漫画(ジャンプ系)
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激しい雨が、まだ整備の追いついていない道路の土をえぐる。数時間前に起きた土砂崩れで、司は完全に足止めを食らっていた。
もしもその土砂の中に閉じ込められた人間がいたならば、倒木を引きずってでも彼は向かっただろうが、幸いにして町に行方不明者はいないようだった。公演(といっても子ども向けの気軽なイベントだ。ヒーローショーに近い)に使った公共の建造物で、大人しく一夜を過ごすことにした。司が宿泊を承諾した際の町長は、ほっとした顔をしていた。司の並外れた身体能力について、千空たちはよく分かっているがそれを知らない人間が心配するのはもっともなことだ。そう司は思う。
職員用の食堂を使っていいですよ、この雨の中外に出たくはないでしょうという町長の言葉に甘えて、司は食堂へ向かう。時間ギリギリに滑り込んだものだから、利用者はほぼいなかった。ただ、入り口辺りに一人、書き物をしながらラーメンを啜っている女がいた。その顔に司は見覚えがある。隣に住んでるから大丈夫! と頼もしく微笑む食堂スタッフに余っているらしい肉を余分に盛ってもらった司は、彼女の向かい側に座る。
「まさか君も来ていたとはね」
話しかけられたからというよりよ、音が聞こえたから反射的に顔を上げた彼女は、ややあって「お久しぶりです」と返答した。他人に顔を忘れられることが滅多にない司は、その間を不思議に思う。ちょっと待ってくださいね、と彼女はノートに何かを書きつけてから、ぱたりと閉じた。
「そういえば今日、何かイベントでもあったんでしたっけ」
「うん、それに呼ばれてね。君は?」
司は手を合わせてから料理に手をつける。彼女は、のびて太くなった麺を啜る。窓ガラスを雨が激しく叩いていた。
「私は聞き取りです。この辺りって石化前から住んでる方が多いので。どんな建物があったかとかどういう地形だったかとか、どんな事があったかとか収集してるんです。今日はもうこんな天気なんで無理ですけど。地図とか発掘できないから、そういうところから地道に再現していくしかないんですよね」
「今書いていたのも、そうなのかい?」
「いやこれは違いますね。昔好きだった小説の内容を思い出したら書いているんです」
遠く響いていた雷鳴はどんどん近づいている。まだこの世界に出回っている電球の明るさは、三千七百年前のそれには敵わない。けれどもうあと数年のうちには、きっと追いつくだろう。けれど物語や、過去の失われてしまった資料の復旧は門外漢の司からみても果てしない道のりに感じられた。きっと彼女一人分の人生まるごとをかけても数冊復刻できればいい方だろう。そうまでして、と問うのは失礼なことに思えた。多くの人間の積み重ねによって世界を救った少年を司は知っているからだ。彼女もまた、ジャンルこそ違えど自分が大きな歩みの礎となることを正しく受け入れている人間であると司は思う。そしてそれを眩しく感じている。司が目を細めたその瞬間、辺りに轟音が響き、電気が明滅して、全て消えた。口の中の米を飲み込んで、司は暗闇に目を慣らす。彼女は落ち着きはらって、隣の椅子に置いていたらしい手持ちランプに火を灯していた。
「大丈夫ですか?」
そう訊くことは数あれど、訊かれたことは数えるほどしかない司は苦笑いしてあぁと答えた。食堂スタッフは先ほど帰って行ったのを見送ったから、この場には二人きりである。ランプを持った彼女の先導で、食べ終わった食器をまとめて司が運ぶ。水は出るのが幸いであった。並んで各々が使った分を洗って片付けた。手を適当な布で拭きながら、彼女は司に質問する。
「そういえば司さん、今日どこでお休みになりますか?」
「……そういえば聞きそびれたな」
