ゲーム作品
時の政府に招集された審神者たちの中には、年少者も多い。十にも満たない者から、中等教育の最中の者、本当であれば進学か就職かのどちらかを考えていただろう者。腐っても23世紀のこのご時世、子どもの学ぶ権利はある種の戦時下でも、いやある種の戦時下だからこそ強く保障されていた。
彼ら年若き審神者は、政府の敷地内に併設された審神者専用の学舎で授業を受ける。もちろん、わざわざ本丸を空けてまで、と苦言を呈する者もいる。しかし思春期を過ごす彼らにとって刀剣男士以外の人間と過ごすのは一定の「効果」を上げているのも確かであった。
いかなところに立っている学び舎でも、チャイムの音は日常の象徴である。共通カリキュラムである数学を教えていた講師は、では今日はこの辺りで、と話を切った。授業終わりの挨拶を済ませ、先日十七になったばかりのこの審神者も、大きく背伸びをする。タブレットの別ウィンドウには、今開かれている江戸城で獲得可能な小判の試算がメモされていた。審神者にとって、教科書にある矢印がどれくらいのベクトルを示しているかよりも自分の本丸に小判が何枚あるかのほうがより強い関心事だ。授業中にこんな内職をしていることがバレたら、初期刀である歌仙には目玉が飛びだすほど怒られるだろうが。
若き審神者たちは、帰り支度を済ませたあとも教室に残って友人と話したり、めいめい好きに過ごしている。皆、自分の本丸からの迎えを待っているのだ。政府の敷地内とはいえ――いや、だからこそ――行きも帰りも本丸からの付き添いが必須であった。端末が鳴り、迎えが来たことを知らされた者から順に帰っていく。この審神者のタブレットにもいつも通り着信が来た。
「じゃ、また来週」
友人に別れを告げ、教室を出た審神者は校舎の外へ向かう。窓から下を見下ろすと、雨の中に真っ青な傘が見えた。あの傘は本丸全体の備品だ。丈夫で目立てさえすれば良かろうと歌仙や加州の渋い顔に構わずに買った野暮ったい物。迎えに来ている彼は、顕現して半年程度である。私服やなんかに給金を使っているのは見たが、傘は特に頓着がないのか。あるいはまだそこまで手が回ってないのか。
玄関を出た審神者は、水たまりに構わずまっすぐに刀の元へ向かう。
「笹貫!」
雨音混じりだろうが、今生の主の声であれば簡単に聞き取れる。笹貫は笑って、少しだけ傘を持ち上げてみせた。彼の差している大きい傘の下に収まった審神者は、笹貫に迎えの礼を言う。
「いいってことよ。オレが立候補してんだし」
この本丸では、審神者の迎えは基本的に立候補制である。ある程度の練度で、出陣が入っていない刀であれば誰でも構わないのだ。笹貫はその「ある程度の練度」に達して以降、出来る限り審神者の迎えに行っていた。最近はもっぱら笹貫の役回りである。
「でもいっつも来てくれるからさ」
「だーかーら、オレがしたくてしてるんだって」
実際彼は、このような制度の本丸に顕現して良かったとすら思っているのだ。もちろん出陣や内番があるときは仕方がないが、それ以外は出来る限り自分がこの若き主を迎えに行きたいと思っている。その証拠に、毎日同じ道を往復する彼の足取りは天気に関わらず軽い。
「そもそもさ、主を迎えに行くのが億劫な奴なんていないし」
同じ傘の下にいる笹貫の声は、雨音に遮られずにはっきりと審神者に届いた。
「自分の足で主を迎えに行けるなんて、最高じゃない?」
審神者は笹貫の顕現時の言葉をよく覚えている。自分は絶対に彼らを放り出したりはしない、と改めて思ったからだ。
「……じゃあ、卒業するまでは迎えに来てもらおうかな」
