ゲーム作品
父方の祖父が亡くなった。老衰である。散歩仲間の老婦人が、姿を見かけないのを心配してジュンサーさんに連絡してくれたそうだ。
旅に出たばかりの弟はいったん切り上げて帰ってくる必要があった。スクールの講師をしていた祖父の葬儀にはかつての教え子が入れ代わり立ち代わり挨拶に来て、その対応が途切れて一息ついたとき、母がそういえばと辺りを見回した。
「ボチは?」
ボチは祖父が講師を引退後唯一手持ちに残していたポケモンである。それ以外のポケモンはスクールに残り子どもたちの相手をしていると聞いた。若い内に病死した祖母の墓参りに行ったときに着いてきたらしい。生まれ変わりとかを信じてるわけじゃあないが、と祖父が皺々の手で膝の上のボチを撫でているのを覚えている。そのボチがどこにもいなかった。私はそんなに広くはない祖父の家の隅々まで弟と見て回った。もう夜の闇に飲まれた庭も。ボチはあのモモンの木の根本に埋まるのが好きだった。しかし芝生の薄くなったそこは、ボチがいるならぼんやりと照らされているはずなのに周囲と同じく真っ暗である。煙のようにボチは我々のもとからいなくなった。昨日まではたしかに足元を転がるように走っていたのに。
弟と手分けして近所を探し回ったが、やはりボチは見つからなかった。ボチのにおいを追わせていた私のパルスワンもさも不本意ですというふうに首を振る。お手上げだ。ありがとう、と私はパルスワンを撫でる。
あれ以外のボチを私はよく知らないが、きっと賢い方だったのではないかと思う。私が幼い頃、祖父の家に遊びに行く理由はたいていボチだった。遊ぼうと声をかけてボチが応じなかったことはない。庭に落ちている適当な枝を投げては拾ってこさせたり一緒に転がりまわったりしていた。ただしある程度遊ぶとボチはスッと遊ぶのをやめてしまい、私達を見守っていた祖父の足元で丸くなるのが常だった。大きくなるまで、なんて飽き性なポケモンなのだと思っていた。ボチが人間の生気を吸ってしまうというのを知ったのは旅に出て、自分で図鑑を参照するようになってからだ。年の離れた弟もまた、幼い私と同じようなことを思いポチに文句を言っていた。ボチはどこ吹く風というような感じだったが、私は一応彼の名誉のために弟には説明してやったのだ。相槌のように鳴いたボチの頭の蝋燭は若いのが二人近くにいるからか、少し明るい気がした。あの性質はボチという種全体に共通のものだし、祖父のボチはそれをわかっていたのだろう。やはり賢いポケモンであった。
祖父の亡骸が見つかったとき、その傍らに寄り添うようにうずくまっていたという話をジュンサーさんから聞いた。どこへ行ってしまったのだろう。
帰ってきてもやはりボチはいなかった。祖父の眠る墓場へ探しに行った弟と母も首を振る。ゴーストタイプに老いの概念があるか、私は正直よく分からない。しかし少なくとも私より年上のあのポケモンが無意味に姿を消すとは思えなかった。このあたりには他のポケモンや人間を襲うような凶暴な野生ポケモンも出ないはずだ。それにあのボチはバトルもわりに強かった。
「親父に着いていったのかもしれないな」
香典の整理をしていた父がぼそりと言った。ゴーストタイプのポケモンたちはそのタイプの通り我々に見えてないものが見えているらしい。そうであるならば肉体から離れた祖父にボチが付き従っているのも道理に思えた。
旅に出たばかりの弟はいったん切り上げて帰ってくる必要があった。スクールの講師をしていた祖父の葬儀にはかつての教え子が入れ代わり立ち代わり挨拶に来て、その対応が途切れて一息ついたとき、母がそういえばと辺りを見回した。
「ボチは?」
ボチは祖父が講師を引退後唯一手持ちに残していたポケモンである。それ以外のポケモンはスクールに残り子どもたちの相手をしていると聞いた。若い内に病死した祖母の墓参りに行ったときに着いてきたらしい。生まれ変わりとかを信じてるわけじゃあないが、と祖父が皺々の手で膝の上のボチを撫でているのを覚えている。そのボチがどこにもいなかった。私はそんなに広くはない祖父の家の隅々まで弟と見て回った。もう夜の闇に飲まれた庭も。ボチはあのモモンの木の根本に埋まるのが好きだった。しかし芝生の薄くなったそこは、ボチがいるならぼんやりと照らされているはずなのに周囲と同じく真っ暗である。煙のようにボチは我々のもとからいなくなった。昨日まではたしかに足元を転がるように走っていたのに。
弟と手分けして近所を探し回ったが、やはりボチは見つからなかった。ボチのにおいを追わせていた私のパルスワンもさも不本意ですというふうに首を振る。お手上げだ。ありがとう、と私はパルスワンを撫でる。
あれ以外のボチを私はよく知らないが、きっと賢い方だったのではないかと思う。私が幼い頃、祖父の家に遊びに行く理由はたいていボチだった。遊ぼうと声をかけてボチが応じなかったことはない。庭に落ちている適当な枝を投げては拾ってこさせたり一緒に転がりまわったりしていた。ただしある程度遊ぶとボチはスッと遊ぶのをやめてしまい、私達を見守っていた祖父の足元で丸くなるのが常だった。大きくなるまで、なんて飽き性なポケモンなのだと思っていた。ボチが人間の生気を吸ってしまうというのを知ったのは旅に出て、自分で図鑑を参照するようになってからだ。年の離れた弟もまた、幼い私と同じようなことを思いポチに文句を言っていた。ボチはどこ吹く風というような感じだったが、私は一応彼の名誉のために弟には説明してやったのだ。相槌のように鳴いたボチの頭の蝋燭は若いのが二人近くにいるからか、少し明るい気がした。あの性質はボチという種全体に共通のものだし、祖父のボチはそれをわかっていたのだろう。やはり賢いポケモンであった。
祖父の亡骸が見つかったとき、その傍らに寄り添うようにうずくまっていたという話をジュンサーさんから聞いた。どこへ行ってしまったのだろう。
帰ってきてもやはりボチはいなかった。祖父の眠る墓場へ探しに行った弟と母も首を振る。ゴーストタイプに老いの概念があるか、私は正直よく分からない。しかし少なくとも私より年上のあのポケモンが無意味に姿を消すとは思えなかった。このあたりには他のポケモンや人間を襲うような凶暴な野生ポケモンも出ないはずだ。それにあのボチはバトルもわりに強かった。
「親父に着いていったのかもしれないな」
香典の整理をしていた父がぼそりと言った。ゴーストタイプのポケモンたちはそのタイプの通り我々に見えてないものが見えているらしい。そうであるならば肉体から離れた祖父にボチが付き従っているのも道理に思えた。
