漫画

「最近、なんか芹沢さんの様子が変じゃない?」
心ここにあらずというか、とトメに話しかけられて、相談所の主で芹沢の雇い主である霊幻新隆はパソコンのモニターから顔を上げた。ちなみに話題の芹沢も同じ部屋で夜間学校の課題に向き合っている。しかしトメは特に声を潜めることはないし新隆もそれを咎めることはない。たしかに芹沢は目の前の課題ではなくどこか遠くを見つめているようだった。ふむ、と新隆も考え込む。相談所での業務や夜間学校の授業もすっかり慣れただろうと思っていたが、慣れたからこその悩みも出てくる頃かもしれない。いったんトメちゃんが帰った後にでも話を聞いてみるか、と新隆は考えを巡らせた。

とくに誰も客が来なかった相談所を閉め、トメも帰したたあと、新隆は芹沢に向き合った。
「なぁ、最近どうだ?」
たまには飲みにでも行くか、と新隆は誘いをかける。二人とも飲めないじゃないですかという芹沢からの反応を期待したが、彼は生返事をしただけだった。いよいよ心配になった新隆は芹沢の肩をわしづかみ、強めに揺さぶる。そこで芹沢はやっと新隆に目を合わせた。
「霊幻さん」
名前を呼ばれ、新隆は少しほっとする。
「好きな人がいるって、すごいんですね……」
はぁ? という声が二人分重なった。新隆と成り行きを静観していたエクボのものである。何かあったときのモブみたいなこと言い出したな、と新隆は思うがそれは口に出さず、芹沢へ詳しい事情を確認することにした。

曰く。
相談所の買い出しの帰り、ボールを追って道に飛び出そうとしている子どもがいた。芹沢が(超能力で)助けようとするより早く子どもを抱きかかえて歩道に引きずり戻した女性がいた。子どもの親や姉ではないらしいが、散らばった自分の荷物を拾い集めるより先に子どもの安全確認と注意をするその人に芹沢は釘付けになってしまったらしい。決定的だったのは、彼女がばらまいた荷物を拾うのを手伝ったときだった。ポーチだの財布だのハンカチだのを芹沢から受け取った彼女が礼を言ったその柔らかな笑顔がたいそう魅力的で、何日か経った今でもつい思い出してしまう。

一通り聞いて新隆とエクボは顔を見合わせた。なんのことはない芹沢が知らない女性に惚れた一部始終を聞かされただけである。漫画かよ、と新隆は茶々を入れかけたが芹沢の目が本気だったのでやめた。
「まぁでも、荷物を拾う時に手で拾ったのはいい判断だったんじゃないか。向こうもお前の顔を覚えたかもしれないし」
また会えたらいいな、という台詞は一応新隆の本心であった。
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