漫画(ジャンプ系)
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数少ない公休で、コビーが朝から出かけたものだから周辺の隊員はすわ恋人かと噂した。それが耳に入ったヘルメッポは大きくため息をつく。むしろ、そんな浮ついた用事ならよかったのだ。あの真面目な男にだって、それくらいの息抜きは必要だろう。
海軍の制服を脱いだコビーが向かったのは、とある小さな島だった。桟橋に降り立ったコビーを、子どもたちが取り囲む。島外の人間が珍しいのもあるが、彼がこの島の救世主であることを、小さな子どもたちも分かっているからだ。幼いはしゃぎ声が弾けるのを聞きつけて、島唯一の商店から女が駆けてくる。
「コビーさん!」
「こんにちは、急に押しかけてすいません」
礼儀正しく腰を折ったコビーに、女は慌てた。
「いえ! お忙しいでしょうに、ありがとうございます。まさか本当に来てくれるなんて」
そう口にしてから、彼女は自分の口を塞ぐ。
「すいません、自分から言い出しておいて」
「気にしないでください、好きでしていることなので」
女を安心させるために、コビーは微笑んだ。さきほど頭を下げたときに目を落とした桟橋は、修理されたばかりでまだ真新しい木の色をしていた。
大航海時代と言えば聞こえはいいが、ルフィたち麦わら海賊団が珍しいだけで大多数の海賊はその辺りの島を襲って略奪などを繰り返している。数か月前にこの島に襲来したのもそのようなチンピラ崩れの手合いだった。不幸中の幸いだったのは、たまたまコビーたち海軍の船の帰路に島が存在したことだ。立ち上る幾筋もの黒煙にただならぬものを感じたコビーたちは海賊に蹂躙されている最中の島に上陸した。そして彼らを一網打尽としたのである。
農業で生計を立てている島は、種まきの前に畑を燃やされた。そのことだけなら「草取りの手間が省けた」と笑い飛ばす者もあったが、問題は種もみを保存していた倉庫もいくつか炎に焼かれたことだ。例年と同じような稼ぎが期待できない今年は、島の大人は半分ほど出稼ぎに出た。商店を営んでいる彼女もまた、休日を返上して働きに出ている。その先が海軍の売店であった。そこで再会したコビーに、彼女は礼と「もしよければ見に来てください。みんな頑張っているので」という言葉を告げたのだ。
裕福ではないがそれなりの人口がいる島は、もう壊された瓦礫はほとんどきれいに片付けられていた。それだけに、歯抜けのように存在する焼け跡や、応急処置的に板が打ち付けられた家などが目に付く。
「残っている住人は、今は畑に出ています。自然は待ってくれませんから」
そう話す女に連れられて、コビーは山間に作られた畑に案内された。畑にいるのは女子供がほとんどで時々コビーよりいくらか年下の少年がいるばかりだ。大人の男は出稼ぎに行っているのだ。コビーに気が付いた子どもたちが、わっと彼に群がってくる。向けられる憧れは、この島の救世主へのそれ以外にも海軍という職業に対するものも含まれていた。子どもたちを追って、女性たちもコビーへ話しかけてくる。
「あのとき助けてくれて、本当にありがとう」
「どうやったらそんなに強くなれるの?
