ゲーム作品
その女に出会ったのは、大荷物で途方にくれていた彼女の祖母を家まで送っていったことがきっかけだ。完全な陽真の親切心であったが、彼が仮面ライダー屋……いわゆる便利屋であることを知ったナマエが代金を押し付けたのだ。
「本当に仕事を頼みたいときに、頼みづらくなるでしょ」
その言葉どおりナマエはたまに仮面ライダー屋に仕事をくれるようになった。それは祖母の病院の送り迎えであったり、また近所の人間が抱えている何かしらの仕事の代行などだった。
陽真が依頼された犬の散歩をしていると、公園のベンチにナマエが座っていた。手には文庫本が広げられている。
「きなこの散歩、受けたんですね」
「ああ、紹介ありがとな」
リードの先にいる柴犬が、自分の名を呼ばれたことがわかったのかパタパタと尻尾を振る。
「お祖母さん、元気か? この前もらったカレー、おいしかったぜ」
「おかげさまで。伝えたらまた作ってくれますよきっと」
ナマエの祖母や、その近所の人間たちは年若い陽真たちに何かと食べ物やなんかの世話を焼いてくれる。それは陽真たちにはありがたかった。
「今度祖母が検査で一週間入院するのですが、また付き添いをお願いできますか。いかんせん荷物が多くて」
「あぁ、もちろんだ」
「ありがとうございます。改めて連絡します」
まいどあり、と陽真は歯を見せて笑う。
「ところで、何の本読んでんだ?」
「これは昆虫学者の人のエッセイです。フィールドワーク先の話とか、面白いですよ」
「へえ、才悟……同じ仮面ライダー屋の奴なんだけど、才悟も虫とか好きなんだよな。その本の名前、教えてくれねえか?」
「いいですよ」
ナマエはブックカバーを外して表紙を見せた。
「サンキュ」
本のタイトルを控えながら、陽真はナマエを才悟に紹介したいな、と思う。どっちもいい奴だし、話が合うんじゃないか。そう考えている。
「久しぶりだね」
陽真がライダーカフェに顔を出すと、声をかけてきたのはQだった。隣に座ってきた陽真を、Qは面白そうに見つめる。
「この前、公園で一緒にいた子って、オトモダチ?」
「ん?あぁ、ナマエのことか。仮面ライダー屋の常連でさ」
へえ、とQは仮面越しに目を細めた。珍しい生き物を見つけたときのような顔だ。
「映画サークルの女の子は駄目なのに、常連の女の子と仲良くするのはいいの?」
「……別にナマエは、そんなんじゃないけどなぁ」
陽真は頬をぽりぽりと掻く。先日、エキストラとして参加した映画。その制作をしていたスタッフの女性が自分のことを熱心に見ていたのは知っている。しかし、ナマエが自分を見る視線はそれと違うだろう。
「ふーん、まぁ"そういうこと"にしてあげるよ。今はね」
陽真にはQの言葉をうまく飲み込めなかった。
カフェへの帰り道、歩きながら陽真は考える。ナマエが自分のことをどう思っているのか、自分はナマエのことをどう思っているのか。いい奴だとは思うし、面白そうな奴だとも思う。友人だったら愉快だろうな、とも。でも、ナマエは仮面ライダーやカオスイズムとは関係ない一般人だ。ううん、と陽真はぐしゃぐしゃと髪をかき回す。
(もっと前から会えていればよかったのか? おれがスクールに入学する前とか)
まあ今からでも仲良くなればいいしなと陽真は考えかけて、やめた。ポジティブシンキングを特技とする陽真だが、これは違う気がしたのだ。
カオストーンに与えられた記憶には、ナマエという友人の存在はない。
陽真の思考は、スマホの着信音に邪魔された。当のナマエからの連絡であった。
「伊織さんたちの探してたのって、こういうやつですか?」
簡潔な文章と、黄色く光るカオストーンの写真が添付されていた。陽真は慌てて返信する。
「今どこ?」
「教育地区の公園に」
「石を見ないようにして、待ってろ」
それだけ打ち込んで、陽真は駆け出した。
汗だくの陽真は、公園に不釣り合いな連中を見つけた。カオスイズムの戦闘員だ。その向こうに、ナマエもいた。背の高くないナマエのもとに、武装したカオスイズムの連中が近づいていく。余裕そうに見えるのは、ただの人間であるナマエが怪人になっても困らないからだろう。恐れていたことが起こってしまった陽真は焦る。ナマエはカオストーンを強く握りしめているようだった。
「石を見るな!」
陽真の叫び声で、ナマエは彼に気がついたようだった。やはりこれが、陽真たちが探し求めていた石だろう。ナマエは近づいてくる武装した連中にも、石にも目をくれなかった。遠くから走ってくる陽真だけをはっきりと見つめたナマエは、大きく振りかぶり、石を陽真のほうへ高く放り投げた。カオストーンは陽光にきらめきながらカオスイズムの戦闘員の頭の上を通り過ぎる。落下地点に駆け寄った陽真は、しっかりと投げられたカオストーンを受けとめた。乱暴に扱われても意に介さぬように、黄色のカオストーンは陽真の手元で静かに光っている。
「すごいな、ナマエって」