「じゃあ私の使ってる部屋に来ますか? ベッドとかはないですけど毛布なら予備があります。灯りも一つしかないですし……」
自分よりも頭ひとつもふたつも低い彼女に、有無を言わさず司は引っ張られていった。普段であれば断っていただろう。ただ、科学王国のメンバーにも、半年以上前の杠と大樹の結婚式以降会えておらず、世界を飛び回り秩序の象徴として手を振る日々が続いていた中で、いかな司といえど少しばかり疲れていたのかもしれない。とにかく、奇跡的に彼女の申し出を素直に受け取ったのだった。
数週間この町に滞在しているという彼女は、慣れた様子で与えられている自室へと司を案内した。
「少し狭いですが、今寝られるスペースを作りますので……」
唯一の光源であるランプが、積み重なった紙の束や洗濯物に複雑な陰影をつける。その陰影を崩すように彼女は物を脇に寄せ、司が横になれるくらいのスペースを作る。
「君は?」
「私は作業してから机の下とかで寝ます!」
毛布を畳みなおしてから司に渡した彼女はきっぱりと言う。司は未来や杠を思い出す。こういう言い方をする人間は、大体譲らないことを経験則から知っていた。彼女は自分が使う一枚以外を全て司に渡していたので、彼は毛布に挟まる形で横になった。ランプは彼女の机の上に乗っている。
「眩しくないですか? あとたぶん私独り言すごいのでうるさかったら言ってください」
「構わないよ」
横になって目を閉じるだけでも休息はとれるだろうと判断して、司はそう答えた。
「ほんとですよ? じゃあおやすみなさい」
「うん、おやすみ」
電力がまだ潤沢ではないストーンワールドの夜は長い。停電したこんな夜は特にだ。しかし休めるときに休んでおくという習慣が身についている司は大人しく目を閉じる。雨音に混じって彼女が紙をめくる音や、ペンと紙がこすれる音がしていた。
「坂の……クスノキ……」
彼女はもう司のことなど眼中にないようで、意味がとれないくらいの単語の連なりを呟きだしていた。
それを聞き流しているうちに、いつのまにか司は眠りに落ちていた。
もしもその土砂の中に閉じ込められた人間がいたならば、倒木を引きずってでも彼は向かっただろうが、幸いにして町に行方不明者はいないようだった。公演(といっても子ども向けの気軽なイベントだ。ヒーローショーに近い)に使った公共の建造物で、大人しく一夜を過ごすことにした。司が宿泊を承諾した際の町長は、ほっとした顔をしていた。司の並外れた身体能力について、千空たちはよく分かっているがそれを知らない人間が心配するのはもっともなことだ。そう司は思う。
職員用の食堂を使っていいですよ、この雨の中外に出たくはないでしょうという町長の言葉に甘えて、司は食堂へ向かう。時間ギリギリに滑り込んだものだから、利用者はほぼいなかった。ただ、入り口辺りに一人、書き物をしながらラーメンを啜っている女がいた。その顔に司は見覚えがある。隣に住んでるから大丈夫! と頼もしく微笑む食堂スタッフに余っているらしい肉を余分に盛ってもらった司は、彼女の向かい側に座る。
「まさか君も来ていたとはね」
話しかけられたからというよりよ、音が聞こえたから反射的に顔を上げた彼女は、ややあって「お久しぶりです」と返答した。他人に顔を忘れられることが滅多にない司は、その間を不思議に思う。ちょっと待ってくださいね、と彼女はノートに何かを書きつけてから、ぱたりと閉じた。
「そういえば今日、何かイベントでもあったんでしたっけ」
「うん、それに呼ばれてね。君は?」
司は手を合わせてから料理に手をつける。彼女は、のびて太くなった麺を啜る。窓ガラスを雨が激しく叩いていた。
「私は聞き取りです。この辺りって石化前から住んでる方が多いので。どんな建物があったかとかどういう地形だったかとか、どんな事があったかとか収集してるんです。今日はもうこんな天気なんで無理ですけど。地図とか発掘できないから、そういうところから地道に再現していくしかないんですよね」
