ゲーム作品
「あっ!」
嬉しそうな男の声に、ナマエの肩がぎくりと跳ねた。ドーナツを口いっぱいに頬張っているせいで、ナマエが何も話せない間に男――颯はさっさとナマエの対面に座る。外から見つかりにくいよう、カフェの奥の席に座ったナマエの目論見は完全に外れたのだった。
「やっぱりいると思ったよ」
「……数少ない楽しみなんですよ、これが」
商業地区で働いているナマエは、毎週決まった曜日の決まった時間に行きつけのカフェのドーナツを注文するのが習慣であった。おかげで、颯は毎週ナマエと確実に会えるこの場所に来るのだ。一度、颯は彼女に「僕に会うのが嫌なら、他のお店に行けばいいのに」と訊いたことがある。それにナマエは心底嫌そうな顔をして「あなたがお店の勧誘を諦めればいいでしょう。なぜ私が私の楽しみを諦めねばならないんですか」と答えた。ナマエのその正直な態度を颯は気に入っているが、店の勧誘をしているという誤解だけには困っていた。そもそもウィズダムシンクスは基本的にはプライベートを店に持ち込まないし、店のことをプライベートに持ち出すこともご法度である。カオスイズムやカオストーンでも関わらない限りは、わざわざ店を紹介したりはしない。
「じゃ、僕もドーナツ買ってくるね」
場所取りと言わんばかりに、向かい側に置きっぱなしのスマホを見てナマエはため息をついた。ここで放置できないのがこの人間の生真面目なところだ。
「期間限定のフレーバーが出てたから、それにしちゃった」
カフェラテとドーナツふたつが乗ったトレイを持って、颯が戻ってきた。ナマエは仏頂面でブラックコーヒーを啜る。
「ナマエさんってさ、いつも同じドーナツだよね」
「私はこれが一番好きなんです」
「ナマエさんのそういうとこ、やっぱいいよね」
にっこりと颯はナマエを褒めた。颯のその笑顔を見るためにウィズダムに通う客もいるほどだ。しかしナマエの知ったことではない。
「お金も出ないのによくやりますね」
「ひどいなぁ、本心なのに」
ナマエからしてみれば、一度カフェで偶然相席になっただけの男にここまで気に入られる理由が分からない。で、あれば彼が働いている店への勧誘と考えたほうが納得がいくくらいだ。
「どうすれば、ただ仲良くしたいだけって分かってくれるのかな」
ドーナツを齧りながら颯は首を傾げる。
「……いったん黙って30秒くらい考えたらどうですか」
「えぇ~?」
会話の中で3秒以上沈黙を作らないのが颯のモットーである。それでも、颯は素直に30秒黙りこくった。
「あ! 期間限定のドーナツ、食べる?」
「どうして?」
ナマエの問いを軽く流して、颯はいそいそと残ったもうひとつのドーナツを半分に割り、大きい方をナマエの皿に乗せた。
「こっちもきっとおいしいよ」
ナマエは困惑したが、もう皿に乗せられてしまったドーナツを無碍にもできない。イチゴチョコのコーティングだろうか、颯の髪の色に似たそれをナマエは観念して一口かじった。
「たしかに、おいしいですね」
「でしょ!?」
颯は大きく身を乗り出す。しかしナマエが反射的に身を引いたのを見て、すぐに座りなおした。
「おいしいですけど、突然どうしたんですか」
ナマエの質問に、颯は唇を尖らせた。
「やっぱり好きな子においしいもの、食べてほしいじゃん」
「………………颯さんって私のこと好きなんですか?」
「あっ」
颯は「しまった」と目を見開いた。生真面目なナマエに合わせて、少しずつ距離を縮める魂胆だったのだ。しかし、颯は取り繕う前にナマエが耳まで赤くなったのに気付く。
(……あれ、 もしかして最初からそう言えばよかったのかな?)
