漫画(ジャンプ系)
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シャンクスがまだあの懐かしい船に乗っていた頃だ。女を知らないままじゃ格好がつかないような社会だ。適当に停泊した小さな港町で、自分と年のそう変わらない女……少女に声をかけた。今となっては理由は曖昧だ。水商売の年上の女がしてくる過剰な子ども扱いが嫌だったとか、その程度のことだろう。自分よりも少しだけ背の高い痩せぎすの少女だった。行為そのものよりも、船に帰らず見知らぬ女と二人きりで夜を明かす非日常感とか、そういうことばかり覚えている。朝日と共に起き出す自分よりも更に早く少女は目を覚ましていた。ベッドサイドに座った彼女は、ちゃちな果物ナイフをくるくると弄んでいた。果物なんて安宿にはないのに。
「隣の家の姉さんが、恋仲だった船乗りを刺したんんだよね。まあ恋仲と思っていたのは姉さんだけだったのかもしれないけど」
伝聞として、あるいは仲間内の冗談としてそういった男女の刃傷沙汰があるのはすでに知っていた。
「お前も、おれを刺すのか?」
さすがにもう男と女で腕っぷしは違ってくる年頃だった。自分が抵抗すれば女は敵わないだろう。そう思ってはいたが、実際に声が震えなかったかは今のシャンクスにもよくわからない。
「姉さんは、その船乗りに覚えていてほしくって刺したんだって。わたしが刺すなら多分、違う理由だろうな」
少女が、その隣の家の姉さんとやらにどこまで自分を重ねているのかシャンクスには判別がつかなかった。彼女の手からこぼれ落ちた果物ナイフが、床に落ちる。
「どこにでも行けるそいつがうらやましいから、だろうな」
少女の目はひどくつまらなそうだった。自分の船に、乗せてやりたいとシャンクスは反射的に思うが、その調子のいい口約束を声に出すには果物ナイフの冷たい光が邪魔だった。板張りの床が、ナイフで白く傷ついている。それに少女が頓着した様子はなかった。
「赤髪のシャンクスって、あんただったのか」
気安くそう話しかけて来た酒場の女主人の顔を、シャンクスはぽかんと見つめた。ややあって、その顔立ちに面影を見出す。初めて抱いた女の顔は案外覚えているものだった。かつての少女がその島で酒場を経営しているのを、シャンクスは今初めて知った。捨て鉢な目をした痩せぎすの少女だった女は、いまやすっかりふてぶてしい態度だ。数十年前に出会った島とここは、いくらか距離がある。女がここにたどり着いて、店を始めた経緯のことを勿論シャンクスはまったく知らない。それはシャンクスに対する女も同じだろう。
「お互い年を取ったものだね」
女がそう言って出してきたウイスキーのロックを、シャンクスは一口啜る。樽木の匂いがかぐわしい、良い酒であった。
「母さん! これどこに置けばいい?」
シャンクスは酒を褒めるために口を開きかけたが、若い大声に遮られた。酒の入った木箱を抱えた若者が入り口から入ってきたのだ。
「店では店長って呼びな! あとそれは倉庫の右側の棚に置いといて」
小言のあとに女はありがとね、と付け加える。若者はガシャガシャと音を立てながら裏に消えていった。
「いい息子だな」
シャンクスの茶化すような言葉に、女は若者が消えていった方を見た。
「まあ、血は繋がってないけどね」
もうちょっとしたら独り立ちするだろうから、それまでは。と独り言のように呟く女の表情は柔らかかった。シャンクスは先ほどよりも酒を苦く感じる。自分にもかつてそういった感情があった。しかしそれは最早、砂漠で見る蜃気楼のようにぼんやりしたものだった。「そうか」とだけシャンクスは相槌を打った。女はいつの間にか自分の分のグラスを持っていた。
「拾ったのはこっちだからね。腹を括るしかないよ。悪い事ばかりでもなし」
シャンクスが目を細めたのは、微笑んだからではない。眩しいと思ったことを、彼は認めたくなかった。早く出てしまおうと、シャンクスはグラスを煽る。それなりの度数の酒が、彼の喉を焼いた。
わざわざ探さなくても、大事なものを見つけて、身近に引き寄せてしまえる。女という存在のそういった性質を羨ましいと思ったことはない。しかし、眼の前の相手に対してだけはむかむかとした気持ちになった。自分が初めて抱いた女が、自分のことなどどうでもいいように振る舞っているからかもしれない。あのつまらなそうな目をしていた女が。
「もう今のお前は、もうおれの誘いに乗ってくれねェんだろうな」
「何言ってんの。今のあんたなら、いくらでも他にいい女が抱けるだろ」
