漫画(ジャンプ系)
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少し前に世界がひっくり返されるようなことが起きたけど、ひっくり返される前も後も基本的に単調な作業が続くから昨日も今日も明日もあまり変わらない。その日も最初はそうだった。しかし針仕事とか、種々の雑用をしていた自分の耳に突然入ってきたのは、憧れていた人の声だった。この世界にはとっくにテレビやラジオはない。この前のリリアンのレコードなんて奇跡がない限り、声の主が生きていなければ不可能なことだ。作業を放って外に出ると、数千年前から変わらない姿で彼はそこにいた。一度、七海学園のイベントに参加したとき、生で見たことがある。確かステージに彼が突然乱入してきたのだ。その場にいたタレントなんか目じゃないくらいに華があった。彼が言葉を発するたびにその場が彼に支配されていったことをよく覚えている。そのときとまったく変わらない堂々とした立ち姿が、嵐が去ったあとの日差しを受けて輝いていた。唯一違うとすれば、左の指先から手首にかけて残ってしまった亀裂くらいだろうか。それは彼を少しも損なわなかった。むしろ、手を高く掲げて指を鳴らす癖のある彼の、新しいトレードマークとして機能している。
彼は更に、手先が器用な奴はいるか! と歩き回っていたと思ったらあっという間に貨幣経済を復活させていた。そんな人間であることはよく知っていたつもりだったけど、いざ目の当たりにすると言葉が出てこない。その日は一日中みんな新しく来た彼の動向に釘付けだったから私が彼のことをずっと見ていても不審には思われなかった。
自分は彼のように必然的によみがえった訳じゃない。たまたまそのあたりにいて、司さんに拾われた人の山の中にいたからこうして幸運にありつけたのだ。そうして、生き返った先で彼がよみがえったのは重ねて幸運だった。なんなら現状が把握できている分、彼が無事に復活したことの方が喜びが大きかったかもしれない。憧れていたのだ、石になる前から。
好きだった漫画や動画の内容を思い返しながら黙々と草を抜く。三千七百年といっても意識がなかったものだから、「起きたら未来だった」というより「起きたら異世界だった」という感覚が近い。石化が治ってもうずいぶん経つが、あの日の前夜に見た七海財閥の特番のこともまだちゃんと思い出せる。七海龍水が出演することを期待したけど結局出なかったやつだ。
休憩にしよう、という大樹さんの大声がしたので顔をあげた。数千年経ったら少しは気候も変わっているんじゃないかと思ったが「夏」は相変わらず暑い。もうとっくにクーラーの冷たい風よりも湧き水の冷たさのほうが身近になってしまった。割り振られた区画の草むしりはまだ半分も終わっていない。抜いても抜いても生えてくるので実のところ終わりはないのだが。大樹さんが皆に肥料を配ってくれたので今のところどの畝もすくすく育っているけど、その分雑草も元気に育つ。負けずに麦がちゃんと育って、たくさん収穫できますように、と願った。麦はパンになって、冬のたくわえになったり船に乗る人たちの食糧になる。皆の生命線だ。その皆には彼も含まれている。私はひ弱な人間だから、今造られている彼の船には乗れないだろう。でもこの畑から収穫された麦がパンになって船に積まれるかもしれない。そう考えると早く休憩を終わらせて少しでも多く麦が育つようにしたくなる。
皆よりも一足早く日陰を出て、畑にしゃがみ込む。まだ高い位置にある太陽は容赦なく照り付けてくるが、彼の助けになることを思うと気にならない。私の育てた麦が一粒分でも彼の血肉を作りますようにと願いながら今日も明日も草をむしっている。
船は思っていたよりもずっと早く完成した。とはいえ素人の自分の予想なんて、ほぼ妄想に近い。完成した船に乗り込んだ彼は誰が見ても嬉しそうに見えた。長い前髪がまだ暑さを含んだ風に揺れている。雑誌のインタビューで自分の理想とする大型の機帆船が欲しいと語っていた。そのための仲間を探している、とも。彼はどちらも手に入れたんだと思って泣きそうになった。私は少し離れたところにいるし、彼も高い場所に立っているから実際に見えているわけじゃないけど数千年前にテレビや雑誌や動画でさんざん見たあの、ぎらぎらとまっすぐ輝く瞳で笑っているのだということは分かる。じきに彼らは出航するだろう。あんなに文明が発達していても航海は命がけだった。ましてや今、何が待っているか分からない旅に出るのだ。躊躇しないどころか喜びすら感じていることは分かるが、彼らが、彼がもし帰ってこなかったらと思うと胃がひっくり返るような感覚に襲われる。でもそんな不安を抱くこと自体が彼に対して失礼な気もしてしまう。麦の面倒をみながらもずっとそのことばかり考えてしまう。
