漫画(ジャンプ系)
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停泊中の買い出しで、めいめいが街に散っていた。ブルックもまた、市場のメインストリートを一人で歩いている。分担したほうが買い物は早く終わるが、隣に誰も知った人間がいないのは彼の中を通り抜ける風を余計に冷たくさせた。長身で肉の身のないブルックであるが、この土地のように様々な船が行き来する場所では多少の見た目の違いは目立たない。自分に構わずに行き交う人々の中で孤独を感じることは、少し前に比べれば贅沢なことだ。それでも、反射的にさみしいと思うことは止められない。知っている誰とも目が合わないから余計に。孤独はふとした時に幾本もの腕で背中から絡まってくる。その数は随分減ったが、それでも完全に振りほどくのは難しかった。日用品の入った大きな紙袋を持つ手に力がこもる。早くなりかけた足を、後ろから呼び止める声があった。
「そこのアフロが素敵な音楽家さん、船までご一緒しませんか」
「ナマエさん」
同じ船の一員の顔を見てブルックはふう、と安堵の息を吐いた。隣に並んだナマエにはその理由までは分からない。
船にはまだ、ほとんどのメンバーが戻っていなかった。そもそも行くなと念押しされたゾロはトレーニングルームにでも籠っているようだ。主のいないキッチンで、ナマエは湯を沸かす。
「本当はさ、音楽喫茶見つけたから誘いたかったんだけど。外からでも分かるくらいに沢山ソウルキングのポスターが貼ってあったから」
こーんな、と大げさに手を動かすナマエをブルックは微笑ましく眺める。
「サプライズをするのは嫌いじゃないですがね」
「見たくないと言ったら、そりゃ嘘になるけどさ。でもお茶どころじゃなくなっちゃうでしょ」
シュンシュンと蒸気を吐くやかんを持ち上げたナマエは、大きさと丈夫さが取り柄のティーポットに湯を注いだ。離れ離れになっていた二年間を取り戻すように、ナマエは私物のそのティーポットを最近よく使っている。小さく歌いながら、ナマエは自分とブルックの分の茶を淹れた。すぐに歌い出すのは、船乗りらしい陽気さだ。口ずさまれているのはブルックの知らないメロディだった。
「素敵な歌声ですね。もちろん、その曲も」
「うん? あ、ありがとう」
無意識に歌っていたナマエは、ブルックに褒められて赤面した。
「何の曲なんですか?」
「うーん……修行してたときに世話になってた家の子から教えてもらっただけで、詳しいこと分からないんだよね。ポップスだとは思うんだけど」
ふむ、とブルックは紅茶を口に運ぶ。ナマエ本人曰く「適当に淹れている」それは茶葉の量も湯の温度もまちまちで、だというのに彼にはおいしく感じられた。頭蓋骨のあらゆる空洞に、紅茶の香りが吸い込まれてゆく。
「私の曲は歌ってくれないんですか」
いたずらっぽく投げかけられた言葉に、ナマエはミルクピッチャーを手から滑り落としそうになった。
「さすがにご本人の前で歌うのは緊張するなあ」
「本人だから、むしろ他の人が歌っているのを聴きたいんですよ」
「そんなもんかなあ」
ナマエは照れ隠しにティーカップに目を落とした。まだ混ぜていないミルクが琥珀色の中に渦巻いている。本当のところ、ソウルキングが発表した曲たちを一度は口ずさんだことがあった。それは仲間たちと離れ離れになっていた二年間のことで、ナマエ自身の寂しさを紛らわすためだった。
「他の人が歌ってるところを聴きたいんだったら、やっぱり音楽喫茶行けばよかったかな」
にわかに慌てだすナマエに、ブルックは鷹揚に笑った。
「ヨホホ、その代わりナマエさんの歌が聴けましたからね。しかも私の知らない歌の」
ブルックがなぜ自分の歌をそんなにありがたがるのか理解できなかったナマエは首を傾げる。手元の紅茶はすっかりミルクと馴染んでいた。
「先ほどの歌のレコードは探しに行きたいですね。私もぜひ、覚えたいので」
「レコードショップも、ブルックさんのファンはいるだろうね」
「ヨホホ、お忍びデートですよ」
「デート」という言葉に動揺したナマエの心そのままに、ティーカップにさざ波が立った。ブルックはその手の震えに気付かないふりをする。
「お互いにレコードを選んだりするのも、乙なものですよ。思い出に残りますからね」
優雅に紅茶を飲みながら言うブルックの顔を見て、ナマエはふと思った。
(音楽が孤独を救うのは、他者の存在を感じられるからかもしれない)
そうであるなら。ナマエは考えを巡らせる。ブルックが自身の曲を自分に歌ってもらいたがっている理由の一端に触れた気がした。
