漫画(ジャンプ系)
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出張先の支部を抜け出して、クザンは街をふらふらと出歩いていた。真昼の暑さに包まれた大通りは逆に静かだ。雑貨屋の軒先で、店主と犬が昼寝をしていた。強い日差しに目を細めたクザンの後ろから、彼の名を呼ぶ者がいる。
「なんだ、ナマエか」
「なんだってお前ね……」
それなりの立場にいるクザンに気軽な口を利く彼は、彼よりも年上の部下の一人であった。この部下の特異なところは、クザンが入隊した頃から付き合いが続いていることだ。立場上、年上の部下など大勢いるが「付き合いの長い直属の」となるとこの男くらいなものである。そういった経歴の人間はクザンに階級を抜かれた段階でつまらない嫉妬を勝手に抱きがちだからだ。その点、彼はクザンの部下であることについて特に屈託はないらしい。同時に、分かりやすく敬意を払う気もないようだったが。
振り返ったクザンは、ナマエの全身がびっしょりと濡れているのに驚く。ナマエはぽたぽたと雫の滴る髪を乱暴に掻き上げた。
「あっちの店のおばちゃんに水ぶっかけてもらったんだよ。あまりにも暑いから」
「なるほどねェ……」
能力者であるクザンは水に濡れることに対して抵抗がある。自分ではまず出て来ない発想に思わず背筋を震わす。クザンの反応に頓着せず、ナマエは話題を変えた。
「そうだ、支部長が探してたぞ。もうすぐ会議なのに全然お前が見当たらないって」
そういえばそうだった、と手を叩くクザンにナマエはそっと目頭を押さえてみせた。
「ついぞおれはお前に五分前行動を叩きこめなかったな……」
「おっさんがそんなことしても可愛くないよ」
それに、どちらかといえばナマエだって問題児側だったことをクザンはよく覚えている。付き合いはいいし義理堅いところもあるから、集団に一人いれば便利な人材ではあったが。今だって、支部長や若い部下たちに泣きつかれて自分を探しに来たのだろう。「おれが呼びにいけば一発だから」と得意げに笑う姿を想像するのは容易かった。同時に、自分の現金さをクザンはひっそり自嘲する。自分を見上げる大きな目は変わらないが、シワはずいぶん目立つようになった。
「早く戻るぞ」
ばんばんと無遠慮に背中を叩かれたクザンは生返事をしたが、大人しくナマエの横を歩く。
「しかし暑ィな、アイスくらい奢ってくれよ。上官サマなんだから」
「んなこと言ったらさァ、アンタのほうが年上なんだからそっちが奢るべきでしょ」
クザンの反論に、ナマエは両耳に手を当てる。
「あーあー聞こえなーい」
子どもじみたやり取りをしながら歩いている二人に、果物屋の女店主が声をかけた。
「さっきの海兵さん!」
「あっ、さっきはどーも」
被らずに手に持った帽子を振って、ナマエは挨拶を返す。
「探してた男前の上司さんは見つかったの?」
「うん。おかげさまでね」
ナマエの隣を見た女店主は、確かに男前ねえと頷いた。この辺りは基本的に平和な海域だ。一般人が海軍大将の顔を知らずとも過ごせるような。
「そうだ、暑いからこれ持っていきな。ほら、そっちのお兄さんの分も」
「いいの? ありがとな!」
観光客向けに売っているのだろう、パイナップルをカットして串に刺したものを二本受け取ったナマエは満面の笑みだ。
「おっさんになっても愛嬌のある奴は得だねェ」
クザンのぼやきは、ナマエには聞こえていないようだった。さっそくパイナップルをかじりながら、ナマエはクザンにもう一方を差し出す。
「ほれ、お前の分」
クザンの手がナマエの手に触れる。パキン、と硬い音を立ててパイナップルが凍った。串や自分の手をうまく避けていることにナマエは感心する。
「器用だな」
「こっちはナマエが食えば。おれがそっちもらうから」
「食いかけだけどいいのか?」
いいよ、とクザンはナマエに凍らせたほうの串を押し付けて、もう一方をさらった。ナマエのかじった後を上書きするようにクザンは口をつける。
「ありがたいことで」
一瞬でよく冷えたパイナップルをかじって、ナマエは笑う。人を殺せるような能力で手を加えたものをよく抵抗なく食えるな、とクザンは思うが彼のそういうところが好きだった。口の中に、果実の甘酸っぱさが広がる。クザンは心中でため息をつく。
そもそもクザンをあっさり連れて帰れる部下だってナマエくらいのものだし、他の部下へわざわざ果物を凍らせてやるなんて甲斐甲斐しいことはしない。自分かナマエのどちらかが女だったら、話はもっと簡単だったんじゃないか。この二十年くらい考えている不毛な思考だ。実際はどちらも男なのだから。
