ゲーム作品

腹の中心、正中線のあたりをなぞられた審神者は思わず体をよじらせた。いかに信頼のおける刀でも、いやむしろ人の形をとった刀に触れられているからこそ肌が粟立つのかもしれなかった。
南海太郎朝尊は興味深げに審神者の臍を見る。
「同じようなものは自分にもあるでしょ」
「"同じようなもの"でしかないがね」
がば、と朝尊はおもむろに自分の服をまくり上げる。刀を振るうことに必要十分なだけの筋肉がついた腹に、たしかに臍がついていた。ただしそれは胎盤に繋がっていた跡ではない。人の体を模しているだけだ。朝尊が己の体と審神者の体を見比べているのと同じく、審神者も朝尊の体を観察していた。そうでもなければ恋仲でもない相手に普段は隠れているところを触らせたりはしない。今は長時間の遠征で席を外している初期刀――陸奥守吉行――にこのことがばれたら審神者も朝尊もみっちり怒られるに違いなかった。とはいえ色っぽい雰囲気には毛頭ならないのだが。
朝尊は審神者の腹に痣があるのを見つける。これは、と問うと審神者は何の気なしに生まれつきでねと答えた。刀である朝尊は、後からついた傷は手入れで治ってしまうし生まれつきの傷などなかった。それは彼を形作る物語の要素ではないからだ。筋肉だって増減したりするわけではない。審神者が、ここに来てから運動しなくなって肉がついたとぼやいていたのはここの刀であれば誰でも知っている。
逆に、審神者は朝尊の腹を撫でてこの中の身体機能が稼働しているのか問うた。
「さぁね。結果として僕らは腹も減るし排泄もするが、中がどうなっているのかこの僕は分からないな」
「調べてみたいとは、思わないの」
「時の政府が実験していないはずはないと思うがね。ただここに来る前、政府の仕事をしていたときに調べようとしたんだが見つからなかった。プロテクトがかかっているのか、結果ごと闇に葬り去られたか」
そこで朝尊は言葉を切って、審神者の方を見つめた。
「君が気になるのであれば、僕で実験してくれても構わないがね」
朝尊は審神者の手首を掴み、手のひらを己の腹に当てさせる。体温はあるのかもしれないが、かすかすぎて審神者にはただ冷たいだけに感じられた。審神者は一瞬、学生時代に解剖したカエルのことを思い出した。変温動物ではなく、命を奪われたものの生々しい冷たさと、しかし自分とは違う種族の死体であるという無感動さを。目の前の存在は自分と同じような姿かたちをしている。しかし命の在り方という点では、カエルよりも遠い存在に思えた。
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