ゲーム作品
単独での仕事終わりに、タケルは男道らーめんの暖簾をくぐった。毎度毎度というわけではないが、自然に足が向くものである。
「いらっしゃーい!」
カウンターの中に立っている道流は、客がタケルであることを認めて、お疲れさんと労いの言葉をかけた。
「おつかれさま~」
カウンター席に座っていた常連も、タケルに片手をあげて挨拶をした。平日かつ、微妙な時間帯だからか、客は彼女しかいなかった。そのことと、加えて漣がいないことに対してタケルは少しだけ得したような気持ちになる。
「大河くんに愛増ラーメン、大盛で。あとチャーシュー追加で乗っけてください」
「いつものっスね、毎度毎度ありがとうございます」
曰く、よく食べる年下に奢ることが喜びであるという彼女と居合わせると、奢ってもらうことになる。毎回のことで、道流は恐縮しているが彼もまた似たようなものだろうとタケルは思っている。当の常連は、煮卵だのチャーシューだのだけを皿に盛ってもらい、ビールを飲んでいるところだった。これもいつものことだ。話を聞くに、道流がおやっさんに弟子入りする前からの。
「ありがとうございます」
ひとつ空きで、カウンター席に座ったタケルも毎度律儀に頭を下げる。
「いいのいいの、大河くん仕事終わりだったら沢山食べないとね」
彼女はタケルのことを「大河くん」と呼んでいる。その呼び名は、アイドルとファンという関係性よりもむしろ近しい響きがあった。しかし、その他の関係性ならば距離を感じる呼び名だ、とタケルは感じる。実際、二人の関係性にはまだ名前がつくような何かはないのだ。
すぐに運ばれてきたラーメンをすすりながら、タケルは道流と常連の気の置けない会話に聞き耳を立てた。
「一昨日、大学の友人に久々に飲みに誘われたから嬉しくなって行ったんですよ。そしたら合コンの人数合わせで」
「そんなこと、本当にあるんスねえ」
「だから全然楽しくなくて。ちょっとでも飲みなおそうって来ちゃいました」
合コンがどういうものかについては、タケルも正しく理解していた。最近、翼が出演していたドラマで観たのだ。片思いしているヒロインを強引に連れ出すのが、彼の役どころであった。あれもヒロインは数合わせで合コンに連れて来られていたのではなかったか。増量されたチャーシューを口に運びながら、タケルは彼女の席を横目で見た。ビールの大ジョッキはもう半分以上が空になっている。それの味は、まだタケルには未知のものであった。当然合コンという集まりのことも。そもそもアイドルという身で、現実にそんなものに参加する気は到底ない。
しかし、とタケルは想像する。自分はまだ合コンの相手にも連れ出す男になるにもまだ、様々なものが足りない気がした。
そんなことを考えるうちに、ラーメンのどんぶりは勝手に空いていく。いつもと同じ旨さのはずであったが、彼女に奢られたものだけは少しだけ味が分からないような気がした。その理由が、まだタケルにはよく分からない。
「いらっしゃーい!」
カウンターの中に立っている道流は、客がタケルであることを認めて、お疲れさんと労いの言葉をかけた。
「おつかれさま~」
カウンター席に座っていた常連も、タケルに片手をあげて挨拶をした。平日かつ、微妙な時間帯だからか、客は彼女しかいなかった。そのことと、加えて漣がいないことに対してタケルは少しだけ得したような気持ちになる。
「大河くんに愛増ラーメン、大盛で。あとチャーシュー追加で乗っけてください」
「いつものっスね、毎度毎度ありがとうございます」
曰く、よく食べる年下に奢ることが喜びであるという彼女と居合わせると、奢ってもらうことになる。毎回のことで、道流は恐縮しているが彼もまた似たようなものだろうとタケルは思っている。当の常連は、煮卵だのチャーシューだのだけを皿に盛ってもらい、ビールを飲んでいるところだった。これもいつものことだ。話を聞くに、道流がおやっさんに弟子入りする前からの。
「ありがとうございます」
ひとつ空きで、カウンター席に座ったタケルも毎度律儀に頭を下げる。
「いいのいいの、大河くん仕事終わりだったら沢山食べないとね」
彼女はタケルのことを「大河くん」と呼んでいる。その呼び名は、アイドルとファンという関係性よりもむしろ近しい響きがあった。しかし、その他の関係性ならば距離を感じる呼び名だ、とタケルは感じる。実際、二人の関係性にはまだ名前がつくような何かはないのだ。
すぐに運ばれてきたラーメンをすすりながら、タケルは道流と常連の気の置けない会話に聞き耳を立てた。
「一昨日、大学の友人に久々に飲みに誘われたから嬉しくなって行ったんですよ。そしたら合コンの人数合わせで」
「そんなこと、本当にあるんスねえ」
「だから全然楽しくなくて。ちょっとでも飲みなおそうって来ちゃいました」
合コンがどういうものかについては、タケルも正しく理解していた。最近、翼が出演していたドラマで観たのだ。片思いしているヒロインを強引に連れ出すのが、彼の役どころであった。あれもヒロインは数合わせで合コンに連れて来られていたのではなかったか。増量されたチャーシューを口に運びながら、タケルは彼女の席を横目で見た。ビールの大ジョッキはもう半分以上が空になっている。それの味は、まだタケルには未知のものであった。当然合コンという集まりのことも。そもそもアイドルという身で、現実にそんなものに参加する気は到底ない。
しかし、とタケルは想像する。自分はまだ合コンの相手にも連れ出す男になるにもまだ、様々なものが足りない気がした。
そんなことを考えるうちに、ラーメンのどんぶりは勝手に空いていく。いつもと同じ旨さのはずであったが、彼女に奢られたものだけは少しだけ味が分からないような気がした。その理由が、まだタケルにはよく分からない。
