ゲーム作品
テレビで見る硲は、相変わらず堂々と立って声を張っていた。もっとも、硲道夫という男について自分が知っていることはわずかな記憶しかない。それも、大したことのない思い出だ。彼がテレビに出ているのを見、自己紹介で名乗っているのを見てやっと思い出すくらいの。
自分たちの行っていた大学には附属の高校があって、教員課程かつ地方出身者はそこで実習をすることになっていた。おれや、硲のような。硲とはそれまでほとんど話したことはなかった。授業中座るエリアも違ったし、ランダムに組まされたグループワークでも一緒になることは一度もなかった。実習だって教科がそもそも違ったし、モチベーションだって天地の差があった。おれはあくまでも潰しが利くかもしれない資格として教員課程を履修しているクチだ。一方の硲はちゃんと教師を目指している履修者であった。おれのような人間は、さも教師になりたいですという顔をして、教育実習に行ったのだ。
教育実習は大抵自分の無知無能との闘いである。専門でもない、いや専門の単元でも生徒からの質問にいちいちぎくりとし、指導教員に授業後間違いを指摘されるようなことばかりだった。こういう時慰めになるのは、年が近いことを理由に懐いてくれる生徒たちである。おれはよくも悪くも威厳がなかったから、彼らもとっつきやすかったのだろう。
一方の硲は、おれと正反対に万全の授業準備と堂々たる態度で教壇に立っていた。少なくとも研究授業を見る限りでは。
「それではこの式を……む、起きなさい、田中くん」
船を漕いでいる生徒を起こすその背中はぴんと伸びていて、翳りは一切ないように見えた。こういう奴が本当に教師になるんだな、と授業準備で寝不足の頭で考えたのを覚えている。ただ、だからこそというべきか。生徒からは遠巻きにされていたようだった。大体において生徒たちは実習生を教師でも生徒でもない中途半端な生き物として見ているが、硲については厳しい教員と同じような目線で警戒されていたように思う。そのことについて、硲が同じ数学科の実習生に相談していたことを、おれは後から知った。
結局硲とは、実習の間も二言三言、お互いの研究授業に対しての意見交換をしたくらいだった。何を言ったか、何を言われたかはもう覚えていない。二週間の教育実習が終わったあとの飲み会ですら、特に会話はしなかった。いや、できなかったというのが正しいのかもしれない。
というのも、解放感と疲労でやたら明るい宴席の中で硲は早々に寝落ちていたからだ。傍らには飲みかけのジョッキがあった。真面目で隙がないように見えた硲が、ワイシャツであることも構わずに油でべとついた居酒屋のテーブルに突っ伏していることにおれは驚いた。さすがに無防備な寝顔を見ながら、こいつも実は気を張っていたのかと想像した。
自分たちの行っていた大学には附属の高校があって、教員課程かつ地方出身者はそこで実習をすることになっていた。おれや、硲のような。硲とはそれまでほとんど話したことはなかった。授業中座るエリアも違ったし、ランダムに組まされたグループワークでも一緒になることは一度もなかった。実習だって教科がそもそも違ったし、モチベーションだって天地の差があった。おれはあくまでも潰しが利くかもしれない資格として教員課程を履修しているクチだ。一方の硲はちゃんと教師を目指している履修者であった。おれのような人間は、さも教師になりたいですという顔をして、教育実習に行ったのだ。
教育実習は大抵自分の無知無能との闘いである。専門でもない、いや専門の単元でも生徒からの質問にいちいちぎくりとし、指導教員に授業後間違いを指摘されるようなことばかりだった。こういう時慰めになるのは、年が近いことを理由に懐いてくれる生徒たちである。おれはよくも悪くも威厳がなかったから、彼らもとっつきやすかったのだろう。
一方の硲は、おれと正反対に万全の授業準備と堂々たる態度で教壇に立っていた。少なくとも研究授業を見る限りでは。
「それではこの式を……む、起きなさい、田中くん」
船を漕いでいる生徒を起こすその背中はぴんと伸びていて、翳りは一切ないように見えた。こういう奴が本当に教師になるんだな、と授業準備で寝不足の頭で考えたのを覚えている。ただ、だからこそというべきか。生徒からは遠巻きにされていたようだった。大体において生徒たちは実習生を教師でも生徒でもない中途半端な生き物として見ているが、硲については厳しい教員と同じような目線で警戒されていたように思う。そのことについて、硲が同じ数学科の実習生に相談していたことを、おれは後から知った。
結局硲とは、実習の間も二言三言、お互いの研究授業に対しての意見交換をしたくらいだった。何を言ったか、何を言われたかはもう覚えていない。二週間の教育実習が終わったあとの飲み会ですら、特に会話はしなかった。いや、できなかったというのが正しいのかもしれない。
というのも、解放感と疲労でやたら明るい宴席の中で硲は早々に寝落ちていたからだ。傍らには飲みかけのジョッキがあった。真面目で隙がないように見えた硲が、ワイシャツであることも構わずに油でべとついた居酒屋のテーブルに突っ伏していることにおれは驚いた。さすがに無防備な寝顔を見ながら、こいつも実は気を張っていたのかと想像した。
