を切ったことは後悔していないが取り付く島もないことが私を悩ませている。いよいよ眼中にないことを受け入れなければならないのだろうか。夜に波音を聞きながら一人で思索に耽るのは悪いことではないが今ばかりはネガティブを加速させるだけだった。
そのとき、ぎし、と見張り台に繋がる梯子が鳴った。
「おコンバンワ」
ひょっこりと覗いたアフロ頭は、今一番会いたくもあるし、今一番会いたくもないその人だった。げっ、と言いかけたのをどうにか飲み込んで私もこんばんはと返す。
「ちょっと失礼しますよ」
広々としているわけでない見張り台は二人でいっぱいだ。ブルックさんが腰をかがめて私の顔を覗き込んだから、私は気まずさと照れで反射的に逃げようとしてしまう。その私の手を、ブルックさんが掴んだ。そのまま彼の顔と私の指が近づき、彼の落ちくぼんだ眼窩の闇に私の指先が浸された。
「……どういうつもりですか」
「眼中にないどころか、目に入れても痛くないと思ってますよ。私、もう目ありませんけど」
ヨホホ、と彼は笑って私の手を離した。
「なら、なんでこの前はぐらかしたんですか」
「想いが通じ合った先で、アナタと別れるのが怖い」
びゅう、と風が彼の髪や服を揺らす。
「私は、ブルックさんに想いを伝えずに終わることのほうが怖かった」
風はどんどん強くなっていく。これ以上強く吹き続けるようなら、ナミさんを起こしたほうがいいかもしれない。どうか落ち着いてくれと私は無責任な神頼みをした。まだここで二人で話していたい。
「私は、ブルックさんよりも孤独とか、大事な人とお別れすることを経験してはいませんけど、でも。いつか離れ離れになるんなら、それまではあなたを大事にさせてほしい」
今度は私から、ブルックさんの手を掴んだ。私よりも二回りくらい大きな手だ。する、と関節を撫でる。敵わないですねぇ、とブルックさんが言った。
「そうですよ、だから観念してください」
いつのまにか風は穏やかになっていた。月光に照らされたブルックさんの体は美しく光っている。