さっきのパイン串の受け渡しのときにかすかに触れた指の感触だとか、食いかけのものを奪い取って食べたとか、そんな大したことない記憶を後生大事にするのだろう。ここ数年のクザンは諦め混じりにそう考えている。
「なんだ、ナマエか」
「なんだってお前ね……」
それなりの立場にいるクザンに気軽な口を利く彼は、彼よりも年上の部下の一人であった。この部下の特異なところは、クザンが入隊した頃から付き合いが続いていることだ。立場上、年上の部下など大勢いるが「付き合いの長い直属の」となるとこの男くらいなものである。そういった経歴の人間はクザンに階級を抜かれた段階でつまらない嫉妬を勝手に抱きがちだからだ。その点、彼はクザンの部下であることについて特に屈託はないらしい。同時に、分かりやすく敬意を払う気もないようだったが。
振り返ったクザンは、ナマエの全身がびっしょりと濡れているのに驚く。ナマエはぽたぽたと雫の滴る髪を乱暴に掻き上げた。
「あっちの店のおばちゃんに水ぶっかけてもらったんだよ。あまりにも暑いから」
「なるほどねェ……」
能力者であるクザンは水に濡れることに対して抵抗がある。自分ではまず出て来ない発想に思わず背筋を震わす。クザンの反応に頓着せず、ナマエは話題を変えた。
「そうだ、支部長が探してたぞ。もうすぐ会議なのに全然お前が見当たらないって」
そういえばそうだった、と手を叩くクザンにナマエはそっと目頭を押さえてみせた。
「ついぞおれはお前に五分前行動を叩きこめなかったな……」
「おっさんがそんなことしても可愛くないよ」
それに、どちらかといえばナマエだって問題児側だったことをクザンはよく覚えている。付き合いはいいし義理堅いところもあるから、集団に一人いれば便利な人材ではあったが。今だって、支部長や若い部下たちに泣きつかれて自分を探しに来たのだろう。「おれが呼びにいけば一発だから」と得意げに笑う姿を想像するのは容易かった。同時に、自分の現金さをクザンはひっそり自嘲する。自分を見上げる大きな目は変わらないが、シワはずいぶん目立つようになった。
「早く戻るぞ」
ばんばんと無遠慮に背中を叩かれたクザンは生返事をしたが、大人しくナマエの横を歩く。
「しかし暑ィな、アイスくらい奢ってくれよ。上官サマなんだから」
「んなこと言ったらさァ、アンタのほうが年上なんだからそっちが奢るべきでしょ」
クザンの反論に、ナマエは両耳に手を当てる。
「あーあー聞こえなーい」
子どもじみたやり取りをしながら歩いている二人に、果物屋の女店主が声をかけた。
「さっきの海兵さん!」
「あっ、さっきはどーも」
被らずに手に持った帽子を振って、ナマエは挨拶を返す。
「探してた男前の上司さんは見つかったの?」
「うん。おかげさまでね」
ナマエの隣を見た女店主は、確かに男前ねえと頷いた。この辺りは基本的に平和な海域だ。一般人が海軍大将の顔を知らずとも過ごせるような。
「そうだ、暑いからこれ持っていきな。ほら、そっちのお兄さんの分も」
「いいの? ありがとな!」
観光客向けに売っているのだろう、パイナップルをカットして串に刺したものを二本受け取ったナマエは満面の笑みだ。
「おっさんになっても愛嬌のある奴は得だねェ」
クザンのぼやきは、ナマエには聞こえていないようだった。さっそくパイナップルをかじりながら、ナマエはクザンにもう一方を差し出す。
「ほれ、お前の分」
クザンの手がナマエの手に触れる。パキン、と硬い音を立ててパイナップルが凍った。串や自分の手をうまく避けていることにナマエは感心する。
「器用だな」
「こっちはナマエが食えば。おれがそっちもらうから」
「食いかけだけどいいのか?」
いいよ、とクザンはナマエに凍らせたほうの串を押し付けて、もう一方をさらった。ナマエのかじった後を上書きするようにクザンは口をつける。
「ありがたいことで」
一瞬でよく冷えたパイナップルをかじって、ナマエは笑う。人を殺せるような能力で手を加えたものをよく抵抗なく食えるな、とクザンは思うが彼のそういうところが好きだった。口の中に、果実の甘酸っぱさが広がる。クザンは心中でため息をつく。
そもそもクザンをあっさり連れて帰れる部下だってナマエくらいのものだし、他の部下へわざわざ果物を凍らせてやるなんて甲斐甲斐しいことはしない。自分かナマエのどちらかが女だったら、話はもっと簡単だったんじゃないか。この二十年くらい考えている不毛な思考だ。実際はどちらも男なのだから。
さっきのパイン串の受け渡しのときにかすかに触れた指の感触だとか、食いかけのものを奪い取って食べたとか、そんな大したことない記憶を後生大事にするのだろう。ここ数年のクザンは諦め混じりにそう考えている。
