ゲーム作品
「食べたものによって肉の味が変わるって不思議だよねえ」
颯が突然そんなことを言い出したのは、ラウンジでここ最近採用しているイベリコ豚からの連想だろう。
「どんな生き物もそうなのかなあ。どう思う?」
「お前で試してみるか?」
実のない颯の会話を早々に打ち切らせた皇紀は、しかし颯の問いを内心では考えている。あの女の肉は、どんな味がするのかについて。
「あ、こんにちは」
趣味のために山に分け入る皇紀は、道端にうずくまる女を発見した。皇紀が声をかける前に、彼に気が付いたナマエが立ちあがって挨拶をした。道端に生えている草花を観察していたようだ。皇紀が野営に利用している山のひとつが、ナマエのフィールドワークの対象らしい。研究職というわけではなく、関係ない仕事の傍らに山の動植物を記録しているそうだ。ナマエという女は、好奇心の強い人間であった。はじめに皇紀が彼女と出会ったのも、この山中だ。
「途中までご一緒してよろしいですか?」
「どうせ一本道だろ」
まあまあ、とナマエは笑って、皇紀の先を歩く。彼女を先に歩かせると気になったものにいちいち足を止めてしまう。後ろに自分がいることを容易く忘れているようなナマエの横顔を観察するのを、皇紀は嫌いではなかった。
草木や生き物に敏感に向けられるナマエの視線は、ある種の殺意が宿っているように皇紀には思えた。しかし、自分のように狩って食べるが故のそれではなく、強い知識欲によるものだろう。その目が自分に向いたら、と皇紀は考えた。それならば、自分も彼女の喉元に刃を当てることができるのに。ラウンジの客たちの目も欲を孕んでいることはままあるが、無意識下で取り繕おうとしている。集団で社会生活を営んでいる以上、仕方のないことだ。だからこそ、他の存在にむき出しの関心を向けるナマエは皇紀にとって面白く映った。
雨の翌日で、地面は少しぬかるんでいた。ナマエの足跡は皇紀のそれよりも当然小さい。ガサ、と茂みが揺れる音がして二人は同時に音のした方へ向く。にわかに訪れた沈黙の中で、かすかに鳥の鳴き声がした。さすがにこの距離であの小さな鳥を狩る気にはなれない。ナマエも「シジュウカラあたりかな」と呟いて緊張を解いた。
「小動物は中々見ませんね。このあたりにもノウサギやタヌキくらいはいるはずなんですが。皇紀さん見たことあります?」
「ウサギは食った」
「本当ですか? 次はご一緒したいですね」
ナマエは心の底からウサギの味が気になっているという風だった。そこに皇紀自身への関心は薄い。フン、と皇紀は鼻を鳴らして拒否も承諾もしなかった。
「あ、ヘビイチゴがもう実ってる」
ナマエは屈みこみ、濡れた地面に生えている下草をかき分ける。ほら、と皇紀に向けて摘み取った赤い実を見せた。それを、ナマエは何の躊躇もなく口へ運ぶ。
「うん、やっぱり何の味もしない」
「その割には楽しそうじゃねぇか」
ついこの前にはクワの実なども食べていた。皇紀は思い出す。あれは味が良いので皇紀も相伴に預かったが。
「そんなもん食っても面白くないだろ。それだったら本当にヘビでも食ったほうがマシだ」
「私はヘビそのものはまだ食べたことないな。わりとおいしいらしいですね」
ナマエはその、なんの味もしない果実を飲み込んで、行儀よくタオルで指を拭いた。彼女の服の下。その腹を暴きたいような気持は、皇紀の中で大きくなってゆくばかりだ。
颯が突然そんなことを言い出したのは、ラウンジでここ最近採用しているイベリコ豚からの連想だろう。
「どんな生き物もそうなのかなあ。どう思う?」
「お前で試してみるか?」
実のない颯の会話を早々に打ち切らせた皇紀は、しかし颯の問いを内心では考えている。あの女の肉は、どんな味がするのかについて。
「あ、こんにちは」
趣味のために山に分け入る皇紀は、道端にうずくまる女を発見した。皇紀が声をかける前に、彼に気が付いたナマエが立ちあがって挨拶をした。道端に生えている草花を観察していたようだ。皇紀が野営に利用している山のひとつが、ナマエのフィールドワークの対象らしい。研究職というわけではなく、関係ない仕事の傍らに山の動植物を記録しているそうだ。ナマエという女は、好奇心の強い人間であった。はじめに皇紀が彼女と出会ったのも、この山中だ。
「途中までご一緒してよろしいですか?」
「どうせ一本道だろ」
まあまあ、とナマエは笑って、皇紀の先を歩く。彼女を先に歩かせると気になったものにいちいち足を止めてしまう。後ろに自分がいることを容易く忘れているようなナマエの横顔を観察するのを、皇紀は嫌いではなかった。
草木や生き物に敏感に向けられるナマエの視線は、ある種の殺意が宿っているように皇紀には思えた。しかし、自分のように狩って食べるが故のそれではなく、強い知識欲によるものだろう。その目が自分に向いたら、と皇紀は考えた。それならば、自分も彼女の喉元に刃を当てることができるのに。ラウンジの客たちの目も欲を孕んでいることはままあるが、無意識下で取り繕おうとしている。集団で社会生活を営んでいる以上、仕方のないことだ。だからこそ、他の存在にむき出しの関心を向けるナマエは皇紀にとって面白く映った。
雨の翌日で、地面は少しぬかるんでいた。ナマエの足跡は皇紀のそれよりも当然小さい。ガサ、と茂みが揺れる音がして二人は同時に音のした方へ向く。にわかに訪れた沈黙の中で、かすかに鳥の鳴き声がした。さすがにこの距離であの小さな鳥を狩る気にはなれない。ナマエも「シジュウカラあたりかな」と呟いて緊張を解いた。
「小動物は中々見ませんね。このあたりにもノウサギやタヌキくらいはいるはずなんですが。皇紀さん見たことあります?」
「ウサギは食った」
「本当ですか? 次はご一緒したいですね」
ナマエは心の底からウサギの味が気になっているという風だった。そこに皇紀自身への関心は薄い。フン、と皇紀は鼻を鳴らして拒否も承諾もしなかった。
「あ、ヘビイチゴがもう実ってる」
ナマエは屈みこみ、濡れた地面に生えている下草をかき分ける。ほら、と皇紀に向けて摘み取った赤い実を見せた。それを、ナマエは何の躊躇もなく口へ運ぶ。
「うん、やっぱり何の味もしない」
「その割には楽しそうじゃねぇか」
ついこの前にはクワの実なども食べていた。皇紀は思い出す。あれは味が良いので皇紀も相伴に預かったが。
「そんなもん食っても面白くないだろ。それだったら本当にヘビでも食ったほうがマシだ」
「私はヘビそのものはまだ食べたことないな。わりとおいしいらしいですね」
ナマエはその、なんの味もしない果実を飲み込んで、行儀よくタオルで指を拭いた。彼女の服の下。その腹を暴きたいような気持は、皇紀の中で大きくなってゆくばかりだ。