「今書いていたのも、そうなのかい?」
「いやこれは違いますね。昔好きだった小説の内容を思い出したら書いているんです」
遠く響いていた雷鳴はどんどん近づいている。まだこの世界に出回っている電球の明るさは、三千七百年前のそれには敵わない。けれどもうあと数年のうちには、きっと追いつくだろう。けれど物語や、過去の失われてしまった資料の復旧は門外漢の司からみても果てしない道のりに感じられた。きっと彼女一人分の人生まるごとをかけても数冊復刻できればいい方だろう。そうまでして、と問うのは失礼なことに思えた。多くの人間の積み重ねによって世界を救った少年を司は知っているからだ。彼女もまた、ジャンルこそ違えど自分が大きな歩みの礎となることを正しく受け入れている人間であると司は思う。そしてそれを眩しく感じている。司が目を細めたその瞬間、辺りに轟音が響き、電気が明滅して、全て消えた。口の中の米を飲み込んで、司は暗闇に目を慣らす。彼女は落ち着きはらって、隣の椅子に置いていたらしい手持ちランプに火を灯していた。
「大丈夫ですか?」
そう訊くことは数あれど、訊かれたことは数えるほどしかない司は苦笑いしてあぁと答えた。食堂スタッフは先ほど帰って行ったのを見送ったから、この場には二人きりである。ランプを持った彼女の先導で、食べ終わった食器をまとめて司が運ぶ。水は出るのが幸いであった。並んで各々が使った分を洗って片付けた。手を適当な布で拭きながら、彼女は司に質問する。
「そういえば司さん、今日どこでお休みになりますか?」
「……そういえば聞きそびれたな」
「じゃあ私の使ってる部屋に来ますか? ベッドとかはないですけど毛布なら予備があります。灯りも一つしかないですし……」
自分よりも頭ひとつもふたつも低い彼女に、有無を言わさず司は引っ張られていった。普段であれば断っていただろう。ただ、科学王国のメンバーにも、半年以上前の杠と大樹の結婚式以降会えておらず、世界を飛び回り秩序の象徴として手を振る日々が続いていた中で、いかな司といえど少しばかり疲れていたのかもしれない。とにかく、奇跡的に彼女の申し出を素直に受け取ったのだった。
数週間この町に滞在しているという彼女は、慣れた様子で与えられている自室へと司を案内した。
「少し狭いですが、今寝られるスペースを作りますので……」
唯一の光源であるランプが、積み重なった紙の束や洗濯物に複雑な陰影をつける。その陰影を崩すように彼女は物を脇に寄せ、司が横になれるくらいのスペースを作る。
「君は?」
「私は作業してから机の下とかで寝ます!」
毛布を畳みなおしてから司に渡した彼女はきっぱりと言う。司は未来や杠を思い出す。こういう言い方をする人間は、大体譲らないことを経験則から知っていた。彼女は自分が使う一枚以外を全て司に渡していたので、彼は毛布に挟まる形で横になった。ランプは彼女の机の上に乗っている。
「眩しくないですか? あとたぶん私独り言すごいのでうるさかったら言ってください」
「構わないよ」
横になって目を閉じるだけでも休息はとれるだろうと判断して、司はそう答えた。
「ほんとですよ? じゃあおやすみなさい」
「うん、おやすみ」
電力がまだ潤沢ではないストーンワールドの夜は長い。停電したこんな夜は特にだ。しかし休めるときに休んでおくという習慣が身についている司は大人しく目を閉じる。雨音に混じって彼女が紙をめくる音や、ペンと紙がこすれる音がしていた。
「坂の……クスノキ……」
彼女はもう司のことなど眼中にないようで、意味がとれないくらいの単語の連なりを呟きだしていた。
それを聞き流しているうちに、いつのまにか司は眠りに落ちていた。
