吸死
出張帰りの真夜中の道で、大声で名前を呼ばれたので俺はかなりびっくりした。警戒しながら後ろを振り向くと、吸血鬼対策課の制服を着た同じ年くらいの男が立っている。手にはゴツい武器。
「久しぶりであります!」
その独特の喋り方には覚えがあった。彼は形から入って、その後で中身を追いつかせるタイプの人間だった。でもこんなハキハキと声を張るような奴ではなかった。
「……カンタロウ?」
「はい!」
びし!と敬礼した彼はよくよく見ると中学の同級生であった。
「えっ本当に久しぶりじゃん」
俺は警戒を解く。そこそこ仲良くしていた奴で、彼の描いた漫画を読ませてもらったりもしていた。前は他の友人たちも含めてちょこちょこ会ってはいたが、そういえばここ一年かそこらふっつりと連絡を取らなくなっていた。
「この前の同窓会にも来なかったよな」
「あぁ、あれはちょっと修行していて……」
「修行?」
あまりにも現代にそぐわない単語が出てきたから俺はつい聞き返した。
「ええ、辻斬りナギリに襲われたあの日から、本官はナギリ逮捕を目指して修行を積んだのであります。このパイルバンカーもその時に!」
ジャキ、と彼は物騒な武器を構えた。その自慢げな顔はたしかに昔の面影があった。
「辻斬りって……最近見かけないけど、新横浜にいるのか?」
「本官にはわかるのであります」
警官の第六感みたいなものだろうか。そこでやっとカンタロウは俺に質問した。
「新横浜にはどうして?」
「ちょっと出張でな」
「帰り道は気をつけたほうがいいであります、下等吸血鬼も多いので」
駅まで付き合うであります! というカンタロウに甘えて、短い道行だが二人で並んで夜道を歩いた。鍛えたのだろう、昔よりも体格と姿勢がよくなっている。共通の友人や恩師の近況を俺はカンタロウに話してやる。
「そういや、今も漫画描いてるのか?」
彼は漫画家を目指していたはずだ。この前あった時点でもまだ描き続けていて、警察に入ったのも腰掛けだと話していた。しかしカンタロウはそのとってつけたような100%の笑顔を少し翳らせて、気まずそうにそれは、と言った。
「本官、もう漫画家は目指していないのであります」
俺はまた驚いてしまう。こいつは本当に俺の友人だったカンタロウなのか。宇宙人に取って代わられでもしたんじゃないだろうか。
「辻斬りに襲われたあの日から、本官の使命は辻斬り逮捕となったのであります!」
興奮しているのだろう。どんどん隣の男の声は大きくなる。そうか、応援してるよと俺は言葉を絞り出す。
「早く捕えられるといいな」
「ありがとうございます!」
辻斬りは、とカンタロウが早口で喋りだす。俺はそれを半分くらい聞き流していた。死ぬような目に遭ったことがないから分からないが、何か恐ろしいものに襲われるというのはこれだけ人間を変質させてしまうのか。俺はそれこそ怖かった。
別れ際、月並みに頑張れよと声をかけようとしてやめた。その代わり俺は歩きながら思い出したことをカンタロウに伝えた。
「俺、お前の描いた主人公が宇宙を旅する漫画、あれ好きだったよ。辻斬りを逮捕して暇になったら、また漫画描いて読ませてくれよ」
辻斬りを逮捕して暇になったら、とカンタロウは復唱して固まる。ロード画面の長いゲームのようだった。それにうっすらとした気味の悪さを感じないでもなかったが、俺は言いたいことは言ったのだ。
「じゃあ、今度また皆で飲みに行こうぜ」
「はい! お気をつけて!」
はっ、と彼はロードが終わったようにこちらに向き直った。中学の時の朗らかな笑顔に、溌剌さを50%機械的に増量したような満面の笑みで、カンタロウは俺に手を振った。
「久しぶりであります!」
その独特の喋り方には覚えがあった。彼は形から入って、その後で中身を追いつかせるタイプの人間だった。でもこんなハキハキと声を張るような奴ではなかった。
「……カンタロウ?」
「はい!」
びし!と敬礼した彼はよくよく見ると中学の同級生であった。
「えっ本当に久しぶりじゃん」
俺は警戒を解く。そこそこ仲良くしていた奴で、彼の描いた漫画を読ませてもらったりもしていた。前は他の友人たちも含めてちょこちょこ会ってはいたが、そういえばここ一年かそこらふっつりと連絡を取らなくなっていた。
「この前の同窓会にも来なかったよな」
「あぁ、あれはちょっと修行していて……」
「修行?」
あまりにも現代にそぐわない単語が出てきたから俺はつい聞き返した。
「ええ、辻斬りナギリに襲われたあの日から、本官はナギリ逮捕を目指して修行を積んだのであります。このパイルバンカーもその時に!」
ジャキ、と彼は物騒な武器を構えた。その自慢げな顔はたしかに昔の面影があった。
「辻斬りって……最近見かけないけど、新横浜にいるのか?」
「本官にはわかるのであります」
警官の第六感みたいなものだろうか。そこでやっとカンタロウは俺に質問した。
「新横浜にはどうして?」
「ちょっと出張でな」
「帰り道は気をつけたほうがいいであります、下等吸血鬼も多いので」
駅まで付き合うであります! というカンタロウに甘えて、短い道行だが二人で並んで夜道を歩いた。鍛えたのだろう、昔よりも体格と姿勢がよくなっている。共通の友人や恩師の近況を俺はカンタロウに話してやる。
「そういや、今も漫画描いてるのか?」
彼は漫画家を目指していたはずだ。この前あった時点でもまだ描き続けていて、警察に入ったのも腰掛けだと話していた。しかしカンタロウはそのとってつけたような100%の笑顔を少し翳らせて、気まずそうにそれは、と言った。
「本官、もう漫画家は目指していないのであります」
俺はまた驚いてしまう。こいつは本当に俺の友人だったカンタロウなのか。宇宙人に取って代わられでもしたんじゃないだろうか。
「辻斬りに襲われたあの日から、本官の使命は辻斬り逮捕となったのであります!」
興奮しているのだろう。どんどん隣の男の声は大きくなる。そうか、応援してるよと俺は言葉を絞り出す。
「早く捕えられるといいな」
「ありがとうございます!」
辻斬りは、とカンタロウが早口で喋りだす。俺はそれを半分くらい聞き流していた。死ぬような目に遭ったことがないから分からないが、何か恐ろしいものに襲われるというのはこれだけ人間を変質させてしまうのか。俺はそれこそ怖かった。
別れ際、月並みに頑張れよと声をかけようとしてやめた。その代わり俺は歩きながら思い出したことをカンタロウに伝えた。
「俺、お前の描いた主人公が宇宙を旅する漫画、あれ好きだったよ。辻斬りを逮捕して暇になったら、また漫画描いて読ませてくれよ」
辻斬りを逮捕して暇になったら、とカンタロウは復唱して固まる。ロード画面の長いゲームのようだった。それにうっすらとした気味の悪さを感じないでもなかったが、俺は言いたいことは言ったのだ。
「じゃあ、今度また皆で飲みに行こうぜ」
「はい! お気をつけて!」
はっ、と彼はロードが終わったようにこちらに向き直った。中学の時の朗らかな笑顔に、溌剌さを50%機械的に増量したような満面の笑みで、カンタロウは俺に手を振った。