「うちの息子とほとんど変わらないのに、立派だこと」
「お兄ちゃん、海賊捕まえるの頑張ってね」
「しかもこうして見に来てくれるなんて」
「こんな小さな島にねえ」
見聞色の覇気を使わずとも、島民たちが心底自分にに感謝しているのがコビーには分かる。照れて頭を掻くコビーに、商店の女は目を細めた。
小さな島はすぐに一周してしまう。迎えの船が来るまで、まだ時間があった。
「船が来るまで、少し休んでいかれたらどうですか?」
商店の店先に置かれた低い木製の椅子に、言われるままコビーは座った。短期間で急ににょきにょきと伸びた足を持て余していると、彼女がすぐにマグカップを持って戻ってきた。絵柄の禿げたそれは、彼女が長く使っているのだろう。
「ありがとうございます」
出されたコーヒーは仕事の休憩中に飲むそれよりも古ぼけた味がしたが、コビーは何も言わなかった。それだけ海軍が、自分の立場が優遇されているということに気付かない人間ではない。
「いえ、お礼を言わなきゃいけないのはこっちのほうです。こんなのが、お礼になるわけないのも分かってるんですけど」
海からの風が、二人の髪を揺らした。
「今日のことだけじゃなくて、助けられたっていうことそのものだけでもなくて。みんな、あなたの存在を励みにしているから」
先陣を切る彼の姿は、島民の目にそれだけ鮮烈に映ったのだ。女の言葉は、ある種の愛の告白より重いものにコビーには感じられる。
「助けてくれたあなたに恥じないように頑張りたいんです。私も含めて」
真剣な言葉には何かを返さないと、と生真面目にコビーは思う、しかしその生真面目さゆえに言葉は形を成さずに喉で絡まった。
(そもそも奪われなければ、そう思わせることもなかったのに)
言葉に詰まったコビーを助けるように、船の汽笛が響いた。
「変なこと言ってすみません、船が来ましたね」
女は慌てて彼の手からマグカップを取り上げる。そして立ち上がったコビーの背中を押して、船に向かわせた。
「あの……」
「本当に今日はありがとうございました。それでは、お体に気を付けて」
また売店でお会いできれば、と別れの言葉を告げられてしまい、コビーは気の利いた言葉を返すことができなかった。急に硬化した態度の理由がコビーにははっきりと理解できなかった。しかし「また」と言ったその言葉に嘘はないように思えた。
小さくなっていく船影を見送って、女はため息をついた。自分がかけた言葉でコビーの目が揺れたことを、後悔しているのだ。納得できない返事を返せないその青さは、この島の若者とそう変わらないように思えた。女にはもう、コビーを島の救世主として見ることはできなかった。
春先とはいえ、日が傾きけば風は冷たい。マグカップはとっくに熱を失っていた。「また」と言ったのはほとんど祈りのようなものだ。彼のような青年が何からも損なわれませんように、と女はそれだけを思った。
海軍の制服を脱いだコビーが向かったのは、とある小さな島だった。桟橋に降り立ったコビーを、子どもたちが取り囲む。島外の人間が珍しいのもあるが、彼がこの島の救世主であることを、小さな子どもたちも分かっているからだ。幼いはしゃぎ声が弾けるのを聞きつけて、島唯一の商店から女が駆けてくる。
「コビーさん!」
「こんにちは、急に押しかけてすいません」
礼儀正しく腰を折ったコビーに、女は慌てた。
「いえ! お忙しいでしょうに、ありがとうございます。まさか本当に来てくれるなんて」
そう口にしてから、彼女は自分の口を塞ぐ。
「すいません、自分から言い出しておいて」
「気にしないでください、好きでしていることなので」
女を安心させるために、コビーは微笑んだ。さきほど頭を下げたときに目を落とした桟橋は、修理されたばかりでまだ真新しい木の色をしていた。
大航海時代と言えば聞こえはいいが、ルフィたち麦わら海賊団が珍しいだけで大多数の海賊はその辺りの島を襲って略奪などを繰り返している。数か月前にこの島に襲来したのもそのようなチンピラ崩れの手合いだった。不幸中の幸いだったのは、たまたまコビーたち海軍の船の帰路に島が存在したことだ。立ち上る幾筋もの黒煙にただならぬものを感じたコビーたちは海賊に蹂躙されている最中の島に上陸した。そして彼らを一網打尽としたのである。
農業で生計を立てている島は、種まきの前に畑を燃やされた。そのことだけなら「草取りの手間が省けた」と笑い飛ばす者もあったが、問題は種もみを保存していた倉庫もいくつか炎に焼かれたことだ。例年と同じような稼ぎが期待できない今年は、島の大人は半分ほど出稼ぎに出た。商店を営んでいる彼女もまた、休日を返上して働きに出ている。その先が海軍の売店であった。そこで再会したコビーに、彼女は礼と「もしよければ見に来てください。みんな頑張っているので」という言葉を告げたのだ。
裕福ではないがそれなりの人口がいる島は、もう壊された瓦礫はほとんどきれいに片付けられていた。それだけに、歯抜けのように存在する焼け跡や、応急処置的に板が打ち付けられた家などが目に付く。
「残っている住人は、今は畑に出ています。自然は待ってくれませんから」
そう話す女に連れられて、コビーは山間に作られた畑に案内された。畑にいるのは女子供がほとんどで時々コビーよりいくらか年下の少年がいるばかりだ。大人の男は出稼ぎに行っているのだ。コビーに気が付いた子どもたちが、わっと彼に群がってくる。向けられる憧れは、この島の救世主へのそれ以外にも海軍という職業に対するものも含まれていた。子どもたちを追って、女性たちもコビーへ話しかけてくる。
「あのとき助けてくれて、本当にありがとう」
「どうやったらそんなに強くなれるの?
