漫画(ジャンプ系)
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恋愛関係になるかならないか微妙な段階の異性と、しばらく会わなかったり連絡がとれなかったらそれは脈がないということだろう。しかしそのしばらくに「お互い意識不明状態のまま三千七百年」という期間が含まれていたらどうだろう。加えて、相手はメンタリストなる肩書きで活躍していた。そんな他人の感情を掌握できるような人間が干渉してこないのはつまり、どういうことなのだろう。
そもそも私が石化から復活した理由は、捕虜(クロムくん)を閉じ込める檻を作るために、建築ないし大きなものを作成する知識のある人間が必要だったからだ。有名な建築士とか見つからなかったのか、と思うけど消去法に消去法を重ねて私が選ばれたらしい。ただの大道具会社のしたっぱなのに。したっぱだったから現場を走り回ってることが多くて、獅子王司になんとなく覚えられていたらしい。
うちは変なセットの仕事ばかり回ってきたから、よく彼に壊されるためだけの大がかりな仕掛けを作っていた。ゲンにはじめて会ったのもテレビ局だ。あの仕事はあえて趣味悪くごてごてに飾り立てたバラエティ番組の背景だったか。
ゲンーー浅霧幻という人間は、基本的にカメラの前でもカメラが回っていないところでも態度はあまり変わらないタイプの芸能人だった。ただし、スタッフの顔覚えが良く挨拶がマメだったので、その軽薄な態度とのギャップも手伝って裏方からの評判はよかったと思う。まだ成人もしていない彼の処世術だったのだろう。そういうのあまり苦じゃないしね、と二人きりの食事の席で彼が言ったのを覚えている。未成年との食事だから居酒屋を避けたら律儀だねえと笑われたことも。
大道具の組み立てに多少知見があっても、石神村の人々みたいに家や船の組み立てに役立てるわけではない。それなら少しでも人手がいるところで作業をしたほうがよいだろうと私は畑作や調理や繕い物などその時々で人手が足りないところを渡り歩いている。そうやってふらふらしていると毎日誰かしらに手伝ってほしいと声をかけられる。大樹くんだったり、羽京さんだったり、フランソワさんだったり。ゲンが声をかけてきたことは、まだない。彼も彼でそこらを歩き回って人と人の折衝や千空くんに頼まれた作業をこなしており、忙しい身のようだった。それにしても会話はおろか目があったことすらない。忘れられている可能性も考えたが、むしろ避けられているのではないか。
声をかけてきたのは向こうからだった。マジックで使うセットの確認に呼び出されたのだ。仕掛けの確認や注意事項などを一通り共有したあと、彼の方から連絡先の交換を申し出てきたのだ。連絡先の二次元バーコードを表示しながら、ご飯でも食べに行こうよと言われたのを覚えている。自分よりも年下の彼は、しかし社会人一年目の自分よりもずいぶん世慣れて見えた。
「いいんですか、有名人がそういうことやって」
慣れることがついぞできなかった、はぐらかすための言葉にもゲンは頓着しなかった。首を軽くすくめて話す様子は、いかにも少し年下の若者だった。
「いいのいいの、俺そういうので売ってないから」
たしかに彼は立ち居振舞いがもてはやされるタイプの売り方ではなく、その独特な肩書きを裏切らない得体の知れなさとパフォーマンスの高さで耳目を集めるタイプの芸能人だった。
「まぁ最初は他の子も誘ってさ、俺がまだお酒飲めないのが申し訳ないけど」
「さ、」
複数人であることに安堵すればいいのか、最初という言葉に引っ掛かればいいのか分からず口から出たのは一文字だけだった。うまく受け答えできなかったことを笑われるかと思ったがそんなことはなく、じゃあ連絡するねと手を振って彼は控え室に戻っていった。
