漫画

帰ってきて部屋の電気をつけ、荷物を置いた瞬間、窓が外から叩かれた。しばらくして、何らかの方法で鍵が開けられる。何でもありのこの街で物理的な鍵は気休めにしかならない。もっと強化すべきかもしれない、と私は仕事で疲れた頭でため息をついた。ちなみに私の部屋は七階にある。
「区画クジでシャッフルされたのに、よく見つけたね」
「そりゃお前、この俺様の天才的な……」
「いや臭ッ!」
当たり前のように入ってきて得意げな顔をする男の右半分には、どどめ色をした粘液がべったりと着いていた。それが悪臭をはなっていたのだ。脱げ! と私はそいつの服を剥ぎにかかる。これそのまま洗濯していいだろうか。まぁこの前超強力なやつに買い替えたし大丈夫だろう。多分。上から下まで脱がせた馴染みの侵入者――ザップをバスルームに突っ込む。
「一緒に入ってくれねえのかよ」
「臭いが移りそうだから嫌」
バスルームの扉を閉めて、洗濯機を回す。どうせそれを期待して転がり込んできたのだろう。床を汚している謎の粘液を掃除して、財布の中身を確認する。現金はほぼ入っていないからザップに抜かれても大した損害ではない。最後に窓を閉め、鍵をかけたタイミングでザップが戻ってきた。腰にバスタオルを巻いただけの格好で、髪は十分に拭かれておらずしっとりと濡れている。
「缶詰しかないよ」
あえて無視すると、腹いせなのかその濡れた髪をぐりぐりと服に押し付けてくる。ぎゃっと抗議の声を上げると、ザップは満足したように缶詰と残っていたポテトチップスを勝手に食べ始めた。ペースを狂わされて、なんだか疲れが増した気がする。ザップが何かしら食べている間に私もさっさとシャワーを浴びて、寝てしまおうと思った。

シャワーから戻ると、食い散らかしをそのままにザップがベッドを占領していた。
「私の寝るとこがないんだけど」
「入るだろ」
勝手なことを言うザップを壁際に押し込んで、スペースを確保する。ザップのやたら大きな手が私の胸やら腹やらに回されているが、今日はそれよりも眠気が勝っている。他人の体温も、興奮材料になるより眠りに誘う手伝いにしかならない。重い瞼に抗わず、私は眠りに落ちていった。起きたときにザップは多分いないだろう。また、次に来るのがいつかは知らない。また帰ってきたらひょっこりいるかもしれないし、半年後まで姿を見ないかもしれない。方々で餌をもらって暮らしている野良猫と同じだと私は思っている。
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