「うちの息子とほとんど変わらないのに、立派だこと」
「お兄ちゃん、海賊捕まえるの頑張ってね」
「しかもこうして見に来てくれるなんて」
「こんな小さな島にねえ」
見聞色の覇気を使わずとも、島民たちが心底自分にに感謝しているのがコビーには分かる。照れて頭を掻くコビーに、商店の女は目を細めた。
小さな島はすぐに一周してしまう。迎えの船が来るまで、まだ時間があった。
「船が来るまで、少し休んでいかれたらどうですか?」
商店の店先に置かれた低い木製の椅子に、言われるままコビーは座った。短期間で急ににょきにょきと伸びた足を持て余していると、彼女がすぐにマグカップを持って戻ってきた。絵柄の禿げたそれは、彼女が長く使っているのだろう。
「ありがとうございます」
出されたコーヒーは仕事の休憩中に飲むそれよりも古ぼけた味がしたが、コビーは何も言わなかった。それだけ海軍が、自分の立場が優遇されているということに気付かない人間ではない。
「いえ、お礼を言わなきゃいけないのはこっちのほうです。こんなのが、お礼になるわけないのも分かってるんですけど」
海からの風が、二人の髪を揺らした。
「今日のことだけじゃなくて、助けられたっていうことそのものだけでもなくて。みんな、あなたの存在を励みにしているから」
先陣を切る彼の姿は、島民の目にそれだけ鮮烈に映ったのだ。女の言葉は、ある種の愛の告白より重いものにコビーには感じられる。
「助けてくれたあなたに恥じないように頑張りたいんです。私も含めて」
真剣な言葉には何かを返さないと、と生真面目にコビーは思う、しかしその生真面目さゆえに言葉は形を成さずに喉で絡まった。
(そもそも奪われなければ、そう思わせることもなかったのに)
言葉に詰まったコビーを助けるように、船の汽笛が響いた。
「変なこと言ってすみません、船が来ましたね」
女は慌てて彼の手からマグカップを取り上げる。そして立ち上がったコビーの背中を押して、船に向かわせた。
「あの……」
「本当に今日はありがとうございました。それでは、お体に気を付けて」
また売店でお会いできれば、と別れの言葉を告げられてしまい、コビーは気の利いた言葉を返すことができなかった。急に硬化した態度の理由がコビーにははっきりと理解できなかった。しかし「また」と言ったその言葉に嘘はないように思えた。
小さくなっていく船影を見送って、女はため息をついた。自分がかけた言葉でコビーの目が揺れたことを、後悔しているのだ。納得できない返事を返せないその青さは、この島の若者とそう変わらないように思えた。女にはもう、コビーを島の救世主として見ることはできなかった。
春先とはいえ、日が傾きけば風は冷たい。マグカップはとっくに熱を失っていた。「また」と言ったのはほとんど祈りのようなものだ。彼のような青年が何からも損なわれませんように、と女はそれだけを思った。
