ゲーム作品
日曜の朝、無人の事務所でプロデューサーは溜まった書類仕事であったりアイドルの仕事に関する問い合わせを片付けていた。朝からの収録へゆくアイドルを送り届けて社用車を置きに来たついでである。どのみち迎えに行く必要もあるのだ。
急ぎの問い合わせを来ている分打ち返すと、彼女は一服しようと席を立った。
いつもは屋上まで登っているが、無人であったから事務所の窓を開けるだけにとどめた。タバコを持った手を窓枠から外へ突き出す。ひとりだけのために暖房を付けるのも憚られて、屋外と屋内の気温差はいつもより小さい。北風が吐き出した紫煙をすぐに流していった。もう一度煙を吸い込んでいるプロデューサーの耳に、階段を登る足音が聞こえた。誰も来ないはずの事務所の扉が開き、おはようございますと挨拶が聞こえた。その声の主を認識したプロデューサーは吸っていたタバコを携帯灰皿に押し付けて消した。
開いた窓からはビル風が容赦なく吹き込み、タバコの臭いをかき消してゆく。
「おはようございます、百々人さん。電気つけてください、あと暖房も」
プロデューサーから頼まれごとをされたのを百々人は嬉しく思う。照明の明るさにプロデューサーは目を細めながら自席に戻る。
「朝ごはんは食べましたか?」
「ここで食べようと思って。ぴぃちゃんは?」
「私もまだです」
「じゃあさ、一緒に食べようよ」
「いいですよ」
仕事が一段落してからでいいから、と百々人が付け加える前にプロデューサーはあっさりと承諾して、冷蔵庫へ向かった。レジ袋ごと冷やされた朝食を取り出し、百々人の向かいのソファに座る。当たり前のように優先された百々人は、嬉しさを感じると同時にこの人は他のアイドルにもそうなのだろうということを考えている。特に自分含め未成年のアイドルには。
お得用のウェットティッシュケースから一枚引っ張り出し、プロデューサーは机を拭く。その際に少しだけ二人の距離が近づく。本人は喫煙者であることをアイドルの前でおくびにも出さないが、かすかにタバコの臭いがするのを百々人は感じ取った。彼の学校にも喫煙者の教師は何人かいるし、その教師たちがいつタバコを吸っているのかは臭いで生徒にばれている。だが百々人はクラスメイトたちが担任に対してするように、事更に指摘しようとは思っていない。それはこうしてたまの日曜日、事務所で仕事をしているプロデューサーを横で眺めているからだ。思考に没頭し始めて腕を組みかけてやめるところや、利き手の人差し指で机を叩こうとして、指先を引っ込めるところを。運転のとき以外、誰が話しかけても必ず手を止めてこちらの顔を見てくれる。
プロデューサーがそれらを無意識ではなく努力で行っていることを百々人は分かっている。親や教員以外の関係で、そういった大人が自分を見出して、認めてくれたことは奇跡だ。だから報い続けたい。そしてずっと近くにいられればと百々人は願う。
朝食と一緒に買った紙パックの甘い紅茶にストローをさす。学生しか飲まないらしいが色々な年代に囲まれているプロデューサーはいちいち懐かしがらない。そのことが余計に立場の差をはっきりさせる。ストローをくわえながら彼は物思いにふける。
(成人したらタバコを一本吸いたいな)
その一本は、きっとプロデューサーの隣で吸うだろう。タバコを吸うアイドルはきっとプロデューサーの求めるアイドルではない。しかしその頃には、そのくらいの揺らぎをプロデューサーが受け入れてくれることを、百々人は心底信じられているだろう。
急ぎの問い合わせを来ている分打ち返すと、彼女は一服しようと席を立った。
いつもは屋上まで登っているが、無人であったから事務所の窓を開けるだけにとどめた。タバコを持った手を窓枠から外へ突き出す。ひとりだけのために暖房を付けるのも憚られて、屋外と屋内の気温差はいつもより小さい。北風が吐き出した紫煙をすぐに流していった。もう一度煙を吸い込んでいるプロデューサーの耳に、階段を登る足音が聞こえた。誰も来ないはずの事務所の扉が開き、おはようございますと挨拶が聞こえた。その声の主を認識したプロデューサーは吸っていたタバコを携帯灰皿に押し付けて消した。
開いた窓からはビル風が容赦なく吹き込み、タバコの臭いをかき消してゆく。
「おはようございます、百々人さん。電気つけてください、あと暖房も」
プロデューサーから頼まれごとをされたのを百々人は嬉しく思う。照明の明るさにプロデューサーは目を細めながら自席に戻る。
「朝ごはんは食べましたか?」
「ここで食べようと思って。ぴぃちゃんは?」
「私もまだです」
「じゃあさ、一緒に食べようよ」
「いいですよ」
仕事が一段落してからでいいから、と百々人が付け加える前にプロデューサーはあっさりと承諾して、冷蔵庫へ向かった。レジ袋ごと冷やされた朝食を取り出し、百々人の向かいのソファに座る。当たり前のように優先された百々人は、嬉しさを感じると同時にこの人は他のアイドルにもそうなのだろうということを考えている。特に自分含め未成年のアイドルには。
お得用のウェットティッシュケースから一枚引っ張り出し、プロデューサーは机を拭く。その際に少しだけ二人の距離が近づく。本人は喫煙者であることをアイドルの前でおくびにも出さないが、かすかにタバコの臭いがするのを百々人は感じ取った。彼の学校にも喫煙者の教師は何人かいるし、その教師たちがいつタバコを吸っているのかは臭いで生徒にばれている。だが百々人はクラスメイトたちが担任に対してするように、事更に指摘しようとは思っていない。それはこうしてたまの日曜日、事務所で仕事をしているプロデューサーを横で眺めているからだ。思考に没頭し始めて腕を組みかけてやめるところや、利き手の人差し指で机を叩こうとして、指先を引っ込めるところを。運転のとき以外、誰が話しかけても必ず手を止めてこちらの顔を見てくれる。
プロデューサーがそれらを無意識ではなく努力で行っていることを百々人は分かっている。親や教員以外の関係で、そういった大人が自分を見出して、認めてくれたことは奇跡だ。だから報い続けたい。そしてずっと近くにいられればと百々人は願う。
朝食と一緒に買った紙パックの甘い紅茶にストローをさす。学生しか飲まないらしいが色々な年代に囲まれているプロデューサーはいちいち懐かしがらない。そのことが余計に立場の差をはっきりさせる。ストローをくわえながら彼は物思いにふける。
(成人したらタバコを一本吸いたいな)
その一本は、きっとプロデューサーの隣で吸うだろう。タバコを吸うアイドルはきっとプロデューサーの求めるアイドルではない。しかしその頃には、そのくらいの揺らぎをプロデューサーが受け入れてくれることを、百々人は心底信じられているだろう。
