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夜峨に押し付けられた資料の山を運ぶ夏油は、向こうからやってくる同期と後輩に気がついた。たしか今日は任務で不在だと聞いたが、もう戻ってきたらしい。同期のナマエは片手にファーストフード店のコップを持ち、ズゴゴゴと濁った音を行儀悪く鳴らしていた。
「お疲れ様」
夏油の言葉に、ナマエは口からストローを外して「おう」とだけ答えた。その顔や制服にタールのような汚れがこびりついているのを、夏油は気がついた。
「いやあ、しつこい油汚れみたいなやつだったわ。爆散したときちょっと口に入ったけど本当にゲロカスまずいのな」
これは口直し、と彼女は手に持ったコップを振った。大量の紙束が床にばらまかれる音が響いたのと、その腕を夏油が掴んだのはほぼ全く同時だった。彼の手で弾かれたコップが、床に落ちてバニラシェイクのわずかな残りを零す。その全てに構わずに、夏油はナマエの腕を強く引いて歩き出した。
行き先が女子トイレだったのは、夏油にわずかにあった気遣いかもしれないしただ現場から近かったからというだけかもしれない。どちらにせよナマエには推し量れなかったし、無人の化粧室に夏油が踏み込んだことを非難する人間もいなかった。入口から一番近い個室に、ナマエを突き飛ばすようにした夏油は座り込んだ彼女の顎を犬猫にするように押さえる。文句を言われるより先に、彼はその長い指をナマエの喉奥に押し込んだ。
「う゛、お゛ぇッ……」
他人はおろか、自分でも触れることのないような場所の粘膜を押されてナマエはえずいた。ナマエの唾液やら吐しゃ物やらで汚れても、夏油は指を引き抜かなかった。導かれるままに、ナマエは便器に顔を近づけてげえげえと胃の中のものを戻した。さっき飲んだばかりのバニラシェイクの白が水面を叩く。それに続いて、混然一体となった朝飯らしき半固形物がぼたぼたと便器の中に落下した。いずれにせよ、呪霊の嫌な気配は感じられない。一通りの吐しゃ物を、夏油はじっと見つめた。ナマエの吐しゃ物に呪霊の気配を感じなかったことに、彼は安堵する。まだ彼に後頭部を掴まれているナマエは、わずかに振り向いてじろりとその顔を睨む。
「……おい、わたしはお前にここまでされる何かをしたか? それとも突然嘔吐に性的興奮を覚えたのか?」
「興奮しているように見えるかい?」
夏油の声は柔和だったが、その顔からは表情が抜け落ちていた。胃液が喉にひっかかって、咳き込みながらナマエは夏油に反論する。
「そう見えないから聞いたんだよ」
実のところ夏油本人にだって、なぜこんな暴挙に出たのか自分でもはっきりとは分からなかった。さっき安堵する気持ちの裏で腹の底がむかむかとしたのを夏油は気付かないふりをする。動揺で緩んだ彼の手を振り払って、ナマエは立ち上がった。
「クソまずい呪霊食べたとか言ってるから心配になったとか言えばいいのに」
普段の夏油であれば、そうやって器用に言い訳をしただろう。だが今は「じゃあ、そういうことで」と返すので精一杯だった。実際にひどいことをされたのは自分なのに、夏油の様子がおかしいのを見て取ったナマエはそれ以上怒ることはなかった。
「シェイクは絶対に弁償してもらうからな」
そう言い残して、制服についた汚れに顔をしかめながらナマエはトイレを出て行った。残された夏油は、やっと手を洗いながら鏡で自分の顔を見る。自分のことなのに、どんな感情を抱いているのか見ただけでは分からなかった。
夏油に捕まった場所に戻ったナマエは、散らばった書類も紙コップも片付けられていることに気が付いた。それらを始末してこの場に戻って待っていた後輩にも。
「その、大丈夫でした?」
心配そうに訊いてくる灰原に、ナマエは笑顔を作ってみせた。
「八つ当たりされただけだよ。それより、ここの掃除ありがとうね」
「はあ……」
灰原は腑に落ちないようだったが、当たり前だとナマエは思う。本人すら分からない感情が、他人に理解できるわけがないのだ。
(まとまらないなりに、文句のひとつでも口で言ってくれりゃいいのに)
