吸死

「やぁ諸君! おヒマぁ?」
あの台風のような吸血鬼の生放送を見てから来ました、というような挨拶でカズサが襲来したので、一番の新入りは大きく舌打ちをした。モエギが一応たしなめるが、本人に聞かせるためのものなので新入りは悪びれもしない。もっとも、カズサには暖簾に腕押しだが。
「……何をしにいらしたんですか?」
後輩がただカズサにガンを飛ばすだけの機械と化したため、モエギはしょうがなくカズサに話しかける。
「先日、竜の一族の真祖が襲来しただろう。あれで遊び半分とはまったく底が知れない存在だ。しかし今回で得た経験を吸血鬼対策課全体に共有することによって今後に――」
「報告書なら一週間前に出してるんですよ」
「当事者たちから直に話を聞くのも上司の務めだからな」
「部下が面白おかしい目にあった体験談を直接聞いて爆笑したいって言ったらどうです。よく回る口ですね」
「そんな風に思われていたのか。悲しいなぁ、俺は忙しい合間を縫って君たち可愛い部下の様子を見てちゃんと上にもあげてるのに」
空き机に置いてあった誰かの帰省みやげらしき饅頭を、カズサは勝手にとって口に放り込む。
「お前のために買ってきたんじゃないんだけど!?」
「ケチだなぁ」
それまでは目線を合わさずにカズサと会話していた新入りだが、自分が他の隊員のために買った饅頭に手を出されたためにカズサに掴みかかろうとする。それを彼はひょいと避けて二つ目の饅頭に手を出した。
「せめて一個だけだ!」
ばっ!と伸ばされた腕をカズサは掴む。
「指借りるわ」
そして素早く起動させたソーシャルゲームをガチャ画面に遷移させる。そして新入りの指で無理やり「10回引く」のボタンをタップする。
「おっ確定演出!」
ビニールを剥いた二つ目の饅頭を頬張りながら、カズサはスマホの音量を上げる。もう新入りがぎゃあぎゃあ罵倒する声は聞こえていない。ほくほくとした顔で新入りに笑いかける。
「いやあ、やはり君の指だと出るなぁ!」
静止するのをとっくに諦めたモエギは、もしやこの上司は真祖すらどうでもよく、ただ目当てのキャラクターのガチャを引くためだけに来たのではないかと戦慄する。
「こんな奴に一瞬でも憧れた自分が憎い……」
解放された新入りががっくりと肩を落とすのをよそに、カズサは饅頭の三個目に手を伸ばしていた。
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