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こちらに気がついたのは人間よりも、ポケモンのほうが先だった。他の個体よりもなんとなく表情豊かなネイティが、フリードの顔を見て目を丸くした。そのネイティを肩に載せた人間は、なにやらノモセの大湿原の地図を難しい顔で眺めている。その興味外への視野の狭さは変わっていないようだった。
「よう」
フリードが隣に並んで声をかけると、その人間は驚いたのか地面から三センチくらい飛び跳ねた。ネイティは慣れっこらしく。肩から微動だにしない。
「…………あっ、フリードか。久しぶり」
そうそう人に忘れられることはないフリードだが、相手は思い出すのに時間がかかったらしい。ずっと変わらないな、と思いつつフリードも久しぶりだなと返した。
「休暇か? お前、地元シンオウだよな」
「休暇なのはそうだけど、帰省ってわけじゃないよ。地元はカロスのほうだし」
相変わらずあんまり人間に興味ないよね、とフリードが相手に抱いている感想をそのまま返されて、彼は苦笑する。
「それよりも、その帽子が素敵なピカチュウさんは新顔なのかな?」
「あぁ、今の俺たちのキャプテンだ」
キャプテン・ピカチュウとネイティも、互いのトレーナーの肩から挨拶をする。
「かっこいいね、よろしくお願いします」
興味深そうに目を輝かせてはいるが、あくまでも礼儀正しく挨拶する。ライジングボルテッカーズにはいないタイプなので、ピカチュウにとっても新鮮なようだった。
「じゃあ、おまえもキバニアの大量発生を?」
「フリードもそうなんだ。フリーになっても相変わらずだね」
「そうかあ?」
これでもキャプテンに出会ってから変わったはずだ。あの会社を辞めるあたりの自分はもう全部に飽きていたのだから。フリードは思う。
「そっちは今なにやってんだ? 相変わらずあそこに?」
「うん、今やってるのは大体鳥ポケモンの行動と地域差についてかな。渡りをしないスバメとするスバメの違いについてとか、地域ごとに発生するオドリドリの振り付けの流行りだとか」
こんな感じだったな、とフリードは微笑んだ。自分たちは自分たちの過去を懐かしむより、今の関心事について一方的に話すほうが向いている。相手の視点は自分にないもので、それは今なお新鮮だった。その事を今まで忘れていて、忘れたままにあの場所を去ったのだ。
「お前のほうがよっぽど天才だよな」
「そんなことないよ」
フリードの心の底からの感想は、相手にすぐ否定された。
「いろんなことが気になって仕方がないだけ。一つ分かったら十個も二十個も知らないことが増えるからいつまでも終わらないよ」
その言葉は謙遜ではなく、本当にそう思っているのだろう。ネイティなんて連れているくせに、この人間には身近にあるものはすべて未知のものに見えている。二人で肩を並べたあの研究所にもきっとまだフリードが見たことないものが溢れていたのだろう。キャプテンと出会った今でこそそのことが分かるが、逆に言えばキャプテンと出会わなければフリードには気がつけなかった。
ロトロトロト、とフリードのものより幾分大声でロトムフォンが鳴り響く。それは相手のロトムフォンで、持ち主が気が付かないから段々大声になっていったものだった。その上、ネイティに突かれてやっと画面を確認しだすパターンはずっと変わっていない。フリードは愉快に思う。
「引き止めて悪かったな」
「ううん、大丈夫。 また君の目が覚めるようなひらめきと整理のなされた論考、期待してる。君が研究を続けてて嬉しかった」
じゃあね、と湿原の入口に駆けていく背中を見送ったフリードはふと思い当たった。まだ研究を続けているなんてことを告げなかったことに。以前雑誌に載ったのは数年前のことだ。見てたのか、とフリードは背筋が伸びる思いがした。
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