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花火大会のリポートを行う場所に向かうS.E.Mの三人だったが、珍しい出店に類と次郎が引き寄せられたために道夫は一人離れたところで待っていた。すると、先生! と呼ぶ子どもの声がして、道夫は反射的にそちらを振り向く。この職業病はずっと抜けないままだろう。出店でにぎわう道を駆ける子どもたちは、同じ人間の前で立ち止まる。
「人にぶつかったら危ないでしょ」
「先生、遊びに来たの?」
「違いまーす」
先生、と呼ばれているのはラフな格好をした道夫と同じくらいの年の人間だった。その顔に道夫は見覚えがある。もしかして、と心当たりの名前を呼ぶと彼女が道夫のほうを向いた。
「硲くん!」
成人式ぶりだっけ、と懐かしがる彼女の周りの子どもたちも道夫に気が付く。セムじゃん、やら道夫だ、やら他の二人は? と好機の目を向けてくる彼らに道夫は視線を合わせる。
「こんばんは、S.E.Mの硲道夫だ。あとの二人は少し席を外している」
「こら、呼び捨てしない」
子どもたちをたしなめる彼女は、道夫の小中学校の同級生であった。子どもの頃を知っている相手がいっぱしの教員の顔をしているのに、道夫は感慨深さを覚えた。今回の花火大会の主催をしている彼といい、故郷で活躍している同期が多いことを彼は嬉しく思う。
「そうか、君は小学校の教員になったのか」
「硲くんも同じようなものでしょ。今日だって花火大会だけど二人とも仕事なんだし」
肩にかけたタオルで、彼女は汗を拭った。地域の子ども会が出している出店を手伝っているという。自分の両親も祭りのときにはそうしていたことを道夫は思い出した。
「先生って道夫……さんの友達なの?」
「そうだよ。なんなら先生も硲くんもあなたたちの小学校の先輩だよ」
すご! とはしゃぐ彼らの腕には、使い捨ての光る腕輪が輝いている。彼女は教え子たちに慕われているようだった。
「良い先生なのだな」
「いきなり何なの」
まっすぐに褒められて彼女は照れ臭くなる。硲という同級生はお世辞などを言わないことが分かっているからだ。特別仲がよいわけではなかったが、同じクラスになったことは何度もある。それゆえ何となく性質などは分かっているつもりであった。だが、当時の印象よりも表情が柔らかいように感じる。そういえば、と彼女は思う。忙しさゆえに道夫が活躍していることは知っていたが、ちゃんと雑誌やらテレビやらを見たことはなかった。それでも噂は聞いていたが、いざこうして直接会って子どもたちに囲まれているのを見ると社交辞令でもひがみでもない言葉が素直に湧いてくる。
「硲くんも良いアイドルで、先生なんだろうね」
道夫はきっかり二回瞬きをする間に言われたことを咀嚼する。
「あぁ、舞田くんと山下くんも、良いアイドルで、先生だ」
会場にアナウンスがかかる。そろそろ道夫はリポートの仕事が始まるし、彼女も子ども会の手伝いに戻るようだった。五分足らずの会話であったが、道夫も彼女も再会を喜び合えた。
お互い頑張ろうね、という彼女の言葉は活躍する場所こそ違えど、たしかに戦友に向けたものであった。そのことを道夫はとても嬉しく思う。改めてあと一時間たらずで始まるリポートへの気合いを入れなおすのだった。リポートが終わったら、今の話を類や次郎、プロデューサーにも聞いてほしかった。
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