漫画
「隼!」
よく通る声で呼びかけられた隼くんは、一瞬無視を決め込もうかと思った。けれど後々もっと面倒なのことになるのが今までの経験で分かっているからしぶしぶ振り向いて足を止める。大学にはいちいち「廊下は走らないように」と注意してくる教員はいない。リノリウムの廊下を飛ぶように駆けてきた彼女はきっちりと隼くんの前でストップする。この文化系しかいない大学において特に部活にも入っていない彼女の足の速さは完全な持ち腐れだと隼くんは思っている。まぁ高校の時も中学の時も彼女は帰宅部だったから、持ち腐れではあったけれど。
「授業どれにした?」
「もう俺たちゃァ3年なんだからそうそう被る授業なんてないでしょうよ」
文芸の隼くんと映像の彼女はたしかに必修なんかは3年にもなれば全然かぶっていない。そんなことはお構いなしに彼女は隼くんのスマホを奪い取って、学内システムの時間割を参照する。
「あっこれ他学部でも受けられるやつだ。面白そ」
彼女が自分の時間割に入力したのは、色彩の文化史というものだった。たしかにそれはどの媒体にも関わりのある主題だろう。良いチョイスじゃねえか、と隼くんは少し彼女を見直す。この前出したとかいう課題作品も中々だったし、やっとこいつもそういう情緒とか風流を解すようになったかと隼くんは感動する。
「一緒の授業ならレジュメとか隼に取ってもらえるしレポートも一緒にやれるもんね」
「前言撤回」
「えっ」
勝手に見直しておいて勝手に失望する隼くんの心の動きを彼女がわかるはずもない。そういえばこいつはずっとそうだったと隼くんは何百回目かの回想をする。小中だって後ろをちょこちょこ着いてきてたし、気がついたら高校も大学も「隼がそこなら私もそうしようかな」なんて言って何なら自分よりさくっと受験を終わらせていた。芯はねぇのかと詰め寄ったことも何回かあるが、その度に「私の芯は隼といることだからねぇ」なんて言われて終わるのだ。
「返せ!」
隼くんは自分のスマホを彼女から引ったくってずかずかと歩き出す。待ってよと彼女の声が追いかけてくるがそれもいつものように無視をする。
「ねえ! 私の卒制に出てよ!」
彼女の脳内でこの短時間にどういう処理がなされたか隼くんにはわからない。大体まだ3年に上がったばかりだからまだ少し猶予はあるのだ。でも隼くんは彼女が口ではあんなことを言ってるけど文芸じゃなく映像に進んだこと、授業が被っていてもレポートを見せてよなんて言ってきたことが一度もないことを分かっている。隼くんが彼女の方を見ると、もうすでにハンディカメラが隼くんを捉えていた。勝手に撮るなよ、と隼くんは抗議するが自分だってカメラのレンズ一枚分いつもより遠くにいる彼女を十七文字に閉じ込めようとしていた。
よく通る声で呼びかけられた隼くんは、一瞬無視を決め込もうかと思った。けれど後々もっと面倒なのことになるのが今までの経験で分かっているからしぶしぶ振り向いて足を止める。大学にはいちいち「廊下は走らないように」と注意してくる教員はいない。リノリウムの廊下を飛ぶように駆けてきた彼女はきっちりと隼くんの前でストップする。この文化系しかいない大学において特に部活にも入っていない彼女の足の速さは完全な持ち腐れだと隼くんは思っている。まぁ高校の時も中学の時も彼女は帰宅部だったから、持ち腐れではあったけれど。
「授業どれにした?」
「もう俺たちゃァ3年なんだからそうそう被る授業なんてないでしょうよ」
文芸の隼くんと映像の彼女はたしかに必修なんかは3年にもなれば全然かぶっていない。そんなことはお構いなしに彼女は隼くんのスマホを奪い取って、学内システムの時間割を参照する。
「あっこれ他学部でも受けられるやつだ。面白そ」
彼女が自分の時間割に入力したのは、色彩の文化史というものだった。たしかにそれはどの媒体にも関わりのある主題だろう。良いチョイスじゃねえか、と隼くんは少し彼女を見直す。この前出したとかいう課題作品も中々だったし、やっとこいつもそういう情緒とか風流を解すようになったかと隼くんは感動する。
「一緒の授業ならレジュメとか隼に取ってもらえるしレポートも一緒にやれるもんね」
「前言撤回」
「えっ」
勝手に見直しておいて勝手に失望する隼くんの心の動きを彼女がわかるはずもない。そういえばこいつはずっとそうだったと隼くんは何百回目かの回想をする。小中だって後ろをちょこちょこ着いてきてたし、気がついたら高校も大学も「隼がそこなら私もそうしようかな」なんて言って何なら自分よりさくっと受験を終わらせていた。芯はねぇのかと詰め寄ったことも何回かあるが、その度に「私の芯は隼といることだからねぇ」なんて言われて終わるのだ。
「返せ!」
隼くんは自分のスマホを彼女から引ったくってずかずかと歩き出す。待ってよと彼女の声が追いかけてくるがそれもいつものように無視をする。
「ねえ! 私の卒制に出てよ!」
彼女の脳内でこの短時間にどういう処理がなされたか隼くんにはわからない。大体まだ3年に上がったばかりだからまだ少し猶予はあるのだ。でも隼くんは彼女が口ではあんなことを言ってるけど文芸じゃなく映像に進んだこと、授業が被っていてもレポートを見せてよなんて言ってきたことが一度もないことを分かっている。隼くんが彼女の方を見ると、もうすでにハンディカメラが隼くんを捉えていた。勝手に撮るなよ、と隼くんは抗議するが自分だってカメラのレンズ一枚分いつもより遠くにいる彼女を十七文字に閉じ込めようとしていた。