グラスを片付けながら、女はシャンクスの言葉を一笑に付した。四皇であるシャンクスが、一般人である目の前の女を好きにするには、小指一本ほどの力も必要ないだろう。しかし、彼はそうかと唇の端で笑っただけだった。
「釣りはいらねェよ」
勘定をカウンターに置いて、彼は店を出る。いくら何でももらいすぎだよ、と抗議する女の声を彼は無視した。
「隣の家の姉さんが、恋仲だった船乗りを刺したんんだよね。まあ恋仲と思っていたのは姉さんだけだったのかもしれないけど」
伝聞として、あるいは仲間内の冗談としてそういった男女の刃傷沙汰があるのはすでに知っていた。
「お前も、おれを刺すのか?」
さすがにもう男と女で腕っぷしは違ってくる年頃だった。自分が抵抗すれば女は敵わないだろう。そう思ってはいたが、実際に声が震えなかったかは今のシャンクスにもよくわからない。
「姉さんは、その船乗りに覚えていてほしくって刺したんだって。わたしが刺すなら多分、違う理由だろうな」
少女が、その隣の家の姉さんとやらにどこまで自分を重ねているのかシャンクスには判別がつかなかった。彼女の手からこぼれ落ちた果物ナイフが、床に落ちる。
「どこにでも行けるそいつがうらやましいから、だろうな」
少女の目はひどくつまらなそうだった。自分の船に、乗せてやりたいとシャンクスは反射的に思うが、その調子のいい口約束を声に出すには果物ナイフの冷たい光が邪魔だった。板張りの床が、ナイフで白く傷ついている。それに少女が頓着した様子はなかった。
「赤髪のシャンクスって、あんただったのか」
気安くそう話しかけて来た酒場の女主人の顔を、シャンクスはぽかんと見つめた。ややあって、その顔立ちに面影を見出す。初めて抱いた女の顔は案外覚えているものだった。かつての少女がその島で酒場を経営しているのを、シャンクスは今初めて知った。捨て鉢な目をした痩せぎすの少女だった女は、いまやすっかりふてぶてしい態度だ。数十年前に出会った島とここは、いくらか距離がある。女がここにたどり着いて、店を始めた経緯のことを勿論シャンクスはまったく知らない。それはシャンクスに対する女も同じだろう。
「お互い年を取ったものだね」
女がそう言って出してきたウイスキーのロックを、シャンクスは一口啜る。樽木の匂いがかぐわしい、良い酒であった。
「母さん! これどこに置けばいい?」
シャンクスは酒を褒めるために口を開きかけたが、若い大声に遮られた。酒の入った木箱を抱えた若者が入り口から入ってきたのだ。
「店では店長って呼びな! あとそれは倉庫の右側の棚に置いといて」
小言のあとに女はありがとね、と付け加える。若者はガシャガシャと音を立てながら裏に消えていった。
「いい息子だな」
シャンクスの茶化すような言葉に、女は若者が消えていった方を見た。
「まあ、血は繋がってないけどね」
もうちょっとしたら独り立ちするだろうから、それまでは。と独り言のように呟く女の表情は柔らかかった。シャンクスは先ほどよりも酒を苦く感じる。自分にもかつてそういった感情があった。しかしそれは最早、砂漠で見る蜃気楼のようにぼんやりしたものだった。「そうか」とだけシャンクスは相槌を打った。女はいつの間にか自分の分のグラスを持っていた。
「拾ったのはこっちだからね。腹を括るしかないよ。悪い事ばかりでもなし」
シャンクスが目を細めたのは、微笑んだからではない。眩しいと思ったことを、彼は認めたくなかった。早く出てしまおうと、シャンクスはグラスを煽る。それなりの度数の酒が、彼の喉を焼いた。
わざわざ探さなくても、大事なものを見つけて、身近に引き寄せてしまえる。女という存在のそういった性質を羨ましいと思ったことはない。しかし、眼の前の相手に対してだけはむかむかとした気持ちになった。自分が初めて抱いた女が、自分のことなどどうでもいいように振る舞っているからかもしれない。あのつまらなそうな目をしていた女が。
「もう今のお前は、もうおれの誘いに乗ってくれねェんだろうな」
「何言ってんの。今のあんたなら、いくらでも他にいい女が抱けるだろ」
グラスを片付けながら、女はシャンクスの言葉を一笑に付した。四皇であるシャンクスが、一般人である目の前の女を好きにするには、小指一本ほどの力も必要ないだろう。しかし、彼はそうかと唇の端で笑っただけだった。
「釣りはいらねェよ」
勘定をカウンターに置いて、彼は店を出る。いくら何でももらいすぎだよ、と抗議する女の声を彼は無視した。
