ゲーム作品
いかなチェーンのコンビニのアルバイトといえど、その店舗が時の政府の建屋に併設されている以上は身元がたしかな人間しか働けないらしい。三親等以内が政府職員、とか。母さんありがとうおかげでバイト探しに悩まなくて済みました。
実際客層が限定されてるだけあってそれなりに民度もいい。昼時はまぁ忙しいけどそれを過ぎてしまえば穏やかだし、季節による繁忙期もあまり波がない。これが刀剣男士用のお守りだったり、鍛刀用の資材を販売している店だとそうはいかない、とはそういう店の経験もある店長の言葉だ。元々は万屋という審神者専用の店で働いていたらしい。
「いやあ、突然新しい刀が鍛刀できるようになったりとかするからね、そうなったら戦場だよ。向こうも戦力の増強に躍起だからね。死んでも客を捌ききれってよく店長が叫んでたよ」
自分にとっての店長が他の人を店長と呼んでいるのは何か不思議な感覚がした。ともかく、このコンビニは通年穏やかな職場だ。
一年も同じような時間帯で働いていると、なんとなく見知った顔が増えてくる。毎週木曜日にエナドリを二本買っていく寝癖が目立つスーツの男性職員や、食堂のおばちゃん――こっちが食堂を利用することもある――、そして政府所属の刀剣男士だ。そもそも一般人が刀剣男士と関わる機会なんて、ほとんどない。小中の社会科見学やら、政府主催の広報イベント、または街中で何らかの任務をしている姿を見かけるくらいだ。
ここで働くようになってから、来店する刀剣男士が本丸所属なのか政府所属なのか大体見分けがつくようになってきた。まず本丸に所属している刀剣男士は、必ず主が近くにいるし、大体会計をするのもその主である人間のほうだ。たまに男士だけで来ることもあるが、目の届くところに必ず審神者がいる。政府所属の男士たちは、大体刀剣複数人もしくは職員も混ざった何人かで来ることが多い。だいたいセキュリティカードを兼ねた名札を首から下げているので、それでまず判別がつくが。本丸所属の刀はだいたい主以外の人間にあまり興味がないというか、意識ががっちり固まっているし高頻度で来るわけではないので馴染みが薄いが、政府所属の刀剣男士には何人か顔見知りもできた。彼らはだいたい人懐っこく挨拶してくる。子供の見た目をしている刀から大人の見た目をしている刀まで。子供の見た目をしていても子供ではないことは、母から釘を刺されていた。しかし、気を付けなきゃいけないことは分かっていても最初の頃はつい子供扱いしそうになった。中学のとき、下手に児童館のボランティアなんかやったせいだ。
対して、見た目がどう見ても大人の刀剣男士たちは気が楽だった。たしかに格好や、髪や目の色は変わっているけれど大人の見た目をしているだけで自分の未知の存在であることがはっきりとわかる。赤い紐の職員証を下げた鶴丸国永もその一人だった。刀剣男士はみな好意的な態度をとってくれるが、彼は特に話しかけてくれることも多かった。
「よお! 新顔かい?」
「は、はい。母の紹介で……」
「学生かい?」
「はい、高二、いや、高校二年生です」
「……あまり業務中に絡んでやるな」
好奇心が止まらないという顔をした鶴丸さんを褐色の肌をした、自分より少し年上くらいの見た目の刀剣男士(彼も刀を持っていたので)が止めた。いや自分は大丈夫です! と反射的に答える。実際昼時ではないので客足は落ち着いていた。静かな店内に俺の声が響く。お菓子の補充をしていた先輩の小川さん(母より少し年下のおばさま)がこっちを見たけど、あぁ刀剣の方と話しているのねなんて微笑んで作業に戻っていった。そして鶴丸さんも俺の大声を聞いて面白そうに目を輝かせる。
「そうか、きみも伽羅坊もいい子だなぁ」
「……俺はあんたより先に顕現してるんだが」
伽羅坊と呼ばれた刀剣男士のぼやきを無視して、鶴丸さんはパックの紅茶を二つ、レジに持ってきた。
「すまんがこれも頼む」
「大丈夫ですよ、他にお客さんもいませんし」
特に何の感情もなくレジ作業をする。置かれたパックのひとつを鶴丸さんは手に取り、差し出してきた。
「受け取ってくれ。じじいからのお節介だ」
どこぞのあいつではないが、子どもには何かと与えたくなるよなあと鶴丸さんは笑う。どこぞのあいつが誰だかは知らないがありがたく受け取った。
以来、この鶴丸さんはよく話しかけてくれるようになった。他にも政府鶴丸国永はいたが、職員証を下げている紐の色が違ったり、彼よりも親しげな目線は投げてこなかったから区別は簡単についた。学校の話を聞きたがったり、たまに飲み物を差し入れてくれたり何かと構ってもらった。あと限定で出ている変な味のお菓子(明太子味のチョコレートとか、グレープフルーツ味のポテトチップスとか)をもらって食べたりもした。休憩時間に外でぼーっとしているとたまに声をかけられて、休憩時間ならいいだろうと渡してくるのだ。その場で食べてコメントに困る自分を鶴丸さんは愉快そうに見ていた。
