吸死

ふたりとも夜型の仕事に就いているのに、久しぶりの午前起きでぐにゃぐにゃしている私としゃきしゃきしている彼は対照的であった。やっぱり体力が物をいうのかもしれない。ロナルドは最近歩幅を合わせることを覚えた。今日は私があまりにもぐにゃぐにゃだから介抱の意味合いもあるかもしれないが。河原を歩いていると、自分たちの少し先に野球のボールが転がってきた。すいませーん、と声のする方を見れば遊歩道の下のグラウンドで野球少年たちが手を振っていた。おう、とロナルドは少年たちに答えてボールに駆け寄った。そのまま振りかぶって、ボールを投げ返している。ゆっくりと私は歩いてその背中をおいかける。日差しを受けてロナルドの色素の薄い髪が光っていた。目立つ男だ、と私は改めてしみじみ思った。夜の闇の中にあれば昼空を切り取ったような彼は、今は反対に強すぎる陽光に輪郭があやふやにされているようであった。儚さとは無縁の男であるのに。ボールが無事少年たちのもとに戻り、彼らが礼と冷やかしを飛ばすのにロナルドは叫び返していた。
「知り合い?」
「小学校の出張授業でな」
そういえば退治人もそういう仕事をしていたな、と思う。ドラルクやその他迷惑な吸血鬼どもの対処をしているところばかり見ていると手が出るのが早い短気な男のようにみえるが、少し付き合えばその面倒見のよさはすぐわかる。妹がいるからだとか理由は付けられるが、そもそも他人に巻き込まれることに躊躇がないのだと私は思っている。
「デートかロナルド」
「デートなら手くらい繋げよ」
「まだ付き合ってないのかも……」
前から来た別の小学生男子たちがロナルドをからかう。勝手に自己完結されて哀れみの視線を向けられたロナルドは「付き合っとるわ!」とうっかり返して、やっちまったという顔をしていた。それはそれで面倒な展開になることに後から気がついたのだろう。小学生たちは水を得た魚のように活き活きする。他人の交際関係をからかいのネタにすると後で自分の首が絞まるだろうと私は思う。もっとも、同級生じゃなく余所の大人をからかう分には構わないのかもしれない。彼らは興味津々でこちらを見つめている。ロナルドは何ごとかうめき声をあげて頭を掻きむしった。そして覚悟を決めた顔でこちらに向き直り、こちらに手を伸ばす。が、ぱちりと目が合った瞬間ロナルドは我に返ったかのように動きを止め、茹でダコのように真っ赤になる。結局手をしっかり握られることはなく、そっ……と指同士が絡められた。付き合ってしばらく経つが初々しいことだ。小学生たちがぽかんと口を開けている。
「お前らだって好きな子と付き合ったらこんなもんだからな!」
そうかな……そうかも……という空気が彼らを支配する。具体的な相手を想像したのかもしれない。可愛らしいことだ。小学生たちと同レベルで説得しにかかる恋人も含めて。追撃が緩んだのを見計らって、私は「皆気を付けて帰ってね」と話を切り上げながら一度指をほどいて、しっかりと握りなおす。ロナルドの手はどの季節だって温かかった。
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