「……ブルックの歌を、ブルックの前で歌うならさ。せめて伴奏くらいはしてよね」
一緒に歌うんでもいいけどさ、と付け加えてナマエはミルクティーを飲み干した。
「もちろん、どちらも喜んでさせていただきますよ」
文字通り歌声を震わせる鼓膜はもうないが、感動に震える魂が残っていることにブルックは感謝する。いっそ、レコードのように耳小骨にこれから歌われるものをすっかり刻み付けてしまえれば。口には出さずとも、彼はそう考えている。
「そこのアフロが素敵な音楽家さん、船までご一緒しませんか」
「ナマエさん」
同じ船の一員の顔を見てブルックはふう、と安堵の息を吐いた。隣に並んだナマエにはその理由までは分からない。
船にはまだ、ほとんどのメンバーが戻っていなかった。そもそも行くなと念押しされたゾロはトレーニングルームにでも籠っているようだ。主のいないキッチンで、ナマエは湯を沸かす。
「本当はさ、音楽喫茶見つけたから誘いたかったんだけど。外からでも分かるくらいに沢山ソウルキングのポスターが貼ってあったから」
こーんな、と大げさに手を動かすナマエをブルックは微笑ましく眺める。
「サプライズをするのは嫌いじゃないですがね」
「見たくないと言ったら、そりゃ嘘になるけどさ。でもお茶どころじゃなくなっちゃうでしょ」
シュンシュンと蒸気を吐くやかんを持ち上げたナマエは、大きさと丈夫さが取り柄のティーポットに湯を注いだ。離れ離れになっていた二年間を取り戻すように、ナマエは私物のそのティーポットを最近よく使っている。小さく歌いながら、ナマエは自分とブルックの分の茶を淹れた。すぐに歌い出すのは、船乗りらしい陽気さだ。口ずさまれているのはブルックの知らないメロディだった。
「素敵な歌声ですね。もちろん、その曲も」
「うん? あ、ありがとう」
無意識に歌っていたナマエは、ブルックに褒められて赤面した。
「何の曲なんですか?」
「うーん……修行してたときに世話になってた家の子から教えてもらっただけで、詳しいこと分からないんだよね。ポップスだとは思うんだけど」
ふむ、とブルックは紅茶を口に運ぶ。ナマエ本人曰く「適当に淹れている」それは茶葉の量も湯の温度もまちまちで、だというのに彼にはおいしく感じられた。頭蓋骨のあらゆる空洞に、紅茶の香りが吸い込まれてゆく。
「私の曲は歌ってくれないんですか」
いたずらっぽく投げかけられた言葉に、ナマエはミルクピッチャーを手から滑り落としそうになった。
「さすがにご本人の前で歌うのは緊張するなあ」
「本人だから、むしろ他の人が歌っているのを聴きたいんですよ」
「そんなもんかなあ」
ナマエは照れ隠しにティーカップに目を落とした。まだ混ぜていないミルクが琥珀色の中に渦巻いている。本当のところ、ソウルキングが発表した曲たちを一度は口ずさんだことがあった。それは仲間たちと離れ離れになっていた二年間のことで、ナマエ自身の寂しさを紛らわすためだった。
「他の人が歌ってるところを聴きたいんだったら、やっぱり音楽喫茶行けばよかったかな」
にわかに慌てだすナマエに、ブルックは鷹揚に笑った。
「ヨホホ、その代わりナマエさんの歌が聴けましたからね。しかも私の知らない歌の」
ブルックがなぜ自分の歌をそんなにありがたがるのか理解できなかったナマエは首を傾げる。手元の紅茶はすっかりミルクと馴染んでいた。
「先ほどの歌のレコードは探しに行きたいですね。私もぜひ、覚えたいので」
「レコードショップも、ブルックさんのファンはいるだろうね」
「ヨホホ、お忍びデートですよ」
「デート」という言葉に動揺したナマエの心そのままに、ティーカップにさざ波が立った。ブルックはその手の震えに気付かないふりをする。
「お互いにレコードを選んだりするのも、乙なものですよ。思い出に残りますからね」
優雅に紅茶を飲みながら言うブルックの顔を見て、ナマエはふと思った。
(音楽が孤独を救うのは、他者の存在を感じられるからかもしれない)
そうであるなら。ナマエは考えを巡らせる。ブルックが自身の曲を自分に歌ってもらいたがっている理由の一端に触れた気がした。
「……ブルックの歌を、ブルックの前で歌うならさ。せめて伴奏くらいはしてよね」
一緒に歌うんでもいいけどさ、と付け加えてナマエはミルクティーを飲み干した。
「もちろん、どちらも喜んでさせていただきますよ」
文字通り歌声を震わせる鼓膜はもうないが、感動に震える魂が残っていることにブルックは感謝する。いっそ、レコードのように耳小骨にこれから歌われるものをすっかり刻み付けてしまえれば。口には出さずとも、彼はそう考えている。