今年の二学期期末が終わったあたりで、鶴丸さんのことをぱったりと見なくなった。テスト期間はほとんどシフトに入らないから向こう半月くらいは彼のことを見ていない。その前までは週半分くらいは顔を合わせていたのに。不思議に思ったが、部署移動とかもあるかもしれないしなとあまり気にはしていなかった。冬休みになってシフトが増えたからいつか会えるだろう。
そうして普通に品出しをしていたときだった。よく見る組み合わせ――燭台切光忠と大倶利伽羅――が弁当の棚の前で何やら話していた。わざわざ聞き耳をたてたつもりはなかったのだが、燭台切のほうがやや強い口調で話していたから聞こえてしまった。
「ねえ、最近ちゃんと食べてる?」
よく見る似たやり取りよりも、切実な響きがした気がした。悪いと思いつつ野次馬根性が勝って彼らの方を見る。大倶利伽羅の首からは赤い紐の職員証が下がっていた。あの鶴丸さんと同じ部署の大倶利伽羅だ。煩わしそうに大倶利伽羅が燭台切光忠の手を跳ねのける。そんなこと、と燭台切光忠が叫んで、それから声を潜めて続けた。でも他に客もなく、聞き耳をたてていた自分には聞こえてしまった。
「そんなこと、鶴さんは望んでなかった」
過去形で語られた「鶴さん」が誰のことなのか、察することができてしまった。
(あぁ、折れたのか)
血がさぁっと頭から引いた感じがした。貧血の感覚に似ている。まだ両方の祖父母も健在だから、自分は葬式に出たことすらない。ペットも飼っていない。知っている存在がこの世からいなくなったのは初めてだった。
世間話をするだけの関係だったし、そもそも霊力とかないけど、でも、あぁそうかと納得をしてしまった。いつの間にか止めていた息を吐く。
レジを背にして俯いている燭台切光忠の首を、青い色が一周していた。職員証の紐の色が違うということは、あのふたりと、鶴丸さんはいつからの付き合いなのだろうか。もし鶴丸さんが生きていたら、あの燭台切光忠を紹介してくれただろうか。もうすぐ受験生になるから、自分はこのバイトを辞める。結局一番話したのは鶴丸さんだった。駅前で刀剣男士を保護するデモをしていたことを思い出した。刀剣男士だって人間と同じように生きている。その主張の正誤は自分には分からない。だけど同じ姿かたちをしていることは、刀剣男士と人間の違いを証明しきるものではないように思えた。
実際客層が限定されてるだけあってそれなりに民度もいい。昼時はまぁ忙しいけどそれを過ぎてしまえば穏やかだし、季節による繁忙期もあまり波がない。これが刀剣男士用のお守りだったり、鍛刀用の資材を販売している店だとそうはいかない、とはそういう店の経験もある店長の言葉だ。元々は万屋という審神者専用の店で働いていたらしい。
「いやあ、突然新しい刀が鍛刀できるようになったりとかするからね、そうなったら戦場だよ。向こうも戦力の増強に躍起だからね。死んでも客を捌ききれってよく店長が叫んでたよ」
自分にとっての店長が他の人を店長と呼んでいるのは何か不思議な感覚がした。ともかく、このコンビニは通年穏やかな職場だ。
一年も同じような時間帯で働いていると、なんとなく見知った顔が増えてくる。毎週木曜日にエナドリを二本買っていく寝癖が目立つスーツの男性職員や、食堂のおばちゃん――こっちが食堂を利用することもある――、そして政府所属の刀剣男士だ。そもそも一般人が刀剣男士と関わる機会なんて、ほとんどない。小中の社会科見学やら、政府主催の広報イベント、または街中で何らかの任務をしている姿を見かけるくらいだ。
ここで働くようになってから、来店する刀剣男士が本丸所属なのか政府所属なのか大体見分けがつくようになってきた。まず本丸に所属している刀剣男士は、必ず主が近くにいるし、大体会計をするのもその主である人間のほうだ。たまに男士だけで来ることもあるが、目の届くところに必ず審神者がいる。政府所属の男士たちは、大体刀剣複数人もしくは職員も混ざった何人かで来ることが多い。だいたいセキュリティカードを兼ねた名札を首から下げているので、それでまず判別がつくが。本丸所属の刀はだいたい主以外の人間にあまり興味がないというか、意識ががっちり固まっているし高頻度で来るわけではないので馴染みが薄いが、政府所属の刀剣男士には何人か顔見知りもできた。彼らはだいたい人懐っこく挨拶してくる。子供の見た目をしている刀から大人の見た目をしている刀まで。子供の見た目をしていても子供ではないことは、母から釘を刺されていた。しかし、気を付けなきゃいけないことは分かっていても最初の頃はつい子供扱いしそうになった。中学のとき、下手に児童館のボランティアなんかやったせいだ。
