吸死
完全な自分の不注意で携帯を壊した。仕事の帰りに家の前で落としたのだ。ある種芸術的な落とし方をしたらしい。斜めにヒビが入った画面は真っ暗に沈黙し、連絡はおろか正規の手段での引継ぎも難しそうだった。幸いなことに仕事についてはそれ用の携帯が存在する。むしろそうじゃなかったらと思うとぞっとする。今週は忙しさがピークで、とてもじゃないがこのような私生活のミスで仕事を停滞させたくはなかった。
目の回るような平日をどうにか乗り越え、週末一日目は死んだように眠っていた。起きたらすでに夕焼けが鮮やかであった。のそのそと起き出して着替える。とりあえず何か食べて、携帯を修理するなり買い替えるなりしなければ。この街には吸血鬼向けに夜もやっている店舗がいくつもある。寝すぎで痛む頭を押さえながらドアを開ける、とすぐ目の前に立っていた長身の人影とぶつかりそうになった。が、すぐにその人影は崩れる。
「あーびっくりした」
再び人の形に戻りながら、それがしゃべりだす。その声には聞き覚えがあった。
「ドラルクさん、どうしたんですか」
彼はジョンくんを撫でながらムッとした顔をした。
「どうしたもこうしたも、君が全然連絡をよこさないからだろう」
「えっすみませんスマホが壊れてて」
素直に謝ってしまった。しかしたしかに不義理ではあるが、そもそもそんなに怒られるような仲だっただろうか。ドラルクさんとはゲーム仲間である。向こうのほうがハードもソフトも持っているため、もっぱら遊ばせてもらうかたちだが。新作でもレトロゲーでも何か新顔が入ったらドラルクさんから連絡がもらえる。多分その連絡が携帯が壊れてから入っていたのだろう。返信することができず、またPCなども持っていないためSNSなど他で連絡をとることもできなかった。現代社会で携帯がないとまったく消息を知らせる手段がない。ハァ~、とドラルクさんはわざとらしくため息をついた。
「無駄に心配してしまったな、帰るぞジョン」
いつもはロナ公と愉快なゴリラどもに囲まれているから……とドラルクさんはぶつぶつ呟きながら私に背を向けた。アパートの階段を下りるカンカンという金属質な足音が響く。
「待ってくださいよ」
私はとっさに追いかけて後ろからドラルクさんの肩を掴んだ。驚いたドラルクさんがまた死ぬ。私の手から灰がざらざらと零れ落ちる。
「その、心配してくれてありがとうございます。あと、ごめんなさい。わざわざ来てくれるとは思わなくて」
どうせ携帯変えに行くんで、お茶くらい奢りますよと私はドラルクさんを誘う。
「ついでに新しいゲームソフトも見ましょうよ」
もしお嫌でなければ、とへりくだる。ままごとのようなものだが、こうするとドラルクさんの機嫌がよくなるのだ。案の定ふふん、とドラルクさんが笑う。
「まぁ、いいだろう。このドラちゃんとお茶ができることを光栄に思うがいいよ」
「ありがたき~」
ヌー、とジョンくんも嬉しそうに鳴いた。私が先導して夜道を歩きだす。
「そういえば、同族の方とも連絡とれなかったら心配ですか?」
「いや、我が一族なんて私よりも皆丈夫だし強いからね。心配するだけ馬鹿を見るというものさ」
それに我々の寿命からすれば一日二日程度は誤差だからね、とドラルクさんは手をひらひら振った。人間だってそんな一日二日でどうこうなることは稀な気もする。過剰にも思えたが、家族以外にここまで心配してくれる存在がいるのは有難い気もした。
目の回るような平日をどうにか乗り越え、週末一日目は死んだように眠っていた。起きたらすでに夕焼けが鮮やかであった。のそのそと起き出して着替える。とりあえず何か食べて、携帯を修理するなり買い替えるなりしなければ。この街には吸血鬼向けに夜もやっている店舗がいくつもある。寝すぎで痛む頭を押さえながらドアを開ける、とすぐ目の前に立っていた長身の人影とぶつかりそうになった。が、すぐにその人影は崩れる。
「あーびっくりした」
再び人の形に戻りながら、それがしゃべりだす。その声には聞き覚えがあった。
「ドラルクさん、どうしたんですか」
彼はジョンくんを撫でながらムッとした顔をした。
「どうしたもこうしたも、君が全然連絡をよこさないからだろう」
「えっすみませんスマホが壊れてて」
素直に謝ってしまった。しかしたしかに不義理ではあるが、そもそもそんなに怒られるような仲だっただろうか。ドラルクさんとはゲーム仲間である。向こうのほうがハードもソフトも持っているため、もっぱら遊ばせてもらうかたちだが。新作でもレトロゲーでも何か新顔が入ったらドラルクさんから連絡がもらえる。多分その連絡が携帯が壊れてから入っていたのだろう。返信することができず、またPCなども持っていないためSNSなど他で連絡をとることもできなかった。現代社会で携帯がないとまったく消息を知らせる手段がない。ハァ~、とドラルクさんはわざとらしくため息をついた。
「無駄に心配してしまったな、帰るぞジョン」
いつもはロナ公と愉快なゴリラどもに囲まれているから……とドラルクさんはぶつぶつ呟きながら私に背を向けた。アパートの階段を下りるカンカンという金属質な足音が響く。
「待ってくださいよ」
私はとっさに追いかけて後ろからドラルクさんの肩を掴んだ。驚いたドラルクさんがまた死ぬ。私の手から灰がざらざらと零れ落ちる。
「その、心配してくれてありがとうございます。あと、ごめんなさい。わざわざ来てくれるとは思わなくて」
どうせ携帯変えに行くんで、お茶くらい奢りますよと私はドラルクさんを誘う。
「ついでに新しいゲームソフトも見ましょうよ」
もしお嫌でなければ、とへりくだる。ままごとのようなものだが、こうするとドラルクさんの機嫌がよくなるのだ。案の定ふふん、とドラルクさんが笑う。
「まぁ、いいだろう。このドラちゃんとお茶ができることを光栄に思うがいいよ」
「ありがたき~」
ヌー、とジョンくんも嬉しそうに鳴いた。私が先導して夜道を歩きだす。
「そういえば、同族の方とも連絡とれなかったら心配ですか?」
「いや、我が一族なんて私よりも皆丈夫だし強いからね。心配するだけ馬鹿を見るというものさ」
それに我々の寿命からすれば一日二日程度は誤差だからね、とドラルクさんは手をひらひら振った。人間だってそんな一日二日でどうこうなることは稀な気もする。過剰にも思えたが、家族以外にここまで心配してくれる存在がいるのは有難い気もした。
