ゲーム作品

2限の授業が終わったナマエが、校舎の外に出たら噴水脇のベンチに人が溜まっていた。その中心に、見慣れた金髪が覗いている。そういえば今日は大学に行くと言っていたことを思い出した。キャンパス内で彼を探すのはそう難しくない。どこにいても、魔法のように人を惹きつける男だ。伊集院北斗という人間は、ナマエにはそう見えている。ともあれ同級生でもあり、アイドルでもある彼に人だかりの向こうから声をかけるのはナマエには躊躇われた。しかし、そこはさすがの伊集院北斗である。ベンチに腰かけた状態でも、人の隙間からナマエに気が付いたようだった。会話の間に、器用に目くばせをしてよこす彼にナマエの頬は新鮮に熱くなる。どうか顔に出ていませんように、と彼女は願った。

広い大学には、昼休みでも人がほとんどいない場所がいくつかある。この第四校舎の一階奥にあるベンチだってそうだ。ナマエが適当にスマートフォンをいじっていると、北斗がおもむろに隣に腰かけて来た。
「やあ、久しぶり」
「久しぶり……の中ではまだ、久しぶりじゃないかも」
ナマエの迂遠な言い回しに、北斗は微笑む。直接会うのは一週間ぶりだ。とはいえ、本屋や街頭広告、テレビなどで彼の顔を見ない日はない。移籍した事務所でも順調なようだった。ただ、ナマエにとっては北斗……Jupiterが人気を盛り返しているそのことよりも、一時期が嘘のように彼が楽しそうなことが嬉しかった。無論、Jupiterが今をときめくアイドルであり続けていることが嬉しくないわけではない。
周りに誰もいないことを確認して、ナマエは北斗に話しかけた。
「そういえば、この前うちにピアス忘れていったでしょ。今持ってるけど」
「ありがとう。持ってきてくれたんだ」
わざわざよかったのに、と北斗は驚いた顔をする。
「もしほら、仕事で使うとかあったら困るかなって」
惑星が水彩調のイラストで描かれたポチ袋をナマエは差し出す。その手を北斗はそっと包んだ。彼の素肌を、ナマエは冷たく感じる。それは自分の手が熱いからだ。
「また君の部屋に行く口実に、わざと忘れたんだけど」
耳元でそう囁かれて、ナマエの顔は今度こそ赤く染まる。そうさせた北斗はスマートにポチ袋を受け取ると、ナマエの手を解放した。
「……そ、そんなことしなくても、遊びに来てよ」
照れ隠しで、ナマエはそう反論する。仕返しというほどの気持ちはなかったが北斗は嬉しそうに「敵わないな」と笑った。それがやっぱり余裕そうに見えて、ナマエはつい悔しく思うのだった。
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