ゲーム作品
閉店一時間前に、店にやってきたのは見知らぬ顔であった。
「いらっしゃーい。好きな席にドウゾ~」
天佑の間延びした声に、客……若い女だ、は素直な返事をしてカウンター席に座る。メニューを一瞥した彼女は、すいません! とカウンターの中にいる天佑に呼びかけた。
「五目炒飯、大盛で。あとこの、蒸し餃子ください」
女がそんなに食べれるのかと思わないでもない天佑であったが、性別を理由に断るようなデリカシーのない真似をするのは天佑のポリシーに反する。彼は言われた通りの注文を受けた。
「あいよ~」
どん、と置かれた炒飯はなだらかな稜線を描く小高い山のようだ。習慣なのだろう、女は静かに手を合わせていただきますと呟いた。右手にれんげを持ち、一口分を掬った。餃子を蒸しながら、天佑は彼女の反応を盗み見る。おいしい、と感じていることはその見開かれた目から分かる。炒飯はみるみるうちに口に吸い込まれていく。やけ食いなどではない。消費したエネルギーを補給するための食事だ。かつて自分が束ねていた組織の若い衆の食べっぷりを天佑は思い出す。
「はい、餃子ね」
咀嚼しながら、彼女はぺこりと小さく会釈した。他に客はおらず、後片付けもすぐに済んでしまう。天佑はカウンター越しに頬杖をついて、女の食べっぷりを眺めた。チャーハンの山が半分ほどなくなったあたりで、女は水を一口飲むとれんげを箸に持ち替える。餃子を頬張って、熱さを逃がそうと少し口を開けて息を短く吐く。上から天佑に除かれていることを意にも介さず、黙々と目の前の料理に集中する。その食べっぷりはさすがの天佑も惚れ惚れするものだった。
炒飯が残り何口かになったあたりで、天佑はつい彼女に話しかけた。一見の、しかもカタギであろう客に自分から話しかけるのは本当に珍しい、ほとんどありえないことであった。女のその、旺盛な食欲から透ける生命力に惹かれたのかもしれなかった。
「いい食べっぷりだねえ」
降ってきた声に、女は顔を上げる。口に含んでいた分を飲み込むとへへ、と愛想よく笑った。
「炒飯も餃子も、おいしくて」
来てよかったです、と言い終わると彼女は残り少ない炒飯を口に運ぶ。
「よく見つけたねえ、ここ、分かりにくいでしょ?」
「看板があるのは前から気付いてたんですけど、一度お客さんが出て来たのを見て。それで、ずっと気になってたんです」
へえ〜、と天佑は相槌を打った。女一人でこんなひっそりとした店に来るのはさぞ勇気がいることだったろう。炒飯も餃子もすっかり腹に収めた彼女は、ごちそうさまですと手を合わせた。
「けっこう大きな仕事が片付いたので、気になってた店に行こうと思って」
「けっこう大きな仕事」が手柄の横取りをしようとする上司であるとか何ならほとんど違法な状況にあった現場の問題とかをすべて解決してこぎつけたものだということを、天佑は後から知ることになる。
「ふうん。そんな節目の日ならさぁ、もっといいお店行かなくてよかったの?北京ダックとか出すようなさぁ」
冗談めかした天佑の質問にも、彼女は真面目に答えた。
「いやあ、北京ダックってひとりで食べるようなものじゃなくないですか? それに、気になってたお店がこんなにおいしいなんてラッキーですよ、私は」
その衒いのなさに、天佑はサングラスの奥の目を細めた。同じような明るさを持った友人のことを彼は思い出す。こういった人間は、その善良さをどこで獲得するのだろう。
「嬉しいこと言ってくれるじゃん、じゃあ餃子はサービスってことにしちゃおっかな」
「え! そんな、払いますよちゃんと」
いいからいいから、と天佑は素早く伝票を取り上げた。餃子の文字に、ボールペンで斜線を引く。
「なんか、すみません。ありがとうございます」
いいって、と天佑は手をひらひらとさせた。
「その代わり、また来てよ」
趣味でやっているような店である。顔なじみの常連以外の客が居つかなくても構わない。日頃そう考えている天佑であるが、彼女にかけた言葉は本心からだった。もちろんです、と女は大きくうなずいた。
「次はエビチリ食べます!」
それは楽しみ、と天佑は思う。それはあんまり素直な気持ちだったから、むしろ口に出したくはなかった。
