ゲーム作品
「おい」
宗雲とのやりとりを終えたエージェントの背中に、 皇紀は乱暴に呼びかける。
「あ、こんにちは」
エージェントは律儀に挨拶をするが、皇紀はそれには返事しない。その代わり「食っていけ」とだけぶっきらぼうに言った。
「なんか最近、毎度ごちそうになってますよね」
なんかすみません、と彼女は頭を下げる。皇紀の最低限の言葉は断りづらい雰囲気を醸し出しているのだ。出されるのは賄いであったり試作であったりとまちまちである。試作の際は宗雲も感想を訊いてくるため、皇紀の行動は一応問題ないのだろう。それはそれで緊張するのだが。
厨房に近い席に大人しくエージェントが座ると、皇紀が自ら皿を運んできた。ラウンジの客が見れば、どんな魔法を使ったのかと思うかもしれない。
「いただきます!」
エージェントはきっちり両手を合わせてから、食事を開始する。今日はカツレツのような肉に、複雑な味のソースがかかった料理だ。切り分けた一口をよく味わっていると、向かいに座っている皇紀と目が合った。とはいえ、向こうの目つきは観察者のそれである。人間離れした顔立ちや色素の薄い髪や肌を見る度、エージェントは石膏像を思い浮かべる。人ならざる者からの施しを受けているようだ、と最初の内は思っていた。最近では、実験動物と科学者の関係に近いと彼女は解釈している。
「……お前、日焼けしただろ」
食べ進めている時に、皇紀は話しかけてこない。皿が空になったのを見計らって、彼はエージェントにそう言った。
「やっぱり分かります? 仮面ライダー屋さんのほうの仕事手伝ってたら日焼け止め全部汗で死にました」
真っ白な肌の皇紀に指摘されて、エージェントは赤面する。しかし当の本人はエージェントの肉体の変化が気になっただけで、それに対する良し悪しは何も思わない。勝手に納得して、彼は会話を終わらせた。これ以上は続かないだろう。そう判断したエージェントは、手を合わせて席を立ちあがる。
「えーと、じゃあ、そろそろ失礼します。ごちそうさまでした」
営業時間が比較的近いため、エージェントは裏口から出ていこうとする。その後ろに音もなく皇紀は近づいた。仮面ライダー達の協力者とはいえ、所詮一般人である。エージェントが皇紀の行動に気が付く前に、彼はおもむろに手を伸ばした。
「わ!?」
背後から突然に耳たぶを掴まれたエージェントは思わず叫んだ。反射的にすぐ振りほどけたので、皇紀も本気で掴んでいたわけではないようだ。
「ど、どうしました……?」
エージェントは恐る恐る皇紀に話しかける。彼の赤い眼から考えを読めたことはない。
「ピアス、俺が開けてやろうか」
エージェントはきっかり五秒間、あっけにとられた。そして思い当たる節を探り当ててまた声を上げた。
「よく覚えてましたね。そんな独り言みたいなの……」
以前、皇紀のピアスを見ながら「かっこいいですよね。自分もピアス開けようかな」といった内容のことを言ったのを彼女は思い出した。また、皇紀からのこの申し出が珍しい事例なのはエージェントにも理解できる。了承したらどうなるのだろう、という好奇心が彼女の中でにわかに発生した。しかしエージェントが思考している間を、皇紀は否定と取ったらしかった。
「……まあ、考えておけ」
「は、はい」
では失礼します、と言って今度こそエージェントは帰って行った。皇紀は腕を組んで、彼女の肉付きの変化を思い返す。
(……まだか)
あの人間の肉体が、自分の料理だけで完成する日を皇紀は無意識下で望んでいる。それは実験できるなら誰でもいいのか、それともエージェントだからなのかは本人にも分からないことだった。
宗雲とのやりとりを終えたエージェントの背中に、 皇紀は乱暴に呼びかける。
「あ、こんにちは」
エージェントは律儀に挨拶をするが、皇紀はそれには返事しない。その代わり「食っていけ」とだけぶっきらぼうに言った。
「なんか最近、毎度ごちそうになってますよね」
なんかすみません、と彼女は頭を下げる。皇紀の最低限の言葉は断りづらい雰囲気を醸し出しているのだ。出されるのは賄いであったり試作であったりとまちまちである。試作の際は宗雲も感想を訊いてくるため、皇紀の行動は一応問題ないのだろう。それはそれで緊張するのだが。
厨房に近い席に大人しくエージェントが座ると、皇紀が自ら皿を運んできた。ラウンジの客が見れば、どんな魔法を使ったのかと思うかもしれない。
「いただきます!」
エージェントはきっちり両手を合わせてから、食事を開始する。今日はカツレツのような肉に、複雑な味のソースがかかった料理だ。切り分けた一口をよく味わっていると、向かいに座っている皇紀と目が合った。とはいえ、向こうの目つきは観察者のそれである。人間離れした顔立ちや色素の薄い髪や肌を見る度、エージェントは石膏像を思い浮かべる。人ならざる者からの施しを受けているようだ、と最初の内は思っていた。最近では、実験動物と科学者の関係に近いと彼女は解釈している。
「……お前、日焼けしただろ」
食べ進めている時に、皇紀は話しかけてこない。皿が空になったのを見計らって、彼はエージェントにそう言った。
「やっぱり分かります? 仮面ライダー屋さんのほうの仕事手伝ってたら日焼け止め全部汗で死にました」
真っ白な肌の皇紀に指摘されて、エージェントは赤面する。しかし当の本人はエージェントの肉体の変化が気になっただけで、それに対する良し悪しは何も思わない。勝手に納得して、彼は会話を終わらせた。これ以上は続かないだろう。そう判断したエージェントは、手を合わせて席を立ちあがる。
「えーと、じゃあ、そろそろ失礼します。ごちそうさまでした」
営業時間が比較的近いため、エージェントは裏口から出ていこうとする。その後ろに音もなく皇紀は近づいた。仮面ライダー達の協力者とはいえ、所詮一般人である。エージェントが皇紀の行動に気が付く前に、彼はおもむろに手を伸ばした。
「わ!?」
背後から突然に耳たぶを掴まれたエージェントは思わず叫んだ。反射的にすぐ振りほどけたので、皇紀も本気で掴んでいたわけではないようだ。
「ど、どうしました……?」
エージェントは恐る恐る皇紀に話しかける。彼の赤い眼から考えを読めたことはない。
「ピアス、俺が開けてやろうか」
エージェントはきっかり五秒間、あっけにとられた。そして思い当たる節を探り当ててまた声を上げた。
「よく覚えてましたね。そんな独り言みたいなの……」
以前、皇紀のピアスを見ながら「かっこいいですよね。自分もピアス開けようかな」といった内容のことを言ったのを彼女は思い出した。また、皇紀からのこの申し出が珍しい事例なのはエージェントにも理解できる。了承したらどうなるのだろう、という好奇心が彼女の中でにわかに発生した。しかしエージェントが思考している間を、皇紀は否定と取ったらしかった。
「……まあ、考えておけ」
「は、はい」
では失礼します、と言って今度こそエージェントは帰って行った。皇紀は腕を組んで、彼女の肉付きの変化を思い返す。
(……まだか)
あの人間の肉体が、自分の料理だけで完成する日を皇紀は無意識下で望んでいる。それは実験できるなら誰でもいいのか、それともエージェントだからなのかは本人にも分からないことだった。
