漫画(ジャンプ系)
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千空たちが宇宙から戻ってきて数年、人間社会は着々と復興に向かっていた。獅子王司もまた、ゲンとは違う役割をもって世界中を飛び回っていた。ゲンはその高い交渉能力をもってだが、他の文明と共に銃や火薬などの武器が製造できるようになってもなお、獅子王司は力と秩序を兼ね備えた存在として迎えられていた。元より察しの良い彼は、自分の役回りを正確に把握している。また、個人的な感情としても旧世界の自分のような子どもを生み出したくはなかったのだ。
だから久方ぶりに日本に帰ってきたのも、そのような目的で呼ばれてのことであった。約束の時間までまだ少しあったため、司は街を歩く。彼はよく目立つものだから、これだけでも治安維持に効果があるのだ。彼の静かな湖面のような瞳が、数メートル先の横断歩道をとらえた――が早いがぐ、とアスファルトを踏みしめて走り出す。大柄な彼の一歩もまた大きい。そしてその長い腕を伸ばし、赤信号にも関わらず横断歩道を渡ろうとしていた人間の肩を掴み、そのまま自分にもたれかからせるようにして後ろに押した。横断歩道をすぐにトラックが横切る。かつて三千七百年前にあったものよりもシンプルな造りで、速度も出ていないとはいえ生身の人間が轢かれたらただでは済まないだろう。
「大丈夫かい?」
司は、相手にまずはそう声をかけた。司に寄りかかるようになっていた相手は、はいと返事をして司に向き直る。
「あ、ありがとうございます。考え事してるとつい注意力が……」
礼を言った彼女の手には、メモ帳とペンが握られていた。このような人種に、司は心当たりがある。
「うん、でも気を付けてほしいな」
「すみません」
自分よりもずいぶん下にあるその顔が申し訳なさそうに笑う。では、と一礼してまた歩き出した彼女と、一緒の方向に司も向かう。呼ばれているイベントが開催される公園に向かうには、それが一番早そうだったからだ。そういえば前を歩いている彼女は、自分を前にしても特に驚いたような表情はしなかった。これでも元一流格闘家として、そして今は人類復活に関わったチームの一員としてそれなりに
顔は割れていると思ったのだが。司の鋭敏な耳が、彼女の独り言を拾う。そしてまた後ろからも分かるくらい書き物に没頭し始めたのをみて、彼は距離を詰めた。
「――それで、私が行こうと思ってた図書館……予定の建物と、獅子王……お兄さんが出るイベントの公園が一緒の場所にあったから、結局送ってもらったんですよ」
彼女の話を聞いて、未来は微妙な顔をした。兄の伝手で、復刻した人魚姫の絵本を献本してもらえると聞いて喜んだ未来だったが、その絵本を、わざわざ杠たちとやっている会社まで届けてくれた人間が若い女性だったことに驚いた。しかも文学復興団体メンバーという普段の司の仕事に縁もゆかりもなさそうな立場だという。もしや、と思って未来は兄との関係を問うたのだった。
「そこで、未来さんの話になって。絵本とかは割と優先してやっているからもうすぐ出せそうです、人魚姫ももうすぐなので、完成したら一冊お譲りしますって申し出たんです」
「出来たてほやほやなんや!」
「そうですよ、本当は石化前に存在したものとまったく同じ文章でちゃんと再現したものもゆくゆくは出したいんですけど、絵本とかはまず存在することが大事ですからね。だからこれは、ストーリーとかは同じですけどまったく新しい人魚姫です」
石化前の現代文学から古典作品に至るまで、世界中の有志の記憶を持ち寄って、できる限りの書籍を復活させようという活動をしているのが文学復興団体である。無論、文学以外の専門書を扱っている団体もあるらしいが未来にはあまりピンと来ない。ともかく、彼女は日夜記憶から文章を引っ張り出したり、何百人で持ち寄った文章を整理したりしているのであった。
「何かリクエストがあれば、また持ってきますよ」
ぐ、とガッツポーズをとった彼女に、未来はほんま!?と食いついた。あとで杠たちにも話そうと決心する。そのときコンコンと未来の作業室の扉がノックされた。
「どうぞー……って兄さんやんか」
「うん、久しぶりだね」
たまたま近くまで寄れたから。そう司は言いながら未来の頭を撫でる。
「あと、そろそろ完成って聞いたからね」
「ちょうどでしたね!」
