ゲーム作品
珍しい菓子――期間限定の通販先着何箱だったか――の焼き菓子詰め合わせが手に入ったので、よければ来ませんかというエージェントの申し出に、浄は素直に応じることにした。あの生真面目な人間が、朝早くからパティスリーに並ぶ様子を想像して、浄は微笑ましくなった。きっと自分のような相手にしか頼めないことがあるのだろう。そんな予感があった。
13時を少し回ったところだったが、カフェはまだ混雑していた。客の注文を聞いているレオンを横目に、浄はVIPルームへと進む。ソファに腰かけて待っていると、すぐにエージェントが入室してきた。例の菓子詰め合わせであろうシックな包装の箱を携えている。エージェントは箱をテーブルに置くと、仮面を外して律儀に一礼した。
「ありがとうございます、来てくださって」
いいや、と浄は手をひらひらと振る。
「むしろ悪いね、こんないい思いをさせてもらっちゃって」
彼の軽口に、エージェントはかすかに笑った。
「いいんですよ。袖の下……っていうと誤解を招きますね。相談料ということで、お納めください。お時間があるなら紅茶でも淹れましょうか?」
「じゃあ、もらおうかな」
長くなるかもしれないしね、という浄の言葉にエージェントは笑って会釈するばかりだった。
唐草と白蛇がデザインされている華奢なティーカップを片手に、浄はエージェントに向き直る。
「相談料って、さっきは言っていたけど」
ティーコゼーの刺繍に、エージェントは目を落とす。
「その、仮面ライダーもカオスイズムも関係ない上にとりとめもないようなことなんですけど」
珍しく歯に物が挟まったような話し方をするエージェントに、浄は安心させるように笑いかけた。
「おいおい、俺が普段どこで働いてると思ってるんだ? 話すだけで楽になることもあるだろ。もらった分の仕事はするさ」
浄が受け取った焼き菓子をひとつ食べて見せると、エージェントは意を決したように彼の顔を見た。
「金銭による雇用関係にある二人が、家族のように互いを思うことなんてあるのでしょうか」
あまりにも直球で本題を投げられたものだから、浄も動揺を表さないように少しだけ苦労をした。
(……なるほどね)
一番近いレオンには「相談」できないことで、なおかつウィズダムシンクスの人間相手。それだけなら先代のことや過去のことが主題だったかもしれない。ここに来て浄は、ウィズダムシンクスの中でもなぜ自分が選ばれたのか得心した。自分用の茶を淹れることもせず、ただ膝の上で手を握りしめている。このような愚直な人間にしては珍しく、相談相手を間違えなかったなと浄は感心した。自分のような人間の言うことは、気に食わなかったら適当に聞き流せばいいからだ。
例えば、この質問を戴天に投げかけたらどうだろう。彼の性質上、きっと真面目に回答するだろう。そしてその真面目さは立場が近すぎるゆえのものだ。それを理解しているエージェントは、戴天の答えを適当には聞き流せないだろう。今、エージェントが口にしたのは一般論ではない。エージェント自身と、あの執事の話である。それを踏まえて何を言うべきだろうか。一瞬の逡巡は紅茶を飲んで埋めた。そうだなあ、と話し始めた浄を遮るものがあった。
「何をお話しになっているのですか?」
いたずらが見つかった子どものようにエージェントの肩がびくりと跳ねた。それを落ち着かせるようにレオンはエージェントの肩に手を置く。
「馴染みのレディから素敵なものをいただいてね。もしよければ、とお裾分けしていたところさ」
すらすらと言葉を並べ立てる浄を、レオンは疑わしげに見た。その顔はまるで過保護な父親か兄のようで、浄はおかしくなってしまう。
「わたくしの顔に、何かついていますか?」
「いや、思い出し笑いさ」