今日は収穫物の天日干しを手伝っていた。ただでさえリソースが豊かでない上に、大規模な帆船を作っている今日この頃なので、仕事はいくらでも湧いてきた。特にこういう天気に左右されるものは人手を多く割いて終わらせてしまうに限る。広くスペースをとったところにキノコやら木の実、また捕ってきた魚やらをひたすら並べていく。作業の隙間に立ち上がって腰を伸ばした。秋晴れの空を鱗雲がおおっている。干している間、天気がもてばいいが。ふと遠くに目をやると、薄い紫の服をなびかせた後ろ姿が見えた。石化から復活してからというもの、せいぜいこうやって遠くの後ろ姿を見かけるくらいだ。同じ共同体にいるのにどんな顔をしていたかもどんな声だったかもうろ覚えなのは、なにか無性に腹立たしい気がした。
結局ゲンの言葉通り、何度か若いスタッフと出演者が混ざった集まりを経て、二人で食事をするような関係になった。そもそも大人数での食事だと、彼が入れ替わり立ち替わり誰かしらに話しかけられているばかりだったので、ただ一歩親密になるためのワンクッションでしかなかった。
個室がありムーディーすぎないレストランを毎度探すのは少し面倒だったが、彼の身を守るためにも自分の身を守るためにも必要なことだと思っていたので欠かすことはなかった。それに、私も酒を飲まなかったので本当に食事をして、くだらない話をするだけだ。ゲンの言う芸能界の裏話は危うくないように巧妙にボカされたものだったし、私は仕事そのものよりも出張で行った先での食事や土産物の話ばかりしていた。
「俺が成人したら、一緒に飲んでくれるんでしょ」
いつだったか、顔を隠すために被っていた帽子をもてあそびながらゲンがそう言った。二人でいるときに、そういう幼い仕草をこれ見よがしにするのは、私がまだ彼を未成年として扱っているからだというのはなんとなく察している。ロールプレイに乗ってくれているのだ。
「来年?」
社会人二年目になっても右往左往している自分には、来年のことなんて想像がつかなかった。ゲンは来年なんてあっという間だよ、と軽く首をかしげて笑う。その顔に年下の可愛げはほとんどなかった。その顔の動きにあわせて、短く切られた前髪が揺れていた。それを見ながら私は、じゃあ店探さなきゃねと答えたのだ。
三千七百年経って、成人かどうかなんて何の意味も持たなくなった。人気のない高台への道を登りながら私は考える。けど三千七百年前の口約束がまだ意味を持っていたっていいじゃないか。
私が来たことに気が付いたゲンは、一歩後ろに下がった。けど後ろは崖だし、道は一本だけだから観念したのかいつものようにゆったりした立ち方をした。
「羽京ちゃんが呼んでるって聞いたんだけど」
「嘘だよ、ごめんね」
久しぶり、と私はゲンを見上げた。それだけのことを言うのにずいぶん時間がかかってしまった。月の明るい夜だったから、ゲンが驚いたような、泣く直前のような、笑い出す前のような顔をしているのがかすかに見えた。
「俺が忘れてるかもしれないって、思わなかったの」
「あなたほど他人の顔をよく覚えてる人間、他に知らない」
「嫌われてるとかは」
「本当に嫌だったら徹底的に避けたりせずに完全に他の子たちと同じように対応するでしょう。個人的な好き嫌いであからさまに敵を作るようなことしないと思ってるけど」
ざぁざぁと木々を揺らす風はもう冷たい。ずっと変わらない虫の声が聞こえてくる。けどゲンと会うのは街中でばかりだったから、一緒に虫の声を聞くことは初めてだった。これだけ変わった世界で、どうなってるのか確かめるのすら怖かったんだよ、と俯いた顔から聞こえてきた。 それでもメンタリストか、と思ったがその臆病さがこれまでの彼を助けてきたのかもしれない。用意の周到さと有事機転は失敗を恐れる気持ちと無関係ではないだろう。だからこうして穏やかに話せる今があるのかもしれなかった。
ゲンは何を確かめるのが怖かったのだろうか。私たちはまだ少し親密なだけで、この先どうなっていくのかも分からないまま、人類ごと強制的に終わりになった。でもこうしてまた生きているのだ。それは千空くんのおかげだったり、獅子王司のおかげだったり、ゲン本人のおかげだったりするのだろう。
「私はまた、とりあえずでご飯を一緒に食べたりくだらない話をしたりしたい。連れていきたいお店はなくなっちゃったけど、でも」
