ゲーム作品

わ、と悲鳴にも満たない短い声がユニゾンした。放課後、部活のあとに忘れ物に気が付いて教室に取りに戻った。さっさと目当てのノートを回収して出ようと思ったところだった。逆に教室に入ってきた誰かとぶつかった。
「……天峰じゃん」
そうだけど、と口を尖らせたそのクラスメイトは、今をときめくアイドルである。
「いや、久しぶりに見たなと思って。学校で」
そういえば昨日も朝の番組で見かけたな、と思って付け加えた言葉は余計だったかもしれない。画面の中で、同じユニットのメンバーと並ぶ彼よりも目の前にいる天峰は背が高く見えた。
「そりゃ、今日は生徒会の集まりがあったからね。生徒会長が顔出さないなんてナシでしょ。ほら、二年の修学旅行も近いし」
喋りながら、天峰は自分の机の中を覗き込む。彼も何かしら荷物を取りに来たところらしかった。会話が続いたので、自分もなんとなく教室の中に戻る。教卓に荷物を置いて、そこに体重をかけながら天峰のほうを見た。
「修学旅行かぁ、いいなあ」
「俺たちも来年じゃん」
「そうだけどさぁ」
来年なんて、大人たちはすぐだって言うけどとてもそうは思えなかった。昨年のことだって遠い昔に思える。
「来年、来年か……」
ふと視線を落とすと、天峰がプリントを揃えてファイルにしまっていた。最近受けられてなかった授業のものだろう。
「アイドル忙しくなって、天峰が修学旅行に来れなかったりして」
つい、そう零した言葉に天峰は顔を上げた。さらさらの前髪が動く。天峰の目がまっすぐにこちらを見た。
「いや、行くよ。ちゃんと」
天峰のすごいところは、アイドルとして画面の中で話してるときも、生徒会長として演説しているときも、こうして二人だけで話しているときも同じ態度なところだ。口に出したことは、絶対に実現してみせるのだろうな、と思わせるような。
「うちのユニットの先輩たちも、他のユニットの人たちも、ちゃんと仕事と学校のことは調整してる。だから大丈夫」
天峰には、殊更にこっちを安心させようという気はないのだろう。その自信に満ちた笑顔を、こっちが勝手に頼もしく思っているだけだ。
「天峰が修学旅行に来てくれるの、嬉しい」
天峰はその言葉を聞いてちょっと驚いたようだった。見開かれた目を見て、自分が言った「嬉しい」というワードが急に照れ臭くなった。「楽しい」とかのほうがよかったのかもしれない。でも自分が今たしかに感じた気持ちは嬉しさだった。
「ありがと」
天峰の笑顔は、アイドルのときにもよく見る不敵なそれよりももっと、眩しく見えた。
36/64ページ
スキ