あーあ、とナマエはため息をついた。任務そのものよりもその後の夏油とのやりとりのほうが彼女を疲れさせた。さっさと身ぎれいにして休もう。彼女の頭にあるのはそればかりである。
「お疲れ様」
夏油の言葉に、ナマエは口からストローを外して「おう」とだけ答えた。その顔や制服にタールのような汚れがこびりついているのを、夏油は気がついた。
「いやあ、しつこい油汚れみたいなやつだったわ。爆散したときちょっと口に入ったけど本当にゲロカスまずいのな」
これは口直し、と彼女は手に持ったコップを振った。大量の紙束が床にばらまかれる音が響いたのと、その腕を夏油が掴んだのはほぼ全く同時だった。彼の手で弾かれたコップが、床に落ちてバニラシェイクのわずかな残りを零す。その全てに構わずに、夏油はナマエの腕を強く引いて歩き出した。
行き先が女子トイレだったのは、夏油にわずかにあった気遣いかもしれないしただ現場から近かったからというだけかもしれない。どちらにせよナマエには推し量れなかったし、無人の化粧室に夏油が踏み込んだことを非難する人間もいなかった。入口から一番近い個室に、ナマエを突き飛ばすようにした夏油は座り込んだ彼女の顎を犬猫にするように押さえる。文句を言われるより先に、彼はその長い指をナマエの喉奥に押し込んだ。
「う゛、お゛ぇッ……」
他人はおろか、自分でも触れることのないような場所の粘膜を押されてナマエはえずいた。ナマエの唾液やら吐しゃ物やらで汚れても、夏油は指を引き抜かなかった。導かれるままに、ナマエは便器に顔を近づけてげえげえと胃の中のものを戻した。さっき飲んだばかりのバニラシェイクの白が水面を叩く。それに続いて、混然一体となった朝飯らしき半固形物がぼたぼたと便器の中に落下した。いずれにせよ、呪霊の嫌な気配は感じられない。一通りの吐しゃ物を、夏油はじっと見つめた。ナマエの吐しゃ物に呪霊の気配を感じなかったことに、彼は安堵する。まだ彼に後頭部を掴まれているナマエは、わずかに振り向いてじろりとその顔を睨む。
「……おい、わたしはお前にここまでされる何かをしたか? それとも突然嘔吐に性的興奮を覚えたのか?」
「興奮しているように見えるかい?」
夏油の声は柔和だったが、その顔からは表情が抜け落ちていた。胃液が喉にひっかかって、咳き込みながらナマエは夏油に反論する。
「そう見えないから聞いたんだよ」
実のところ夏油本人にだって、なぜこんな暴挙に出たのか自分でもはっきりとは分からなかった。さっき安堵する気持ちの裏で腹の底がむかむかとしたのを夏油は気付かないふりをする。動揺で緩んだ彼の手を振り払って、ナマエは立ち上がった。
「クソまずい呪霊食べたとか言ってるから心配になったとか言えばいいのに」
普段の夏油であれば、そうやって器用に言い訳をしただろう。だが今は「じゃあ、そういうことで」と返すので精一杯だった。実際にひどいことをされたのは自分なのに、夏油の様子がおかしいのを見て取ったナマエはそれ以上怒ることはなかった。
「シェイクは絶対に弁償してもらうからな」
そう言い残して、制服についた汚れに顔をしかめながらナマエはトイレを出て行った。残された夏油は、やっと手を洗いながら鏡で自分の顔を見る。自分のことなのに、どんな感情を抱いているのか見ただけでは分からなかった。
夏油に捕まった場所に戻ったナマエは、散らばった書類も紙コップも片付けられていることに気が付いた。それらを始末してこの場に戻って待っていた後輩にも。
「その、大丈夫でした?」
心配そうに訊いてくる灰原に、ナマエは笑顔を作ってみせた。
「八つ当たりされただけだよ。それより、ここの掃除ありがとうね」
「はあ……」
灰原は腑に落ちないようだったが、当たり前だとナマエは思う。本人すら分からない感情が、他人に理解できるわけがないのだ。
(まとまらないなりに、文句のひとつでも口で言ってくれりゃいいのに)
あーあ、とナマエはため息をついた。任務そのものよりもその後の夏油とのやりとりのほうが彼女を疲れさせた。さっさと身ぎれいにして休もう。彼女の頭にあるのはそればかりである。