そうはぐらかして、浄はレオンの顔に残る傷を見た。金銭なんぞよりもさらに強い結びつきのことを、エージェントが勘定に入れてないのが彼には不思議であった。気に病んでいるのは知っているが、気に病むくらい大きな出来事があっても澄ました顔で隣にいるという今の状況が答えではないか。少なくとも浄にはそう見えている。
13時を少し回ったところだったが、カフェはまだ混雑していた。客の注文を聞いているレオンを横目に、浄はVIPルームへと進む。ソファに腰かけて待っていると、すぐにエージェントが入室してきた。例の菓子詰め合わせであろうシックな包装の箱を携えている。エージェントは箱をテーブルに置くと、仮面を外して律儀に一礼した。
「ありがとうございます、来てくださって」
いいや、と浄は手をひらひらと振る。
「むしろ悪いね、こんないい思いをさせてもらっちゃって」
彼の軽口に、エージェントはかすかに笑った。
「いいんですよ。袖の下……っていうと誤解を招きますね。相談料ということで、お納めください。お時間があるなら紅茶でも淹れましょうか?」
「じゃあ、もらおうかな」
長くなるかもしれないしね、という浄の言葉にエージェントは笑って会釈するばかりだった。
唐草と白蛇がデザインされている華奢なティーカップを片手に、浄はエージェントに向き直る。
「相談料って、さっきは言っていたけど」
ティーコゼーの刺繍に、エージェントは目を落とす。
「その、仮面ライダーもカオスイズムも関係ない上にとりとめもないようなことなんですけど」
珍しく歯に物が挟まったような話し方をするエージェントに、浄は安心させるように笑いかけた。
「おいおい、俺が普段どこで働いてると思ってるんだ? 話すだけで楽になることもあるだろ。もらった分の仕事はするさ」
浄が受け取った焼き菓子をひとつ食べて見せると、エージェントは意を決したように彼の顔を見た。
「金銭による雇用関係にある二人が、家族のように互いを思うことなんてあるのでしょうか」
あまりにも直球で本題を投げられたものだから、浄も動揺を表さないように少しだけ苦労をした。
(……なるほどね)
一番近いレオンには「相談」できないことで、なおかつウィズダムシンクスの人間相手。それだけなら先代のことや過去のことが主題だったかもしれない。ここに来て浄は、ウィズダムシンクスの中でもなぜ自分が選ばれたのか得心した。自分用の茶を淹れることもせず、ただ膝の上で手を握りしめている。このような愚直な人間にしては珍しく、相談相手を間違えなかったなと浄は感心した。自分のような人間の言うことは、気に食わなかったら適当に聞き流せばいいからだ。
例えば、この質問を戴天に投げかけたらどうだろう。彼の性質上、きっと真面目に回答するだろう。そしてその真面目さは立場が近すぎるゆえのものだ。それを理解しているエージェントは、戴天の答えを適当には聞き流せないだろう。今、エージェントが口にしたのは一般論ではない。エージェント自身と、あの執事の話である。それを踏まえて何を言うべきだろうか。一瞬の逡巡は紅茶を飲んで埋めた。そうだなあ、と話し始めた浄を遮るものがあった。
「何をお話しになっているのですか?」
いたずらが見つかった子どものようにエージェントの肩がびくりと跳ねた。それを落ち着かせるようにレオンはエージェントの肩に手を置く。
「馴染みのレディから素敵なものをいただいてね。もしよければ、とお裾分けしていたところさ」
すらすらと言葉を並べ立てる浄を、レオンは疑わしげに見た。その顔はまるで過保護な父親か兄のようで、浄はおかしくなってしまう。
「わたくしの顔に、何かついていますか?」
「いや、思い出し笑いさ」
そうはぐらかして、浄はレオンの顔に残る傷を見た。金銭なんぞよりもさらに強い結びつきのことを、エージェントが勘定に入れてないのが彼には不思議であった。気に病んでいるのは知っているが、気に病むくらい大きな出来事があっても澄ました顔で隣にいるという今の状況が答えではないか。少なくとも浄にはそう見えている。