彼女は絵本を司にも差し出した。司は壊れ物を扱うような手つきで、表紙を撫でた。
「ありがとう」
そう言って彼女を見つめる司の目が、他の人間に向けるものとは少し違うことに、未来は気が付いた。穏やかさの中に、好奇心に似た熱が光っている。その光は杠が大樹に向けるものとよく似ていた。
だから久方ぶりに日本に帰ってきたのも、そのような目的で呼ばれてのことであった。約束の時間までまだ少しあったため、司は街を歩く。彼はよく目立つものだから、これだけでも治安維持に効果があるのだ。彼の静かな湖面のような瞳が、数メートル先の横断歩道をとらえた――が早いがぐ、とアスファルトを踏みしめて走り出す。大柄な彼の一歩もまた大きい。そしてその長い腕を伸ばし、赤信号にも関わらず横断歩道を渡ろうとしていた人間の肩を掴み、そのまま自分にもたれかからせるようにして後ろに押した。横断歩道をすぐにトラックが横切る。かつて三千七百年前にあったものよりもシンプルな造りで、速度も出ていないとはいえ生身の人間が轢かれたらただでは済まないだろう。
「大丈夫かい?」
司は、相手にまずはそう声をかけた。司に寄りかかるようになっていた相手は、はいと返事をして司に向き直る。
「あ、ありがとうございます。考え事してるとつい注意力が……」
礼を言った彼女の手には、メモ帳とペンが握られていた。このような人種に、司は心当たりがある。
「うん、でも気を付けてほしいな」
「すみません」
自分よりもずいぶん下にあるその顔が申し訳なさそうに笑う。では、と一礼してまた歩き出した彼女と、一緒の方向に司も向かう。呼ばれているイベントが開催される公園に向かうには、それが一番早そうだったからだ。そういえば前を歩いている彼女は、自分を前にしても特に驚いたような表情はしなかった。これでも元一流格闘家として、そして今は人類復活に関わったチームの一員としてそれなりに
顔は割れていると思ったのだが。司の鋭敏な耳が、彼女の独り言を拾う。そしてまた後ろからも分かるくらい書き物に没頭し始めたのをみて、彼は距離を詰めた。
「――それで、私が行こうと思ってた図書館……予定の建物と、獅子王……お兄さんが出るイベントの公園が一緒の場所にあったから、結局送ってもらったんですよ」
彼女の話を聞いて、未来は微妙な顔をした。兄の伝手で、復刻した人魚姫の絵本を献本してもらえると聞いて喜んだ未来だったが、その絵本を、わざわざ杠たちとやっている会社まで届けてくれた人間が若い女性だったことに驚いた。しかも文学復興団体メンバーという普段の司の仕事に縁もゆかりもなさそうな立場だという。もしや、と思って未来は兄との関係を問うたのだった。
「そこで、未来さんの話になって。絵本とかは割と優先してやっているからもうすぐ出せそうです、人魚姫ももうすぐなので、完成したら一冊お譲りしますって申し出たんです」
「出来たてほやほやなんや!」
「そうですよ、本当は石化前に存在したものとまったく同じ文章でちゃんと再現したものもゆくゆくは出したいんですけど、絵本とかはまず存在することが大事ですからね。だからこれは、ストーリーとかは同じですけどまったく新しい人魚姫です」
石化前の現代文学から古典作品に至るまで、世界中の有志の記憶を持ち寄って、できる限りの書籍を復活させようという活動をしているのが文学復興団体である。無論、文学以外の専門書を扱っている団体もあるらしいが未来にはあまりピンと来ない。ともかく、彼女は日夜記憶から文章を引っ張り出したり、何百人で持ち寄った文章を整理したりしているのであった。
「何かリクエストがあれば、また持ってきますよ」
ぐ、とガッツポーズをとった彼女に、未来はほんま!?と食いついた。あとで杠たちにも話そうと決心する。そのときコンコンと未来の作業室の扉がノックされた。
「どうぞー……って兄さんやんか」
「うん、久しぶりだね」
たまたま近くまで寄れたから。そう司は言いながら未来の頭を撫でる。
「あと、そろそろ完成って聞いたからね」
「ちょうどでしたね!」
彼女は絵本を司にも差し出した。司は壊れ物を扱うような手つきで、表紙を撫でた。
「ありがとう」
そう言って彼女を見つめる司の目が、他の人間に向けるものとは少し違うことに、未来は気が付いた。穏やかさの中に、好奇心に似た熱が光っている。その光は杠が大樹に向けるものとよく似ていた。