やっと追いついたエージェントにそれを預けると、陽真は変身の構えを取った。ここしばらく考えていたことにはっきりした答えが出た訳ではないが、それでも清々しい気分だった。
「本当に仕事を頼みたいときに、頼みづらくなるでしょ」
その言葉どおりナマエはたまに仮面ライダー屋に仕事をくれるようになった。それは祖母の病院の送り迎えであったり、また近所の人間が抱えている何かしらの仕事の代行などだった。
陽真が依頼された犬の散歩をしていると、公園のベンチにナマエが座っていた。手には文庫本が広げられている。
「きなこの散歩、受けたんですね」
「ああ、紹介ありがとな」
リードの先にいる柴犬が、自分の名を呼ばれたことがわかったのかパタパタと尻尾を振る。
「お祖母さん、元気か? この前もらったカレー、おいしかったぜ」
「おかげさまで。伝えたらまた作ってくれますよきっと」
ナマエの祖母や、その近所の人間たちは年若い陽真たちに何かと食べ物やなんかの世話を焼いてくれる。それは陽真たちにはありがたかった。
「今度祖母が検査で一週間入院するのですが、また付き添いをお願いできますか。いかんせん荷物が多くて」
「あぁ、もちろんだ」
「ありがとうございます。改めて連絡します」
まいどあり、と陽真は歯を見せて笑う。
「ところで、何の本読んでんだ?」
「これは昆虫学者の人のエッセイです。フィールドワーク先の話とか、面白いですよ」
「へえ、才悟……同じ仮面ライダー屋の奴なんだけど、才悟も虫とか好きなんだよな。その本の名前、教えてくれねえか?」
「いいですよ」
ナマエはブックカバーを外して表紙を見せた。
「サンキュ」
本のタイトルを控えながら、陽真はナマエを才悟に紹介したいな、と思う。どっちもいい奴だし、話が合うんじゃないか。そう考えている。
「久しぶりだね」
陽真がライダーカフェに顔を出すと、声をかけてきたのはQだった。隣に座ってきた陽真を、Qは面白そうに見つめる。
「この前、公園で一緒にいた子って、オトモダチ?」
「ん?あぁ、ナマエのことか。仮面ライダー屋の常連でさ」
へえ、とQは仮面越しに目を細めた。珍しい生き物を見つけたときのような顔だ。
「映画サークルの女の子は駄目なのに、常連の女の子と仲良くするのはいいの?」
「……別にナマエは、そんなんじゃないけどなぁ」
陽真は頬をぽりぽりと掻く。先日、エキストラとして参加した映画。その制作をしていたスタッフの女性が自分のことを熱心に見ていたのは知っている。しかし、ナマエが自分を見る視線はそれと違うだろう。
「ふーん、まぁ"そういうこと"にしてあげるよ。今はね」
陽真にはQの言葉をうまく飲み込めなかった。
カフェへの帰り道、歩きながら陽真は考える。ナマエが自分のことをどう思っているのか、自分はナマエのことをどう思っているのか。いい奴だとは思うし、面白そうな奴だとも思う。友人だったら愉快だろうな、とも。でも、ナマエは仮面ライダーやカオスイズムとは関係ない一般人だ。ううん、と陽真はぐしゃぐしゃと髪をかき回す。
(もっと前から会えていればよかったのか? おれがスクールに入学する前とか)
まあ今からでも仲良くなればいいしなと陽真は考えかけて、やめた。ポジティブシンキングを特技とする陽真だが、これは違う気がしたのだ。
カオストーンに与えられた記憶には、ナマエという友人の存在はない。
陽真の思考は、スマホの着信音に邪魔された。当のナマエからの連絡であった。
「伊織さんたちの探してたのって、こういうやつですか?」
簡潔な文章と、黄色く光るカオストーンの写真が添付されていた。陽真は慌てて返信する。
「今どこ?」
「教育地区の公園に」
「石を見ないようにして、待ってろ」
それだけ打ち込んで、陽真は駆け出した。
汗だくの陽真は、公園に不釣り合いな連中を見つけた。カオスイズムの戦闘員だ。その向こうに、ナマエもいた。背の高くないナマエのもとに、武装したカオスイズムの連中が近づいていく。余裕そうに見えるのは、ただの人間であるナマエが怪人になっても困らないからだろう。恐れていたことが起こってしまった陽真は焦る。ナマエはカオストーンを強く握りしめているようだった。
「石を見るな!」
陽真の叫び声で、ナマエは彼に気がついたようだった。やはりこれが、陽真たちが探し求めていた石だろう。ナマエは近づいてくる武装した連中にも、石にも目をくれなかった。遠くから走ってくる陽真だけをはっきりと見つめたナマエは、大きく振りかぶり、石を陽真のほうへ高く放り投げた。カオストーンは陽光にきらめきながらカオスイズムの戦闘員の頭の上を通り過ぎる。落下地点に駆け寄った陽真は、しっかりと投げられたカオストーンを受けとめた。乱暴に扱われても意に介さぬように、黄色のカオストーンは陽真の手元で静かに光っている。
「すごいな、ナマエって」
やっと追いついたエージェントにそれを預けると、陽真は変身の構えを取った。ここしばらく考えていたことにはっきりした答えが出た訳ではないが、それでも清々しい気分だった。