旅立ちの準備はどんどん進んでいく。気を紛らわすために願掛けを始めた。きれいな石を海が見える高台に持っていくだけだ。坂道を上りながら、お百度参りなんてあったな、と思う。早く起きて農作業が始まる前にこっそりと、自分の足で行ける範囲でしかやらないと決めているので本当にささやかなものだ。朝にやっているのは灯りが貴重な今、自分だけのために使うことはしたくなかったからだ。いや、それは理由の一部でしかない。きっと杠さんなんかは優しいから、やりたいことを説明すれば融通してくれたかもしれない。誰かにこの独りよがりな行為を説明するのが嫌だったのだ。無理のない行動範囲でしかやっていない理由も同じだ。自意識過剰かもしれないけど彼の耳には入れたくなかった。これは自分のためだけにしていることだ。それだけは譲りたくなかった。
彼は更に、手先が器用な奴はいるか! と歩き回っていたと思ったらあっという間に貨幣経済を復活させていた。そんな人間であることはよく知っていたつもりだったけど、いざ目の当たりにすると言葉が出てこない。その日は一日中みんな新しく来た彼の動向に釘付けだったから私が彼のことをずっと見ていても不審には思われなかった。
自分は彼のように必然的によみがえった訳じゃない。たまたまそのあたりにいて、司さんに拾われた人の山の中にいたからこうして幸運にありつけたのだ。そうして、生き返った先で彼がよみがえったのは重ねて幸運だった。なんなら現状が把握できている分、彼が無事に復活したことの方が喜びが大きかったかもしれない。憧れていたのだ、石になる前から。
好きだった漫画や動画の内容を思い返しながら黙々と草を抜く。三千七百年といっても意識がなかったものだから、「起きたら未来だった」というより「起きたら異世界だった」という感覚が近い。石化が治ってもうずいぶん経つが、あの日の前夜に見た七海財閥の特番のこともまだちゃんと思い出せる。七海龍水が出演することを期待したけど結局出なかったやつだ。
休憩にしよう、という大樹さんの大声がしたので顔をあげた。数千年経ったら少しは気候も変わっているんじゃないかと思ったが「夏」は相変わらず暑い。もうとっくにクーラーの冷たい風よりも湧き水の冷たさのほうが身近になってしまった。割り振られた区画の草むしりはまだ半分も終わっていない。抜いても抜いても生えてくるので実のところ終わりはないのだが。大樹さんが皆に肥料を配ってくれたので今のところどの畝もすくすく育っているけど、その分雑草も元気に育つ。負けずに麦がちゃんと育って、たくさん収穫できますように、と願った。麦はパンになって、冬のたくわえになったり船に乗る人たちの食糧になる。皆の生命線だ。その皆には彼も含まれている。私はひ弱な人間だから、今造られている彼の船には乗れないだろう。でもこの畑から収穫された麦がパンになって船に積まれるかもしれない。そう考えると早く休憩を終わらせて少しでも多く麦が育つようにしたくなる。
皆よりも一足早く日陰を出て、畑にしゃがみ込む。まだ高い位置にある太陽は容赦なく照り付けてくるが、彼の助けになることを思うと気にならない。私の育てた麦が一粒分でも彼の血肉を作りますようにと願いながら今日も明日も草をむしっている。
船は思っていたよりもずっと早く完成した。とはいえ素人の自分の予想なんて、ほぼ妄想に近い。完成した船に乗り込んだ彼は誰が見ても嬉しそうに見えた。長い前髪がまだ暑さを含んだ風に揺れている。雑誌のインタビューで自分の理想とする大型の機帆船が欲しいと語っていた。そのための仲間を探している、とも。彼はどちらも手に入れたんだと思って泣きそうになった。私は少し離れたところにいるし、彼も高い場所に立っているから実際に見えているわけじゃないけど数千年前にテレビや雑誌や動画でさんざん見たあの、ぎらぎらとまっすぐ輝く瞳で笑っているのだということは分かる。じきに彼らは出航するだろう。あんなに文明が発達していても航海は命がけだった。ましてや今、何が待っているか分からない旅に出るのだ。躊躇しないどころか喜びすら感じていることは分かるが、彼らが、彼がもし帰ってこなかったらと思うと胃がひっくり返るような感覚に襲われる。でもそんな不安を抱くこと自体が彼に対して失礼な気もしてしまう。麦の面倒をみながらもずっとそのことばかり考えてしまう。
旅立ちの準備はどんどん進んでいく。気を紛らわすために願掛けを始めた。きれいな石を海が見える高台に持っていくだけだ。坂道を上りながら、お百度参りなんてあったな、と思う。早く起きて農作業が始まる前にこっそりと、自分の足で行ける範囲でしかやらないと決めているので本当にささやかなものだ。朝にやっているのは灯りが貴重な今、自分だけのために使うことはしたくなかったからだ。いや、それは理由の一部でしかない。きっと杠さんなんかは優しいから、やりたいことを説明すれば融通してくれたかもしれない。誰かにこの独りよがりな行為を説明するのが嫌だったのだ。無理のない行動範囲でしかやっていない理由も同じだ。自意識過剰かもしれないけど彼の耳には入れたくなかった。これは自分のためだけにしていることだ。それだけは譲りたくなかった。
