吸死
ばき、と足元から嫌な音がしてバランスを崩した私をとっさに支えてくれたのは、クワバラさんだった。私の何歩か先を歩いていたはずなのに、身のこなしが素早いのはさすがオータム書店の編集者である。私も早く追いつかねば、と決意を新たにした。「見事に折れてるなぁ」
しゃがみこんで検分したクワバラさんが感心するほど、右足のパンプスのヒールが、根本からばっきり折れていた。この後、作家さんのところへ行くのにどうしようと私は頭を抱える。
「いっそもう片方も折ろうかな」
ちょうど近くにあったコンビニのベンチに座り、私は左足のパンプスを脱ぐ。
「待てや」
ヒールへし折った靴で作家さんとこに行く気かい、と苦笑いしたクワバラさんが、右足のパンプスを返してくれる。折れていたヒールがくっつけられていた。
「えっすご! ありがとうございます」
履いてみたが、しっかりくっついており少なくとも今日中はもちそうに思える。
「応急処置やから、ちゃんと修理には出すんやで」
「どうやってくっつけたんですか?」
「あれや、忍術」
「嘘すぎる」
たしかにクワバラさんは作家さんへのフォローや他所の出版社との闘いにおいて、有能な編集者である。とはいえこの現代に忍者なんているのだろうか。私が疑いの目を向けると、クワバラさんは困ったように頬をぽりぽりと掻いた。
「まぁでも常識が破られた時に編集者として一回りもふたまわりも大きくなるもんやからな……」
「が、頑張ります!」
突然のアドバイスに困惑したが、ありがたく受け取って私たちは作家さんのもとへ急いだのだった。
「疑って申し訳ありませんでした!」
新入りの編集者がそう言って直角に頭を下げてきたので、クワバラは困惑した。
「何があったん?」
「いえ、実はこの前大学の友人と会ったのですが……」
彼女の話を要約すると、その友人も忍者でクワバラと同郷であったらしい。名前を聞くとたしかに近所に住んでいた子どもの名前であった。そうかあの田んぼにはまって泣いていた小僧と同い年がもう入社してくる頃か、とクワバラは遠い目になる。
「なので、前クワバラさんが忍者だというのを信じず、大変失礼なことを言ってしまい……」
「ええよそんなこと気にせんで」
クワバラは鷹揚に手を振った。会社の先輩のことは信じないのに友人の言葉はあっさり信じるんかいとかそんなら憧れてるサンズなんかはでかい手裏剣持っとるけどそれはどうなんやなどと思わないでもない。しかし、それだけのことで正面から深々と謝罪してくるのは素直というかバカ真面目で、可愛げを感じないわけではない。一癖も二癖もある他の後輩どもの顔を思い浮かべて、クワバラは嘆息した。
しゃがみこんで検分したクワバラさんが感心するほど、右足のパンプスのヒールが、根本からばっきり折れていた。この後、作家さんのところへ行くのにどうしようと私は頭を抱える。
「いっそもう片方も折ろうかな」
ちょうど近くにあったコンビニのベンチに座り、私は左足のパンプスを脱ぐ。
「待てや」
ヒールへし折った靴で作家さんとこに行く気かい、と苦笑いしたクワバラさんが、右足のパンプスを返してくれる。折れていたヒールがくっつけられていた。
「えっすご! ありがとうございます」
履いてみたが、しっかりくっついており少なくとも今日中はもちそうに思える。
「応急処置やから、ちゃんと修理には出すんやで」
「どうやってくっつけたんですか?」
「あれや、忍術」
「嘘すぎる」
たしかにクワバラさんは作家さんへのフォローや他所の出版社との闘いにおいて、有能な編集者である。とはいえこの現代に忍者なんているのだろうか。私が疑いの目を向けると、クワバラさんは困ったように頬をぽりぽりと掻いた。
「まぁでも常識が破られた時に編集者として一回りもふたまわりも大きくなるもんやからな……」
「が、頑張ります!」
突然のアドバイスに困惑したが、ありがたく受け取って私たちは作家さんのもとへ急いだのだった。
「疑って申し訳ありませんでした!」
新入りの編集者がそう言って直角に頭を下げてきたので、クワバラは困惑した。
「何があったん?」
「いえ、実はこの前大学の友人と会ったのですが……」
彼女の話を要約すると、その友人も忍者でクワバラと同郷であったらしい。名前を聞くとたしかに近所に住んでいた子どもの名前であった。そうかあの田んぼにはまって泣いていた小僧と同い年がもう入社してくる頃か、とクワバラは遠い目になる。
「なので、前クワバラさんが忍者だというのを信じず、大変失礼なことを言ってしまい……」
「ええよそんなこと気にせんで」
クワバラは鷹揚に手を振った。会社の先輩のことは信じないのに友人の言葉はあっさり信じるんかいとかそんなら憧れてるサンズなんかはでかい手裏剣持っとるけどそれはどうなんやなどと思わないでもない。しかし、それだけのことで正面から深々と謝罪してくるのは素直というかバカ真面目で、可愛げを感じないわけではない。一癖も二癖もある他の後輩どもの顔を思い浮かべて、クワバラは嘆息した。