この世界にはなんとアルコールもあるから酒だって一緒に飲むことができる。前と変わらずに、というのは無理かもしれないが、やりたかったことで、実現可能なこともちゃんと存在しているのだ。最初からやり直すのではない。私たちの関係はちゃんと連続している。
そもそも私が石化から復活した理由は、捕虜(クロムくん)を閉じ込める檻を作るために、建築ないし大きなものを作成する知識のある人間が必要だったからだ。有名な建築士とか見つからなかったのか、と思うけど消去法に消去法を重ねて私が選ばれたらしい。ただの大道具会社のしたっぱなのに。したっぱだったから現場を走り回ってることが多くて、獅子王司になんとなく覚えられていたらしい。
うちは変なセットの仕事ばかり回ってきたから、よく彼に壊されるためだけの大がかりな仕掛けを作っていた。ゲンにはじめて会ったのもテレビ局だ。あの仕事はあえて趣味悪くごてごてに飾り立てたバラエティ番組の背景だったか。
ゲンーー浅霧幻という人間は、基本的にカメラの前でもカメラが回っていないところでも態度はあまり変わらないタイプの芸能人だった。ただし、スタッフの顔覚えが良く挨拶がマメだったので、その軽薄な態度とのギャップも手伝って裏方からの評判はよかったと思う。まだ成人もしていない彼の処世術だったのだろう。そういうのあまり苦じゃないしね、と二人きりの食事の席で彼が言ったのを覚えている。未成年との食事だから居酒屋を避けたら律儀だねえと笑われたことも。
大道具の組み立てに多少知見があっても、石神村の人々みたいに家や船の組み立てに役立てるわけではない。それなら少しでも人手がいるところで作業をしたほうがよいだろうと私は畑作や調理や繕い物などその時々で人手が足りないところを渡り歩いている。そうやってふらふらしていると毎日誰かしらに手伝ってほしいと声をかけられる。大樹くんだったり、羽京さんだったり、フランソワさんだったり。ゲンが声をかけてきたことは、まだない。彼も彼でそこらを歩き回って人と人の折衝や千空くんに頼まれた作業をこなしており、忙しい身のようだった。それにしても会話はおろか目があったことすらない。忘れられている可能性も考えたが、むしろ避けられているのではないか。
声をかけてきたのは向こうからだった。マジックで使うセットの確認に呼び出されたのだ。仕掛けの確認や注意事項などを一通り共有したあと、彼の方から連絡先の交換を申し出てきたのだ。連絡先の二次元バーコードを表示しながら、ご飯でも食べに行こうよと言われたのを覚えている。自分よりも年下の彼は、しかし社会人一年目の自分よりもずいぶん世慣れて見えた。
「いいんですか、有名人がそういうことやって」
慣れることがついぞできなかった、はぐらかすための言葉にもゲンは頓着しなかった。首を軽くすくめて話す様子は、いかにも少し年下の若者だった。
「いいのいいの、俺そういうので売ってないから」
たしかに彼は立ち居振舞いがもてはやされるタイプの売り方ではなく、その独特な肩書きを裏切らない得体の知れなさとパフォーマンスの高さで耳目を集めるタイプの芸能人だった。
「まぁ最初は他の子も誘ってさ、俺がまだお酒飲めないのが申し訳ないけど」
「さ、」
複数人であることに安堵すればいいのか、最初という言葉に引っ掛かればいいのか分からず口から出たのは一文字だけだった。うまく受け答えできなかったことを笑われるかと思ったがそんなことはなく、じゃあ連絡するねと手を振って彼は控え室に戻っていった。
今日は収穫物の天日干しを手伝っていた。ただでさえリソースが豊かでない上に、大規模な帆船を作っている今日この頃なので、仕事はいくらでも湧いてきた。特にこういう天気に左右されるものは人手を多く割いて終わらせてしまうに限る。広くスペースをとったところにキノコやら木の実、また捕ってきた魚やらをひたすら並べていく。作業の隙間に立ち上がって腰を伸ばした。秋晴れの空を鱗雲がおおっている。干している間、天気がもてばいいが。ふと遠くに目をやると、薄い紫の服をなびかせた後ろ姿が見えた。石化から復活してからというもの、せいぜいこうやって遠くの後ろ姿を見かけるくらいだ。同じ共同体にいるのにどんな顔をしていたかもどんな声だったかもうろ覚えなのは、なにか無性に腹立たしい気がした。
