吸死

梅雨が明けたばかりの容赦ない日差しに、ロナルドは目を細めた。じいじいと鳴くセミの鳴き声が余計に暑苦しい。こんな昼下がりに活動するなんて久しぶりのことだ。駅前に植えられたサルスベリがさわさわと花を揺らしている。その木の下に立っている彼女がロナルドに気が付いて手を振った。
川から吹く風が涼しいのは幸いだった。それでもすぐに汗ばむ程度の陽気ではあるのだが。川沿いの並木道を、ロナルドは恋人と並んで歩く。二人の横を、制服を着た学生たちが自転車で走り抜けていった。部活終わりかなあ、土曜なのにえらいねえと彼女が呟く。暑いしな、とロナルドは答える。彼女がハンカチで汗をぬぐう。彼女と付き合ってはじめてロナルドは異性の汗のにおいを知った。木漏れ日が彼女の被っているカンカン帽に影をつくる。身長の高いロナルドの視線を帽子のつばが遮るせいで、彼女の顔を見るのが難しくなっている。でも歩いているときまで顔を見たいというのも気恥ずかしい。繋いだ手の汗を彼女は気にしていないだろうか。付き合って半年以上経つが、いまだにロナルドは恋人に何を言っていいのか分からなくなることがある。彼女はそんなロナルドに構わず、繋いでいないほうの手でスマートフォンを操作している。これから行くカフェの場所を確認しているのだ。彼女が店名を確認してきたので、不意をつかれたロナルドはそうそれ、とだけ答えた。
「同僚のやつが言うには、ココアのかき氷だかが有名らしい」
同僚とはショットのことである。甘いものについて詳しくないロナルドは時々そういう店に詳しいショットの知恵を借りている。珍しいよね、と彼女が笑いを含んだ声で答える。ロナルドにとっては、カフェにわざわざかき氷を食べに行く文化からしてよく分からなかったので曖昧にうなずく。彼女が(たぶん)笑っている理由も分からない。鼻歌を歌い始めたようだったので機嫌はいいのだろう。少し迷った末、ロナルドは馬鹿正直に機嫌のいい理由を聞くことにした。すると彼女はロナルドの問いかけに顔を上げた。帽子と木漏れ日で作られた影の中で、彼女の目が光っていた。
「仕事人間っぽいロナルドくんが、仕事仲間にデートのお店訊いたんだなぁと思って」
「それだけ?」
「だって会ってないときも、ロナルドくんが私のことを考えてくれたってことでしょう」
そんなのわりといつも考えてる、とすぐに言える性格だったらもっと違っただろうか。少なくとも交際がもっと早く始まっていたかもしれない。ロナルドと違って彼女は今の自分の言葉に照れたりしていないようだった。
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