対して、見た目がどう見ても大人の刀剣男士たちは気が楽だった。たしかに格好や、髪や目の色は変わっているけれど大人の見た目をしているだけで自分の未知の存在であることがはっきりとわかる。赤い紐の職員証を下げた鶴丸国永もその一人だった。刀剣男士はみな好意的な態度をとってくれるが、彼は特に話しかけてくれることも多かった。
「よお! 新顔かい?」
「は、はい。母の紹介で……」
「学生かい?」
「はい、高二、いや、高校二年生です」
「……あまり業務中に絡んでやるな」
好奇心が止まらないという顔をした鶴丸さんを褐色の肌をした、自分より少し年上くらいの見た目の刀剣男士(彼も刀を持っていたので)が止めた。いや自分は大丈夫です! と反射的に答える。実際昼時ではないので客足は落ち着いていた。静かな店内に俺の声が響く。お菓子の補充をしていた先輩の小川さん(母より少し年下のおばさま)がこっちを見たけど、あぁ刀剣の方と話しているのねなんて微笑んで作業に戻っていった。そして鶴丸さんも俺の大声を聞いて面白そうに目を輝かせる。
「そうか、きみも伽羅坊もいい子だなぁ」
「……俺はあんたより先に顕現してるんだが」
伽羅坊と呼ばれた刀剣男士のぼやきを無視して、鶴丸さんはパックの紅茶を二つ、レジに持ってきた。
「すまんがこれも頼む」
「大丈夫ですよ、他にお客さんもいませんし」
特に何の感情もなくレジ作業をする。置かれたパックのひとつを鶴丸さんは手に取り、差し出してきた。
「受け取ってくれ。じじいからのお節介だ」
どこぞのあいつではないが、子どもには何かと与えたくなるよなあと鶴丸さんは笑う。どこぞのあいつが誰だかは知らないがありがたく受け取った。
以来、この鶴丸さんはよく話しかけてくれるようになった。他にも政府鶴丸国永はいたが、職員証を下げている紐の色が違ったり、彼よりも親しげな目線は投げてこなかったから区別は簡単についた。学校の話を聞きたがったり、たまに飲み物を差し入れてくれたり何かと構ってもらった。あと限定で出ている変な味のお菓子(明太子味のチョコレートとか、グレープフルーツ味のポテトチップスとか)をもらって食べたりもした。休憩時間に外でぼーっとしているとたまに声をかけられて、休憩時間ならいいだろうと渡してくるのだ。その場で食べてコメントに困る自分を鶴丸さんは愉快そうに見ていた。
今年の二学期期末が終わったあたりで、鶴丸さんのことをぱったりと見なくなった。テスト期間はほとんどシフトに入らないから向こう半月くらいは彼のことを見ていない。その前までは週半分くらいは顔を合わせていたのに。不思議に思ったが、部署移動とかもあるかもしれないしなとあまり気にはしていなかった。冬休みになってシフトが増えたからいつか会えるだろう。
そうして普通に品出しをしていたときだった。よく見る組み合わせ――燭台切光忠と大倶利伽羅――が弁当の棚の前で何やら話していた。わざわざ聞き耳をたてたつもりはなかったのだが、燭台切のほうがやや強い口調で話していたから聞こえてしまった。
「ねえ、最近ちゃんと食べてる?」
よく見る似たやり取りよりも、切実な響きがした気がした。悪いと思いつつ野次馬根性が勝って彼らの方を見る。大倶利伽羅の首からは赤い紐の職員証が下がっていた。あの鶴丸さんと同じ部署の大倶利伽羅だ。煩わしそうに大倶利伽羅が燭台切光忠の手を跳ねのける。そんなこと、と燭台切光忠が叫んで、それから声を潜めて続けた。でも他に客もなく、聞き耳をたてていた自分には聞こえてしまった。
「そんなこと、鶴さんは望んでなかった」
過去形で語られた「鶴さん」が誰のことなのか、察することができてしまった。
(あぁ、折れたのか)
血がさぁっと頭から引いた感じがした。貧血の感覚に似ている。まだ両方の祖父母も健在だから、自分は葬式に出たことすらない。ペットも飼っていない。知っている存在がこの世からいなくなったのは初めてだった。
世間話をするだけの関係だったし、そもそも霊力とかないけど、でも、あぁそうかと納得をしてしまった。いつの間にか止めていた息を吐く。
レジを背にして俯いている燭台切光忠の首を、青い色が一周していた。職員証の紐の色が違うということは、あのふたりと、鶴丸さんはいつからの付き合いなのだろうか。もし鶴丸さんが生きていたら、あの燭台切光忠を紹介してくれただろうか。もうすぐ受験生になるから、自分はこのバイトを辞める。結局一番話したのは鶴丸さんだった。駅前で刀剣男士を保護するデモをしていたことを思い出した。刀剣男士だって人間と同じように生きている。その主張の正誤は自分には分からない。だけど同じ姿かたちをしていることは、刀剣男士と人間の違いを証明しきるものではないように思えた。
