ゲーム作品
カオスワールドは明るくてもどこか後ろ暗さを含んでいる。それに比べれば現実世界の太陽のなんと眩しいことか。初夏の日差しを透かした紫苑の髪は、まさに光を形にしたようだ。もうそろそろ外を歩き回ると汗ばむ陽気になってきた。仮面ライダー屋の上着も日中は必要ないくらいには。午後の依頼までには、少し時間があった。川沿いの緑道で昼食にしようと紫苑は思う。どこか手頃なベンチを探して辺りを見回すと、タバコのにおいが紫苑の鼻をついた。吸っている本人は、二つ並んだベンチの片方に腰かけていた。以前、彼女の働いている店を手伝ったことがあるのだ。ちょうど木陰になっているそこに、紫苑は下草を踏んで近付く。こんにちは、と紫苑が声をかけると彼女は顔を上げた。
「あー……仮面ライダー屋さんの」
「深水です。お久しぶりです」
どうも、と言いながらナマエは手元の煙草を携帯灰皿に押し付ける。
「お気遣いありがとうございます」
そう言いながら、もう一方のベンチに座った紫苑にナマエは何てことはない顔で答えた。
「別に、もうほとんど吸いきってたし」
さすがの紫苑にも、それが嘘か本当かはっきりとは分からなかった。あまりにもささやかな為だ。しかし、どちらにせよまだ未成年である自分を慮ったのだろう。紫苑はそう解釈する。彼は自分で握ったおにぎりを膝の上に広げた。
「もう、お昼食べたんですか?」
「まあね」
嘘だろうな、と今度ははっきり紫苑は感じた。
「……よかったら、ひとつ食べますか?」
「いらなーい」
そう言って彼女は頭上を仰ぎ見た。木々は新緑というにはもうずいぶん色が濃く生い茂っている。さっきの態度とは裏腹にずいぶん子どもっぽい動作だ。そう紫苑は思う。叱られた子どもが拗ねて自分を粗末にしているような。
二人の間には特に活発な会話はない。川が勢いよく流れるごうごうという音が、二人のところまで聞こえて来た。昨日の雨のせいで、まだ流れは早いのだろう。ナマエの目線が水辺のほうへ向いているのに紫苑は気が付いた。
「……その、危ないから入らないほうがいいですよ」
つい、そう口を挟んでしまった紫苑をナマエはじっと見た。不躾だったかもしれない、と彼は思う。
「他人のそういうのが分かるんだ、苦労してんね」
ナマエはそう言っただけで、川からも紫苑からも顔を背けた。それはある種の肯定であった。彼女がタバコを吸うのも食事を抜くのも、きっと根本の理由は一つなのだろう。
(胸の真ん中に、大きな洞があるような……)
しかし彼女は、その洞をあえて放っているように見えた。そこを吹き抜ける風に身を任せているようだ。攫われてしまっても構わないのだろう。紫苑はそこまで言語化して、ふと寂しくなった。
「なんで……」
紫苑の問いかけは、ナマエの「待った」に遮られた。
「私は私を何とかしたいと思っていないし、君になんとかしてほしいとも思っていないよ」
声は柔和だったが、強い拒絶を感じて紫苑は言葉に詰まる。じゃあね、とナマエはベンチから立ち上がる。強い日差しの元を歩き去っていく後ろ姿を紫苑はただ見守ることしかできなかった。彼女が吸っていた煙草のかすかな残り香だけが、紫苑に寄り添っている。
「あー……仮面ライダー屋さんの」
「深水です。お久しぶりです」
どうも、と言いながらナマエは手元の煙草を携帯灰皿に押し付ける。
「お気遣いありがとうございます」
そう言いながら、もう一方のベンチに座った紫苑にナマエは何てことはない顔で答えた。
「別に、もうほとんど吸いきってたし」
さすがの紫苑にも、それが嘘か本当かはっきりとは分からなかった。あまりにもささやかな為だ。しかし、どちらにせよまだ未成年である自分を慮ったのだろう。紫苑はそう解釈する。彼は自分で握ったおにぎりを膝の上に広げた。
「もう、お昼食べたんですか?」
「まあね」
嘘だろうな、と今度ははっきり紫苑は感じた。
「……よかったら、ひとつ食べますか?」
「いらなーい」
そう言って彼女は頭上を仰ぎ見た。木々は新緑というにはもうずいぶん色が濃く生い茂っている。さっきの態度とは裏腹にずいぶん子どもっぽい動作だ。そう紫苑は思う。叱られた子どもが拗ねて自分を粗末にしているような。
二人の間には特に活発な会話はない。川が勢いよく流れるごうごうという音が、二人のところまで聞こえて来た。昨日の雨のせいで、まだ流れは早いのだろう。ナマエの目線が水辺のほうへ向いているのに紫苑は気が付いた。
「……その、危ないから入らないほうがいいですよ」
つい、そう口を挟んでしまった紫苑をナマエはじっと見た。不躾だったかもしれない、と彼は思う。
「他人のそういうのが分かるんだ、苦労してんね」
ナマエはそう言っただけで、川からも紫苑からも顔を背けた。それはある種の肯定であった。彼女がタバコを吸うのも食事を抜くのも、きっと根本の理由は一つなのだろう。
(胸の真ん中に、大きな洞があるような……)
しかし彼女は、その洞をあえて放っているように見えた。そこを吹き抜ける風に身を任せているようだ。攫われてしまっても構わないのだろう。紫苑はそこまで言語化して、ふと寂しくなった。
「なんで……」
紫苑の問いかけは、ナマエの「待った」に遮られた。
「私は私を何とかしたいと思っていないし、君になんとかしてほしいとも思っていないよ」
声は柔和だったが、強い拒絶を感じて紫苑は言葉に詰まる。じゃあね、とナマエはベンチから立ち上がる。強い日差しの元を歩き去っていく後ろ姿を紫苑はただ見守ることしかできなかった。彼女が吸っていた煙草のかすかな残り香だけが、紫苑に寄り添っている。