審神者は自分の肩を笹貫の腕に軽くぶつけた。審神者がもっと小さい頃は無邪気に刀たちにじゃれついていたらしい。その当時のことを、もちろん笹貫は知らない。でも今の審神者が甘えてくる態度がこれであることは分かっている。それで十分だとも思っている。
彼ら年若き審神者は、政府の敷地内に併設された審神者専用の学舎で授業を受ける。もちろん、わざわざ本丸を空けてまで、と苦言を呈する者もいる。しかし思春期を過ごす彼らにとって刀剣男士以外の人間と過ごすのは一定の「効果」を上げているのも確かであった。
いかなところに立っている学び舎でも、チャイムの音は日常の象徴である。共通カリキュラムである数学を教えていた講師は、では今日はこの辺りで、と話を切った。授業終わりの挨拶を済ませ、先日十七になったばかりのこの審神者も、大きく背伸びをする。タブレットの別ウィンドウには、今開かれている江戸城で獲得可能な小判の試算がメモされていた。審神者にとって、教科書にある矢印がどれくらいのベクトルを示しているかよりも自分の本丸に小判が何枚あるかのほうがより強い関心事だ。授業中にこんな内職をしていることがバレたら、初期刀である歌仙には目玉が飛びだすほど怒られるだろうが。
若き審神者たちは、帰り支度を済ませたあとも教室に残って友人と話したり、めいめい好きに過ごしている。皆、自分の本丸からの迎えを待っているのだ。政府の敷地内とはいえ――いや、だからこそ――行きも帰りも本丸からの付き添いが必須であった。端末が鳴り、迎えが来たことを知らされた者から順に帰っていく。この審神者のタブレットにもいつも通り着信が来た。
「じゃ、また来週」
友人に別れを告げ、教室を出た審神者は校舎の外へ向かう。窓から下を見下ろすと、雨の中に真っ青な傘が見えた。あの傘は本丸全体の備品だ。丈夫で目立てさえすれば良かろうと歌仙や加州の渋い顔に構わずに買った野暮ったい物。迎えに来ている彼は、顕現して半年程度である。私服やなんかに給金を使っているのは見たが、傘は特に頓着がないのか。あるいはまだそこまで手が回ってないのか。
玄関を出た審神者は、水たまりに構わずまっすぐに刀の元へ向かう。
「笹貫!」
雨音混じりだろうが、今生の主の声であれば簡単に聞き取れる。笹貫は笑って、少しだけ傘を持ち上げてみせた。彼の差している大きい傘の下に収まった審神者は、笹貫に迎えの礼を言う。
「いいってことよ。オレが立候補してんだし」
この本丸では、審神者の迎えは基本的に立候補制である。ある程度の練度で、出陣が入っていない刀であれば誰でも構わないのだ。笹貫はその「ある程度の練度」に達して以降、出来る限り審神者の迎えに行っていた。最近はもっぱら笹貫の役回りである。
「でもいっつも来てくれるからさ」
「だーかーら、オレがしたくてしてるんだって」
実際彼は、このような制度の本丸に顕現して良かったとすら思っているのだ。もちろん出陣や内番があるときは仕方がないが、それ以外は出来る限り自分がこの若き主を迎えに行きたいと思っている。その証拠に、毎日同じ道を往復する彼の足取りは天気に関わらず軽い。
「そもそもさ、主を迎えに行くのが億劫な奴なんていないし」
同じ傘の下にいる笹貫の声は、雨音に遮られずにはっきりと審神者に届いた。
「自分の足で主を迎えに行けるなんて、最高じゃない?」
審神者は笹貫の顕現時の言葉をよく覚えている。自分は絶対に彼らを放り出したりはしない、と改めて思ったからだ。
「……じゃあ、卒業するまでは迎えに来てもらおうかな」
審神者は自分の肩を笹貫の腕に軽くぶつけた。審神者がもっと小さい頃は無邪気に刀たちにじゃれついていたらしい。その当時のことを、もちろん笹貫は知らない。でも今の審神者が甘えてくる態度がこれであることは分かっている。それで十分だとも思っている。
