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才悟が公園内をジョギングしていたら、見知った顔が蹲っていた。もう夏も盛りだ。具合でも悪いのかと考えた才悟は、急いで近づく。
「どうした?」
くっきりと濃い才悟の影の中に入ったナマエは、上を向いた。
「あ、魅上さん。いや、セミが……」
ナマエの足元に茶色い塊が転がっていた。アスファルトの歩道の上に静かに転がっているそれは、生きているのか死んでいるのかぱっと見では判別できない。ナマエはそれをおもむろに拾い上げる。ジジ! とセミが大きく羽を震わせて鳴いた。暴れたセミの、木を掴むための爪がナマエの肌に刺さる。それを気にせずにナマエは立ち上がった。ただのアブラゼミだ、どこにでもいる。鳴き声を上げたのだからオスなのだろう。才悟はナマエの手の中のセミを観察する。
「どこか、適当な木に……」
さくさくとナマエは芝生を踏み、植わっている木に近付いた。才悟もそれに続いて日陰に入る。それだけで体感温度が変わるのだから、不思議なものだ。適当な木の幹に、ナマエはセミを止まらせる。セミは一息つくように、そのそと何歩か進んだ。
「お付き合いありがとうございます」
「いや、オレは見ていただけだ。実際にそのアブラゼミを助けたのはあんただろ」
「魅上さんも虫好きですもんね」
相手によっては素っ気ないと言われそうな才悟の言葉にも、ナマエはのほほんと笑っただけだった。芝生から出ようと進むと、才悟の歩みに合わせて小さなバッタが飛ぶ。
「こういうことは、いつもしているのか?」
「まあ、そんなに時間もかかりませんしね……偶然見つけたらくらいですけど」
そうか、と才悟は相槌を打った。
「勝手に決めて、決めた分は守ろうとしているだけです」
なんでもないことのようにナマエは言った。セミが近くの木で鳴き始めている。額に滲んだ汗を、才悟は拭う。その動作に気が付いたナマエは、ごそごそと自分のカバンを漁った。
「今日も暑いですからね、熱中症とか気を付けてくださいよ。仮面ライダー屋の他の皆さんも」
才悟の手のひらに個包装された白いタブレットが一つかみ乗せられる。
「塩分タブレットです。外での仕事も多いでしょうから」
才悟が礼を言うよりも早く、ナマエはバスの時間! と叫んで駆けていった。バスの時間を押してまでセミや自分に構っていたのか、と才悟は思う。きっとこの人間には偶然見つけた虫を助けるのも、偶然行き会った自分にこうして親切にするのも、あまり変わりないのだろう。彼は、手元に残った塩分タブレットをもう一度見た。こぼれんばかりの量だ。才悟は落とさないうちにポケットにしまう。ナマエは、当たり前のように優しさを向けられる、この街に暮らすただの人だ。仮面ライダーとして、才悟が「守るべき人々」と定めているような。知人かそうでないかで態度を変えるつもりは才悟には毛頭ないが、それでも「守るべき人々」の具体例が増えていくのは悪くない気持ちだった。
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