「いらっしゃーい。好きな席にドウゾ~」
天佑の間延びした声に、客……若い女だ、は素直な返事をしてカウンター席に座る。メニューを一瞥した彼女は、すいません! とカウンターの中にいる天佑に呼びかけた。
「五目炒飯、大盛で。あとこの、蒸し餃子ください」
女がそんなに食べれるのかと思わないでもない天佑であったが、性別を理由に断るようなデリカシーのない真似をするのは天佑のポリシーに反する。彼は言われた通りの注文を受けた。
「あいよ~」
どん、と置かれた炒飯はなだらかな稜線を描く小高い山のようだ。習慣なのだろう、女は静かに手を合わせていただきますと呟いた。右手にれんげを持ち、一口分を掬った。餃子を蒸しながら、天佑は彼女の反応を盗み見る。おいしい、と感じていることはその見開かれた目から分かる。炒飯はみるみるうちに口に吸い込まれていく。やけ食いなどではない。消費したエネルギーを補給するための食事だ。かつて自分が束ねていた組織の若い衆の食べっぷりを天佑は思い出す。
「はい、餃子ね」
咀嚼しながら、彼女はぺこりと小さく会釈した。他に客はおらず、後片付けもすぐに済んでしまう。天佑はカウンター越しに頬杖をついて、女の食べっぷりを眺めた。チャーハンの山が半分ほどなくなったあたりで、女は水を一口飲むとれんげを箸に持ち替える。餃子を頬張って、熱さを逃がそうと少し口を開けて息を短く吐く。上から天佑に除かれていることを意にも介さず、黙々と目の前の料理に集中する。その食べっぷりはさすがの天佑も惚れ惚れするものだった。
炒飯が残り何口かになったあたりで、天佑はつい彼女に話しかけた。一見の、しかもカタギであろう客に自分から話しかけるのは本当に珍しい、ほとんどありえないことであった。女のその、旺盛な食欲から透ける生命力に惹かれたのかもしれなかった。
「いい食べっぷりだねえ」
降ってきた声に、女は顔を上げる。口に含んでいた分を飲み込むとへへ、と愛想よく笑った。
「炒飯も餃子も、おいしくて」
来てよかったです、と言い終わると彼女は残り少ない炒飯を口に運ぶ。
「よく見つけたねえ、ここ、分かりにくいでしょ?」
「看板があるのは前から気付いてたんですけど、一度お客さんが出て来たのを見て。それで、ずっと気になってたんです」
へえ〜、と天佑は相槌を打った。女一人でこんなひっそりとした店に来るのはさぞ勇気がいることだったろう。炒飯も餃子もすっかり腹に収めた彼女は、ごちそうさまですと手を合わせた。
「けっこう大きな仕事が片付いたので、気になってた店に行こうと思って」
「けっこう大きな仕事」が手柄の横取りをしようとする上司であるとか何ならほとんど違法な状況にあった現場の問題とかをすべて解決してこぎつけたものだということを、天佑は後から知ることになる。
「ふうん。そんな節目の日ならさぁ、もっといいお店行かなくてよかったの?北京ダックとか出すようなさぁ」
冗談めかした天佑の質問にも、彼女は真面目に答えた。
「いやあ、北京ダックってひとりで食べるようなものじゃなくないですか? それに、気になってたお店がこんなにおいしいなんてラッキーですよ、私は」
その衒いのなさに、天佑はサングラスの奥の目を細めた。同じような明るさを持った友人のことを彼は思い出す。こういった人間は、その善良さをどこで獲得するのだろう。
「嬉しいこと言ってくれるじゃん、じゃあ餃子はサービスってことにしちゃおっかな」
「え! そんな、払いますよちゃんと」
いいからいいから、と天佑は素早く伝票を取り上げた。餃子の文字に、ボールペンで斜線を引く。
「なんか、すみません。ありがとうございます」
いいって、と天佑は手をひらひらとさせた。
「その代わり、また来てよ」
趣味でやっているような店である。顔なじみの常連以外の客が居つかなくても構わない。日頃そう考えている天佑であるが、彼女にかけた言葉は本心からだった。もちろんです、と女は大きくうなずいた。
「次はエビチリ食べます!」
それは楽しみ、と天佑は思う。それはあんまり素直な気持ちだったから、むしろ口に出したくはなかった。