素直だし真面目な人柄なのに、読めない相手だ。でもその読めなさを前にするのが、颯には楽しかった。
嬉しそうな男の声に、ナマエの肩がぎくりと跳ねた。ドーナツを口いっぱいに頬張っているせいで、ナマエが何も話せない間に男――颯はさっさとナマエの対面に座る。外から見つかりにくいよう、カフェの奥の席に座ったナマエの目論見は完全に外れたのだった。
「やっぱりいると思ったよ」
「……数少ない楽しみなんですよ、これが」
商業地区で働いているナマエは、毎週決まった曜日の決まった時間に行きつけのカフェのドーナツを注文するのが習慣であった。おかげで、颯は毎週ナマエと確実に会えるこの場所に来るのだ。一度、颯は彼女に「僕に会うのが嫌なら、他のお店に行けばいいのに」と訊いたことがある。それにナマエは心底嫌そうな顔をして「あなたがお店の勧誘を諦めればいいでしょう。なぜ私が私の楽しみを諦めねばならないんですか」と答えた。ナマエのその正直な態度を颯は気に入っているが、店の勧誘をしているという誤解だけには困っていた。そもそもウィズダムシンクスは基本的にはプライベートを店に持ち込まないし、店のことをプライベートに持ち出すこともご法度である。カオスイズムやカオストーンでも関わらない限りは、わざわざ店を紹介したりはしない。
「じゃ、僕もドーナツ買ってくるね」
場所取りと言わんばかりに、向かい側に置きっぱなしのスマホを見てナマエはため息をついた。ここで放置できないのがこの人間の生真面目なところだ。
「期間限定のフレーバーが出てたから、それにしちゃった」
カフェラテとドーナツふたつが乗ったトレイを持って、颯が戻ってきた。ナマエは仏頂面でブラックコーヒーを啜る。
「ナマエさんってさ、いつも同じドーナツだよね」
「私はこれが一番好きなんです」
「ナマエさんのそういうとこ、やっぱいいよね」
にっこりと颯はナマエを褒めた。颯のその笑顔を見るためにウィズダムに通う客もいるほどだ。しかしナマエの知ったことではない。
「お金も出ないのによくやりますね」
「ひどいなぁ、本心なのに」
ナマエからしてみれば、一度カフェで偶然相席になっただけの男にここまで気に入られる理由が分からない。で、あれば彼が働いている店への勧誘と考えたほうが納得がいくくらいだ。
「どうすれば、ただ仲良くしたいだけって分かってくれるのかな」
ドーナツを齧りながら颯は首を傾げる。
「……いったん黙って30秒くらい考えたらどうですか」
「えぇ~?」
会話の中で3秒以上沈黙を作らないのが颯のモットーである。それでも、颯は素直に30秒黙りこくった。
「あ! 期間限定のドーナツ、食べる?」
「どうして?」
ナマエの問いを軽く流して、颯はいそいそと残ったもうひとつのドーナツを半分に割り、大きい方をナマエの皿に乗せた。
「こっちもきっとおいしいよ」
ナマエは困惑したが、もう皿に乗せられてしまったドーナツを無碍にもできない。イチゴチョコのコーティングだろうか、颯の髪の色に似たそれをナマエは観念して一口かじった。
「たしかに、おいしいですね」
「でしょ!?」
颯は大きく身を乗り出す。しかしナマエが反射的に身を引いたのを見て、すぐに座りなおした。
「おいしいですけど、突然どうしたんですか」
ナマエの質問に、颯は唇を尖らせた。
「やっぱり好きな子においしいもの、食べてほしいじゃん」
「………………颯さんって私のこと好きなんですか?」
「あっ」
颯は「しまった」と目を見開いた。生真面目なナマエに合わせて、少しずつ距離を縮める魂胆だったのだ。しかし、颯は取り繕う前にナマエが耳まで赤くなったのに気付く。
(……あれ、 もしかして最初からそう言えばよかったのかな?)
素直だし真面目な人柄なのに、読めない相手だ。でもその読めなさを前にするのが、颯には楽しかった。