結局ゲンの言葉通り、何度か若いスタッフと出演者が混ざった集まりを経て、二人で食事をするような関係になった。そもそも大人数での食事だと、彼が入れ替わり立ち替わり誰かしらに話しかけられているばかりだったので、ただ一歩親密になるためのワンクッションでしかなかった。
個室がありムーディーすぎないレストランを毎度探すのは少し面倒だったが、彼の身を守るためにも自分の身を守るためにも必要なことだと思っていたので欠かすことはなかった。それに、私も酒を飲まなかったので本当に食事をして、くだらない話をするだけだ。ゲンの言う芸能界の裏話は危うくないように巧妙にボカされたものだったし、私は仕事そのものよりも出張で行った先での食事や土産物の話ばかりしていた。
「俺が成人したら、一緒に飲んでくれるんでしょ」
いつだったか、顔を隠すために被っていた帽子をもてあそびながらゲンがそう言った。二人でいるときに、そういう幼い仕草をこれ見よがしにするのは、私がまだ彼を未成年として扱っているからだというのはなんとなく察している。ロールプレイに乗ってくれているのだ。
「来年?」
社会人二年目になっても右往左往している自分には、来年のことなんて想像がつかなかった。ゲンは来年なんてあっという間だよ、と軽く首をかしげて笑う。その顔に年下の可愛げはほとんどなかった。その顔の動きにあわせて、短く切られた前髪が揺れていた。それを見ながら私は、じゃあ店探さなきゃねと答えたのだ。
三千七百年経って、成人かどうかなんて何の意味も持たなくなった。人気のない高台への道を登りながら私は考える。けど三千七百年前の口約束がまだ意味を持っていたっていいじゃないか。
私が来たことに気が付いたゲンは、一歩後ろに下がった。けど後ろは崖だし、道は一本だけだから観念したのかいつものようにゆったりした立ち方をした。
「羽京ちゃんが呼んでるって聞いたんだけど」
「嘘だよ、ごめんね」
久しぶり、と私はゲンを見上げた。それだけのことを言うのにずいぶん時間がかかってしまった。月の明るい夜だったから、ゲンが驚いたような、泣く直前のような、笑い出す前のような顔をしているのがかすかに見えた。
「俺が忘れてるかもしれないって、思わなかったの」
「あなたほど他人の顔をよく覚えてる人間、他に知らない」
「嫌われてるとかは」
「本当に嫌だったら徹底的に避けたりせずに完全に他の子たちと同じように対応するでしょう。個人的な好き嫌いであからさまに敵を作るようなことしないと思ってるけど」
ざぁざぁと木々を揺らす風はもう冷たい。ずっと変わらない虫の声が聞こえてくる。けどゲンと会うのは街中でばかりだったから、一緒に虫の声を聞くことは初めてだった。これだけ変わった世界で、どうなってるのか確かめるのすら怖かったんだよ、と俯いた顔から聞こえてきた。 それでもメンタリストか、と思ったがその臆病さがこれまでの彼を助けてきたのかもしれない。用意の周到さと有事機転は失敗を恐れる気持ちと無関係ではないだろう。だからこうして穏やかに話せる今があるのかもしれなかった。
ゲンは何を確かめるのが怖かったのだろうか。私たちはまだ少し親密なだけで、この先どうなっていくのかも分からないまま、人類ごと強制的に終わりになった。でもこうしてまた生きているのだ。それは千空くんのおかげだったり、獅子王司のおかげだったり、ゲン本人のおかげだったりするのだろう。
「私はまた、とりあえずでご飯を一緒に食べたりくだらない話をしたりしたい。連れていきたいお店はなくなっちゃったけど、でも」
この世界にはなんとアルコールもあるから酒だって一緒に飲むことができる。前と変わらずに、というのは無理かもしれないが、やりたかったことで、実現可能なこともちゃんと存在しているのだ。最初からやり直すのではない。私たちの関係はちゃんと連続している。
