ゲーム作品
杉浦文也は、目を覚ましてからしばらくここがどこなのかを思い出そうとした。そうだ、ラブホテルの一室だ。横浜にある、少し古いラブホテル。隣を見るとシーツをほとんど奪い取るようにして、恋人が眠っている。寒さで目が覚めたのか、と文也はひとり納得する。自分よりももう少し暗い色の、ふわふわとしたナマエの髪の毛を文也は撫でた。雨の日はうねって仕方がないと本人は嫌がるが、文也はそれが好きだった。シーツの余った分に、文也は潜り込む。抱き寄せたナマエは温かかった。彼女は起きるそぶりも見せない。
部屋のローテーブルには、封の開いたタバコが転がっている。文也のものではない、ナマエのものだ。八神や海藤と違う種類を吸っているから、ナマエに会ったことは毎回九十九に察されているだろう。それを話題にするようなデリカシーのない真似を、九十九はしないが。
ナマエの寝息に混じって、空調の音や窓の外の繁華街の喧噪がかすかに聞こえてくる。他人の体温を感じているが、それでも夜というものは孤独感を強くする。八神らの手によって真相が暴かれても、大久保と和解をしても、姉が帰ってくるわけではにない。喪失の傷はもう膿んではいないが、それでもそこに傷はあるのだ。恋人であるナマエもまた、優しくまっとうな人間だ。電車で老人に席を譲り、すれ違う赤ん坊に笑いかけるような。でも、それ以外の外見や喋り方や好きなもの嫌いなものが姉に似ていなくて良かった。その「違い」の部分を文也は愛している。自分ではいわゆるシスコンではないつもりだった。別れが突然すぎただけだ。もしナマエと絵美が邂逅したら、どんな話をしただろう。本当の姉妹のように仲良くなったかもしれない。それも確認しようのないことだ。
夜の暗さに沈む文也を引き上げたのも、またナマエであった。寝なおすに寝なおせない文也の身じろぎに反応したのか、ナマエが薄目を開けた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「うんん……」
眩しいわけでもないだろうに、ナマエはぎゅうと目を瞑った。覚醒しきってはないのだろう。
「朝ごはん、ハンバーガー食べたいな……」
「は?」
文也が聞き返す前に、ナマエはまたすっと目を閉じなおした。そういう夢でも見ていたのか、本当に起きてからの希望を呟いたのか判然としない。ただ、文也のとりとめもない思考にハンバーガーの存在が割り込んだことだけが確かだ。文也の眉間の皺がふと緩んで消える。
ナマエは食べるのが下手くそで、バンズの間からソースまみれのレタスやらトマトやらをぼとぼと落とすのが常だ。それなのに懲りずに食べたがる。文也はナマエの背中を撫でた。呼吸に合わせて動いている。
「起きたら食べに行こうね」
それはすぐにやってくる未来への、ささやかな約束であった。それだけのことが文也には嬉しい。やっとやってきた眠気に、文也は包まれていった。
部屋のローテーブルには、封の開いたタバコが転がっている。文也のものではない、ナマエのものだ。八神や海藤と違う種類を吸っているから、ナマエに会ったことは毎回九十九に察されているだろう。それを話題にするようなデリカシーのない真似を、九十九はしないが。
ナマエの寝息に混じって、空調の音や窓の外の繁華街の喧噪がかすかに聞こえてくる。他人の体温を感じているが、それでも夜というものは孤独感を強くする。八神らの手によって真相が暴かれても、大久保と和解をしても、姉が帰ってくるわけではにない。喪失の傷はもう膿んではいないが、それでもそこに傷はあるのだ。恋人であるナマエもまた、優しくまっとうな人間だ。電車で老人に席を譲り、すれ違う赤ん坊に笑いかけるような。でも、それ以外の外見や喋り方や好きなもの嫌いなものが姉に似ていなくて良かった。その「違い」の部分を文也は愛している。自分ではいわゆるシスコンではないつもりだった。別れが突然すぎただけだ。もしナマエと絵美が邂逅したら、どんな話をしただろう。本当の姉妹のように仲良くなったかもしれない。それも確認しようのないことだ。
夜の暗さに沈む文也を引き上げたのも、またナマエであった。寝なおすに寝なおせない文也の身じろぎに反応したのか、ナマエが薄目を開けた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「うんん……」
眩しいわけでもないだろうに、ナマエはぎゅうと目を瞑った。覚醒しきってはないのだろう。
「朝ごはん、ハンバーガー食べたいな……」
「は?」
文也が聞き返す前に、ナマエはまたすっと目を閉じなおした。そういう夢でも見ていたのか、本当に起きてからの希望を呟いたのか判然としない。ただ、文也のとりとめもない思考にハンバーガーの存在が割り込んだことだけが確かだ。文也の眉間の皺がふと緩んで消える。
ナマエは食べるのが下手くそで、バンズの間からソースまみれのレタスやらトマトやらをぼとぼと落とすのが常だ。それなのに懲りずに食べたがる。文也はナマエの背中を撫でた。呼吸に合わせて動いている。
「起きたら食べに行こうね」
それはすぐにやってくる未来への、ささやかな約束であった。それだけのことが文也には嬉しい。やっとやってきた眠気に、文也は包まれていった。
