ゲーム作品

バイトが終わった松之助は、仮面カフェに顔を出した。天気のいい昼過ぎだからか、満席であった。カウンターの中で皿を洗っていたエージェントが、松之助に気が付く。
「あ、こんにちは。席、奥なら空いてますよ」
エージェントはVIPルームを指す。エージェントの好意に、松之助は頷いた。
「ありがとな」

仮面を外して一息ついた松之助は、レオンが出してくれたお冷を飲む。そうしてしばらく過ごしているとVIPルームの扉が開いた。持っている皿には、大きなおにぎりが乗っている。松之助がいつも頼んでいるものだ。最近は特に何も言わなくても出てくるようになった。他に食べたいものがあればそれも追加で頼むくらいの食欲は、松之助にもある。
「お待たせしましたー」
松之助の握りこぶしくらいあるおにぎりを机に置いたのと同じタイミングで、エージェントの腹が大きな音を立てて鳴った。VIPルームの洒落た内装と不釣り合いな音に、エージェントは照れ笑いをする。
「今日、お客さんが多かったので休憩しそびれてて……」
「そうだったのか?」
松之助は目を丸くする。親しい人間が空腹なのが分かっていて、自分だけ食事をするほど面の皮は厚くない。
「もしよければ、ひとつ食うか?」
「いいんですか?」
仮面越しでも分かるくらい、エージェントの目が輝いた。エージェントはいそいそとソファ席に回り、松之助の隣に座った。よっぽど腹が減っていたのか、無意識に皿の近くに座っただけで松之助のことはおそらく目に入ってない。いつも相手にしている狂介や為士よりも小さい背中だ。松之助はそう感じる。
「では、ありがたくいただきます」
エージェントは、手に余るほど大きいおにぎりにかぶりついた。自分の手にあるときより大きく見えるな、と松之助は自分が持ったおにぎりと見比べた。レオンの握ったおにぎりは、米がいいのか握り方がいいのか、ただの塩むすびでもやたらにうまい。もぐもぐと二人で並んでおにぎりを頬張る。ごくん、と大きな一口分を飲み込んだ松之助は、ふと隣のエージェントに視線を落とす。
「……あ、」
松之助の呟きに、エージェントは彼の方を向く。
「君、頬に米粒ついてるぞ」
取ってあげようか、と伸ばされた指が仮面の下の頬に触れた。それは松之助にとって、熱中している為士が顔につけたままの絵具を拭うくらい無意識の行動だったが、為士は為士だし、エージェントはエージェントである。そのことに思い当たって、松之助はびしりと固まった。
「すまん!」
「いえ、食べこぼしつけて表に戻るわけにはいかないのでありがとうございます」
エージェントの顔色は、仮面に遮られて松之助からは詳しく分からない。けれど声色からして、困惑したり嫌がっているわけではないようだった。どうしたものか逡巡する松之助に、エージェントはおもむろに腕を伸ばした。
「阿形さんも、ほっぺにおべんとうついてますよ」
松之助が身を引くのも間に合わず、エージェントの指が松之助の口の端についた米粒をさらっていった。それこそ小さい子どもにやるようにして、そのまま紙ナプキンで指を拭った。いざ何の気もなしにされる側になった松之助は今度こそ赤面する。エージェントは松之助の様子をまったく気にせずおにぎりを完食した。そして、ぱちんと手を合わせる。
「ごちそうさまでした!」
空の皿を持って、エージェントは立ち上がった。
「おにぎり、ひとつもらっちゃったのでおかわりもらってきますね」
「あ、あぁ」
ばたん、と扉の閉まる音で松之助はやっと我に返った。このあとおにぎりのおかわりを持ってきてくれると言っていたが、エージェントの顔をまともに見れるだろうか。レオンが持ってきてくれないか、と松之助はぼんやり思った。
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